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第7話『猫缶食べれますか?』



 ということで、あの黒猫のご飯を買うために、僕と桜井さんは深夜のコンビニまで来たわけだが……



「とりあえす、適当に買ってさっさと帰るか……」

「ま、待ってください!」



 コンビニの隅に置いてあった猫缶の三個セットを手に取りレジへ向かおうとすると、桜井さんが何故か僕を呼び止めて別の猫缶を手にした。



「こ、こっちの猫缶の方が美味しそうだと思います!」



 ……なんだろう、彼女は猫缶を食べたことがあるのだろうか?


 別に、個人の食生活に口を出すつもりは無いが、そうなのだとしたら、もう少しマシな感覚を身に付けた方が良いと思う。


 それに、だけど……



「そっちの猫缶って、高いじゃん……」



 そう、僕が飼おうとした猫缶は三個セットで300円だが、彼女がその手に持っている猫缶は一個、約200円もするのだ。つまり、三個セットの猫缶より約二倍も高い値段である。


 僕だって、これでも一人暮らしなので、お金はなるべく節約したいのだ。



「それとも、この猫缶は桜井さんがお金を出してくれるっていうの?」


 それなら、僕も反対しないのだが――



「わ、分かりました!」



 そう言うと、彼女は自分の財布を取り出してその中身を広げた。

 その中身は――



「お、お金……ありませんでした……」



 彼女の所持金、百円玉と五円玉だけである……コンビニじゃあおにぎりすら買えねぇよ!



「よくその所持金で猫缶を買えると思ったな」

「うぅ……せ、せめて、この私の百円と五円をわたすのでこっちの高い奴を買ってあげてください!」


「それでも、僕が赤字なんだけどね……?」



 コイツ……しかも、数を合わせようと一個200円の猫缶を三個セットと同じようにかごに入れてきやがった。200円の猫缶が三個で……600円って買えるかー!



「や、安い猫缶よりも良い物の方が美味しいはずです!」

「桜井さんは安い猫缶はものが悪いとでも言うのか!?」


「そ、そうことではないですけど……でも、可愛い猫ちゃんにはもっと良いものを食べて欲しいじゃないですか!」



 ……でも、値段が可愛くないんだよなぁ~。



「この時間はコンビニしか開いてないから、スーパーの安い猫缶も買えないんだぞ?」



 今日は土曜日だから、この時間だとスーパーはやっていないし、明日なんか日曜だからこの地域のスーパーは全滅だ。


 なので、僕達に残された道はこのコンビニ価格という驚異的値段で猫缶を買うしかないのである。



 その中でも、僕は比較的に安い三個セットで300円の猫缶を買おうというのに彼女はそれに反対し、一個200円もする猫缶を買えと言うのだ!



 しかも、自分はお金を持っていないという……なんという暴論だろうか?



「それに、値段が高いから良いものだと決めつけるのは良く無いんじゃないかな?」



 牛丼やハンバーガーだって、安いから美味しくないなんてことは無いだろう?



「そ、そうですが……」



 それと、同じで猫缶にも安くて美味しいものはちゃんとあるはずなのだ。


 だから、僕達は今後あの黒猫を飼う飼い主が食費で困らないように安くて美味しい猫の吉●家やマ●ドを探すべきなのさ!



「大丈夫、子猫なんだから、お腹が減ってれば安くても食べるよ」

「そ、そうですかね……?」




 結果、それで僕達は三個セットで300円の激安の猫缶を買ったわけだが……






「シャーッ!」


「猫ちゃん、食べないね~?」

「やっぱり、安かったのがいけなかったんじゃないでしょうか……」



 あの後、買って来た猫缶を一つ開けた結果、見事にこの黒猫は警戒して一口も食べようとはしなかった。


 この猫ヤロウ……それでも、僕の一食分の食費がかかっているんだぞ……



「じぃー……」

「うぅ……」



 ヤバイ、桜井さんの視線が痛いな。ここは何とかフォローしないと僕がただのどケチ野郎みたいに思われてしまう。



「仕方ないか……」



 そして、僕が立ち上がり台所から箸を持って来ると、それを見ていた桜井さんが僕に質問をした。



「な、何をするんですか……?」

「見て分からない? 食べるんだよ」


「は、食べ……る?」



 彼女はそう呟くと、今自分が発した言葉の意味が信じられないとでも言うように口をパクパクして驚いていた。


 箸を持って来たんだから食べるに決まっているじゃないか? 流石に人間の僕が口から直接猫缶を食べるわけにもいかないからね。



「は、ハハ……安達くんは冗談が上手いんですね……」



 冗談? 何でこれが冗談になるのだろう?


