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第78話『野良猫系主人公』



「サトルくんは猫みたいな人なんです」



 病室で白いマフラーを首巻いた彼女のモモカが、ベッドで眠る僕の頭を叩きながら、そう言った。



「えーと、彼女は?」


「冬花ちゃん……でいいんですよね? 彼女なら、大丈夫です。サトルくんのおかげで軽い打撲だけで済んだらしいです」

「そうか。よかった……」



 その報告を聞いて、僕は心の底から安堵して、起き上げた頭がベッドの枕に沈んだ。


 あの時、僕と紫夏が落ちる前……実は、屋上の下で、僕の部屋のベランダからモモカが僕達の状況を把握して布団や毛布などクッションになるものを僕の部屋のベランダに用意していたのだ。


 ちょうど、僕達がぶら下がっていた真下の位置にボクの部屋があって本当に助かった。



「でも、ビックリしました……クロちゃんが窓に向かって鳴いているから外を見てみたら、サトルくんが女の子と一緒に屋上から落ちそうになっているんですから……」

「気づかせてくれたのは、おもクロ丸のおかげだったのか……でも、モモカのおかげで助かったよ」



 そこで、状況に気が付いた僕は冬花が落ちる場所がせめて僕の部屋のベランダになる様に冬花を引っ張り上げながら位置を調整したいたのだ。


 僕の部屋が七階という絶妙な高さだったのが救いだった。



「それで助かったって言えるんですか?」

「命があるだけマシだろ?」



 どうやら、僕は一ヵ月の入院生活を送ることになるらしい。


 自分の部屋のベランダに落下したとはいえ、十一階の屋上から七階のベランダへのダイブだ。冬花を守るために下敷きになったことで背中を強く打ち過ぎたのがいけなかったらしい。



「本当にサトルくんは猫みたいな人です」

「それ、どういう意味なの?」



 僕が起きた時も言っていたけど、僕って猫っぽいか?

 すると、モモカが拗ねたように僕のベッドにその大きい胸と顔を埋めながらこう言った。



「猫だから、餌をあげないとすぐに何処か行っちゃうんです」

「じゃあ、餌をおくれ?」


「いいですよ」



 軽い冗談で、いつもの胸枕を所望したつもりだったのだが、とんできたのは甘い口づけだった。


 しかし、キスよりも胸枕の方が楽しみたいと思うのは贅沢だろうか……。



「今はこれで我慢してください」



 ……どうやら、顏に出ていたらしい。



「片腕しか動かないのがもどかしい……」

「なら早く元気になってください」


「……はい」



 仕方ない。胸枕の為にも一ヵ月はここで療養するか。



「クロちゃんも待っていますから」

「おもクロ丸も待っているもんな」



「「…………」」



 何故か沈黙が流れた。


 ウチの猫は僕が命名権を貰ったはずなのに未だに彼女は『おもクロ丸』のことを『クロちゃん』と呼び続けるのだ。

 おかしいなぁ……。



「サトルくん」

「何?」



 すると、彼女が何かを見透かしているように、こう言った。



「私より先に死なないでくださいね」

「うん、分かっているよ」



 ……やっぱり、彼女にはかなわないなと僕は実感した。




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