第6話『お姉ちゃんと猫ちゃん』
3つ違いの姉は高校を出たあと直ぐに就職して実家を出た。
ちょうど、一年ほど前だ。
確か、本人は『一人暮らしして、自立するため♪』とか言っていたが……
『会社の上司が本当にムカつくのよね! 仕事は押し付けるわりに残業代は出ないし本当にウチの会社ブラックなんだから!』
――と、最低でも週に一度は僕のところに来ては、そんなふうに仕事の愚痴を語るのが僕の姉、安達理沙という存在なのだが……
「会社辞めたから、今日泊めて♪」
……そんな姉がついに仕事を辞め社宅から追い出されて僕の所に泊まりに来たということらしい。
自立すると言っていた一年前の姉は何処に行ったのだろうか?
「だけど……まさか、サトルちゃんがこんな可愛いガールフレンドを家に連れ込んでいるなんて驚きだよね~♪」
「か、彼女じゃない!」
僕が反射的にそう言うと、姉は面白がるように笑みを浮かべた。
「へぇー? じゃあ、彼女でもない女の子の胸元に顔を埋めて何をしていたのかな~?」
「そ、それは……」
「はぅ……」
くっそ……厄介な所を見られた。これじゃあ、何を言っても信じてもらえそうにない。
彼女も赤くなって黙っているだけだし、形勢は僕が圧倒的に不利だ。
すると、姉はそんな僕達の反応を見て満足したのか、今度はタオルに包まっている黒猫に興味を示した。
「しかも、子猫まで飼っているなんて……あんた可愛いね~♪」
「ニャー」
「それも違う! これは桜井さんが……っ!」
「ふーん、彼女、桜井さんって言うんだ?」
「あ、はい! 桜井モモカです……」
「へぇ~? じゃあ、モモちゃんだ! 弟をよろしくね♪」
そう言うと、姉は桜井を品定めするように眺め、笑顔で握手を求めた。
「あ、あ、その……」
どうやら、桜井さんもその唐突な展開にどうしたらいいか分からずオロオロしっぱなしだ。
……はぁ、ここは僕が納めるしかないだろう。
「姉さん、彼女とは本当に何も無いんだ!」
「分かっている! お姉ちゃんは全部分かっているからね♪」
いや、絶対に分かっていない! 百パーセント勘違いしている!
「つまり、お母さんとお父さん達には内緒にしておけばいいんでしょう?」
「そうじゃなくて!」
やっぱり、分かってないじゃないか!
「じゃあ、お母さんとお父さんに彼女のことを言ってもいいの?」
「いや、それは……」
「はうぅ……」
そもそも、それが誤解なんだとどうやって伝えればいいのだろうか?
「じゃあ、何で抱き合ってたの?」
「うっ……そ、それは子猫が……」
「子猫がいると何で彼女でもない女の子の胸に顔を埋めることになるの? ねぇ、何で何で!?」
それはそうなのだが……う、うぜぇええええええ!
「ほーら、言えないんでしょう?」
「うぅ……」
「はぅ……」
「だ・か・ら、お母さん達には秘密にしてあげるから、今日泊めて♪」
この際、誤解が解けない以上はそう言うことにして姉を黙らせるしかないのだろう。
「分かったよ……そのかわり本当に誰にも言わないでくれよ」
「分かっているって♪」
この姉、こっちが何も言えないのを良いことに好き放題に質問攻めにしやがって……
しかし……
「どいつもこいつも今日だけ泊めろとか、僕の家はホテルかよ……」
「そもそも、サトルちゃんがホテルにしようとしてたんでしょ?」
「だから、それは違うんだって!」
「はわわ……」
……てか、何で桜井さんはさっきから否定してくれないんだよ!
「ミャ~?」
その時、鳴いている子猫を見て姉が僕に質問をした。
「ねぇ、この子ってご飯は何かあげたの?」
「いや、風呂に入れた後に水を飲ませたくらいだけど」
「じゃあ、お腹が減っているんじゃない?」
「はわわ! 確かにそうかもしれません!」
まぁ、言われてみれば生後一ヵ月くらいの子猫だ。水だけじゃなくてちゃんとした猫用のミルクや、離乳食くらいなら食べれるかもしれない。
「でも、僕の家には猫用のごはんなんて無いんだけど」
「安達くん。今から買いに行きましょう!」
「なら、二人で買い物に行ってきなよ」
すると、姉が子猫を抱き寄せて、僕達にウインクしながらこう言った。
「猫ちゃんは、お姉ちゃんが面倒見てるからさ♪」