 すると、そのやり取りを静観していた姉がドン引きしながら桜井さんに語りかけた。



「いや、モモカちゃん。アイツは……弟は本当に食べるよ」



 姉がそう言った瞬間、僕は箸で猫缶を一口つまみ口に入れた、



「……うん、なるほどね」

「あわわわ!? ほ、本当に食べてますぅうううう!?」



 姉の言う通り、実際に箸で猫缶の中身を一つまみ食べて見せると、彼女が絶叫マシンと化した。



「よかったら、桜井さんも食べてみる?」

「む、無理です! ぜぜ、絶対に! 無理ですぅうううううううううう!」



 マジのドン引き拒否だった。


 だけど、その反応は良くはないと思う。

 特に――



「桜井さんは、自分が食べたくないものを子猫が食べたいと思う?」

「うっ……」



 ――そう、猫は意外と賢いから怪しい物は警戒するし、警戒している黒猫の前で彼女みたいな反応をしてしまうと、猫缶が危険なモノだと思って余計に食べなくなるのだ。



「じゃあ、安達くんが猫缶を食べたいだけのヘンタイじゃなかったってことですか……?」

「警戒している猫にはこれが安全なものだと自分が目の前で食べて見せる方が良いんだ」



 てか、今さりげなく変態認定されてた?


 猫缶を食べただけで人を変態認定するのは少しいかがなものだろうか?



「どう、食べてみる?」

「ね、猫ちゃんがごはんを食べてくれるなら……」



 そう言って、僕はコンビニでもらってきた割り箸を桜井さんに差し出すと、彼女が割り箸を受け取る前に姉が忠告するように口を割って入って来た。



「まぁ、食べる真似をするだけでも効果はあるから、実際に食べる必要までは無いんだよね~♪」



 姉がそう言った瞬間、桜井さんが思いっきりずっこけた。



「安達くん、それは本当なんですか!?」

「う、うん……」



 まぁ、姉の言う通り確かに食べる真似だでもよかったりするんだよね。



「何でそれを先に言ってくれないんですか!?」

「いや、面白いかなと思って……」


「安達くん!!」



 許してよ……ちょっとした出来心だったんだ。


 それに……ここまで黒猫のことで巻き込まれた仕返しも少しだけあったけど? まぁ、それは言わない方がいいだろう。



「サトルちゃん、女の子には優しくしないとダメだよ~?」


「だから、彼女じゃないって……」

「それでも、女の子なんだから優しくないとね♪」



 まったく、うるさい姉だ……。


 すると、桜井さんが何かを思い出したようにつぶやいた。



「あれ? でも、安達くんは食べるフリじゃなくて本当に食べてましたよね……?」

「うん、そうだね」


「もしかして、マジックとかじゃなくて本当に食べてたんですか!?」

「だから、そうだよ」



 試しに箸でもう一つまみ猫缶を食べて見せると、桜井さんが『ぎょへぇええええええ!?』と叫びながら飛びのいた。



「ななん、何でそんな平気そうに猫缶を食べられるんですか!?」

「モモカちゃん、弟は特別なんだよ。昔、ウチで飼っていた猫にもああやって毒見みたいに目の前で猫缶を食べていたからね」


「え……」

「おい」



 勝手に弟の過去をバラさないでほしい……。


 しかも、それだと、僕がただ猫缶を平気で食べるヤバい奴にならないか?



「僕が猫缶を食べたのは、猫缶に問題が無いか確認するためであって、自ら好んで猫缶を食べてたわけじゃないからね?」



 そもそも、これは子猫に猫缶が安全な食べ物だと認識させるためにやっていることであり、僕が目の前で食べて見せたのだから、彼女まで猫缶を食べる必要はない。



「だから、桜井さんは別に食べなくてもいいよ?」



 しかし、彼女は割り箸をもう一度手に取って言った。



「い、いいえ……わたし、食べます……っ!」



「モモカちゃん、本気なの!?」

「は、はい!」


「さっきはあんなに嫌がっていたのに?」



 いや、僕が言うのもなんだけど……しかし、何で?



