第72話『最終決戦』
「ばぁっくしょん!」
「ミギャ~ッ!」
僕がくしゃみをすると、呑気にお高いキャットフードを食べていたおもクロ丸が驚いて天井まで飛び上がった。
「もう、サトルくん。クロちゃんをビックリさせないでください」
「……寒い」
「一人で川に飛び込んだ罰です」
「僕、川で死にかけたんだけど、もう少し優しくしてくれてよくない?」
「でも、サトルくん、生きているじゃないですか?」
そう、生きていた。
あの後、川に飛び込んだ僕はボクっ子をなんとか引き上げて河川敷に戻ろうとしたのだが、そこで力尽きて、ボクっ子もろとも溺れる寸前だった。
それを助けて切れたのがモモカだ。
彼女が来てくれなかったら、今頃、僕はボクっ子と一緒に川に流されていただろう。
「でも、よくあのタイミングで助けに来れたよな……」
僕がそう言うと、モモカは後ろでお高いキャットフードを食べ終えて手をペロペロしているおもクロ丸を持ち上げて言った。
「クロちゃんのおかげです」
どうやら、僕がこの部屋を抜け出した後、おもクロ丸が鳴き出したことでモモカは僕が夜中に抜け出したのに気づいて後を追いかけて来たらしい。
あの河川敷にも、おもクロ丸が導いてくれたのだとか。
そのお高いキャットフードは、死にそうな僕達を見つけたご褒美だったらしい。
そして、ボクっ子は――
「お風呂……ありがとう……」
ちょうど、お風呂から上がったボクっ子がタオルで頭を拭きながら部屋に入って来た。
当然、全裸ではなく、濡れて汚れた服の代わりにボクのTシャツを着ている。
その姿はまるで、彼シャツ――
「……サトルくん、何かいやらしいことを考えていませんか?」
「か、考えるわけ無いだろ!? ここここ、この胸だぞ!?」
突如、ジト目のモモカに指摘されて、僕がそう言うと、彼シャツ状態のボクっ子がタオルで身体を隠すようにして叫んだ。
「お、お兄ちゃん!? 何かめっちゃ失礼なこと言ったよね!? この胸ってどういう意味!」
すると、その様子を見て、モモカとおもクロ丸がさらにジト目で僕を見つめて来る。
「お兄ちゃん……って、どういうことですか?」
「ミャ~?」
いや……僕は無罪だぞ? このボクっ子が勝手に言っているだけで……
てか、何でおもクロ丸までそんな目で僕を見るんだよ。
お前、人間の言葉分かっているのか?
「……ねぇ、サトルくん。お兄ちゃんって何?」
「ミャ~?」
モモカとおもクロ丸がまだしつこく俺を見つめて来る。
コイツらは無視だ。
それよりも今は話さなきゃいけないことがある。
「……それより、ボクっ子。お前はこれから、どうするんだ?」
「どうするって……何が?」
このまま生きるのか? って、意味だよ……。
「僕が言わないと伝わらないか?」
僕がそう言うと、やっぱり、分かっていたのかボクっ子は観念したように両手を上げて答えた。
「失敗しちゃったんだもん。怖い思いもした……諦めるよ」
「……本当か?」
「それに、助けてもらった命だしね」
「そうか……」
そして、紫夏はまだ生乾きだろうに、乾燥機にかけていた服をモモカから受け取りそれを着た。
「じゃあね。助けてくれてありがとう。お兄ちゃん♪」
そう言って、紫夏は家を出て行った
どうやら、俺のTシャツは仮パクされたようだ……
――――なんて、あんな状態のボクっ子を一人で帰すなんてありえないだろ!
迷ったのは一瞬だった。
ボクっ子が出て行って……すぐに僕は彼女の後を追いかけるためにマンションの部屋を出た。
そして、たどり着いた場所は――――
「だから、何でここに来るのかな」
「それはこっちのセリフだよ……」
エレベーターが上に行ったから、まさかと思ったが……
彼女、ボクっ子は……
僕のマンションの屋上にいたのだ。
「お兄ちゃんは、わたしを救ってくれるの?」
そう、これが彼女を止めるための最終決戦だ。




