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第68話『紫夏』



 昔、お父さんに聞いたことがある。



『何で、紫夏って名前を付けたの?』

『そうだな……実は、紫夏という名前には見つけられない文字がある』

『見えない字?』



 そして、お父さんは言った。



『冬に咲いたリリアナの花がキレイだから、紫夏と名付けたんだ』



 紫季夏と書いて紫夏しきか


 それが誰にも見えない。紫夏の本当の名前――





「別に……ボクはお兄ちゃんに拾って欲しいなんて言った覚えはないんだけど?」



 わたしがそういと、彼は言った。



「あの時、お前は誰を演じるか迷ったんじゃないか?」



 あの時? って、どれのことだろう……


 わたしが彼と出会った時のことを思い出していると彼はそんなわたしの一瞬の迷いを見てか、補足するように言い直した。。



「初めて最初に出会った時だよ。お前は『幽霊を探していた』って言っていたよな」

「そんなこと……お兄ちゃんってば、よく覚えているね」



 初めて会った時のことなんか、普通はそんなよく覚えていない……。



「冬花だった時も『妹の幽霊を探している』と言っていた」



 ……本当に、よく覚えている。



「ボクっ子、お前の言っている『幽霊』ってのは、本当は『自分』のことなんだろ?」

「――ッ!」



 わたしが冬花を名乗った時、紫夏の名前を見付けられる人はいなくなった。



「お前は自分を見つけて欲しくて幽霊を演じていたんだ」



 だって、この世に残るべきなのは『冬花』だと思ったから……




『紫夏という名前には見つけられない文字がある』




 見付けられるべきなのは『冬花』だと思った。

 わたしじゃない。



「『冬花』は、お前じゃないんだろ?」



 見えない字を見つけてくれる人――



「だから、あの時、お前は僕が言った『ボクっ子』を演じたんだ」



 そう言って、彼……お兄ちゃんはボクの青い手袋をした両手を掴んで言ってくれた。



「そうだろ……紫夏」



 ボクは……ボクの中にいる。あたし(わたし)を見つけて欲しかったんだ。





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