「安達くん、言いましたよね『自分が食べたくないものを猫が食べたいと思う』って……」

「ああ、言ったね」



 でも、それはあくまで僕個人の考えだ。


 だから、それを彼女に強要する気は無いし、実際に猫缶を食べる飼い主の方がすくないだろう。



 そもそも、彼女はこの黒猫の飼い主でもないのだから。



「それでも……わたし、この猫ちゃんの気持ちを考えないで、ただ食べさせようとしてました」


「ニャ~?」


「でも、安達くんが実際に食べるのを見てドン引きしましたけど……それで気づいたんです! これで猫ちゃんがこの猫缶を食べたいと思うわけ無いって!」



 いや、ドン引きしとるやないかーい!



「だから、わたしが食べて、これは美味しいんだよって猫ちゃんに教えてあげたいんです!」

「分かったよ……」



 彼女がそこまで言うのなら、僕は何も言うまい。



「た、たべましゅ!」



 そして、彼女は恐る恐るは割り箸を手に取り、猫缶を一口だけ口にくわえた。



「……どう?」

「う……」


「……う?」

「モモカちゃん、大丈夫……?」

「う……うぅ……」



 すると、彼女は子猫に笑顔を見せてモグモグとした後に、そのまま笑顔で口から咀嚼しようとしたモノを吐き出した。



「うぇえ~っ! ま、まずいですぅ……」



 ……うん、知ってた。


 そう、猫缶は人が食べると不味いのである。



「それ、覚えておいた方がいいよ」



 まぁ、猫缶なんて人が食べる前提の味付け何てされてないから当然なんだよな。

 猫用の味付けなので人が食べると、めっち薄味でマズく感じるのだ。


「ミャ!」



 しかし、それを見て気が変わったのか、黒猫が突然残った猫缶を食べ始めた。



「あ、安達くん! 猫ちゃんがごはんを食べてくれました!」

「本当だ! モモカちゃんが食べたからかな!? すごい!」


「やっぱり、ただ見慣れない食べ物に警戒してたんじゃないかな……」



 てか、僕の時は食べなかったのに、彼女が味見をしたら食べ始めるんだな。


 この黒猫、多分もう彼女に懐いているのではないだろうか?



「もし、これが高い猫缶だったら最初から食べてくれたりしたんでしょうか?」

「じゃあ、僕が高い猫缶を買って来たら、桜井さんがもう一度味見してみる?」


「ヒェッ!? あ、味見はもう……じゅじゅ、十分です!」

「サトルちゃん、女の子には優しくって言ったでしょう?」

「別に、意地悪で言ったんじゃないんだけどね……」



 それに、高い猫缶になれてしまったら、この子猫を今後で飼う人が困るかもしれないじゃないか?


 だから、子猫の時点でグルメになられても困るのだ。



「そう言えばもう深夜だけど、モモカちゃんは帰らなくて大丈夫?」

「え……あ! で、でも……猫ちゃんが心配です……」



 姉がそう尋ねると、彼女は一瞬何かを分からないような顔をした後に、慌てたようにそう返事をした。



「大丈夫だよ♪ 今日はサトルちゃんが面倒を見てくれるから! ね?」

「本当ですか!」


「いや、勝手に決めないでほしいんだけど……」



 しかし、今日はもう遅いし、今からまた段ボールに戻してくるのも流石に酷いので今日だけなら……



「まぁ、仕方ないか」

「ほら! だから、モモカちゃん、弟に任せておけば大丈夫だって♪」

「あ、ありがとうございます! じゃあ……お願いします」


「ミャー」



 別に、僕は今日だけ面倒を見るだけで、この子猫を飼うわけじゃないからな?



「うん! また明日ね! サトルちゃん、時間も遅いし送ってあげてたら?」

「分かった……」


「いえいえ! そんな、見送りなんて大丈夫です!」



 そんな彼女の拒否を遮って僕は言った。



「女の子には優しくだろ?」







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