第42話『におい』
「くんくん! くんくん! 匂います! 臭いです!」
自宅に帰るなり、彼女が臭いと吠えだした。
一体、僕の彼女はいつから犬になったのだろう……?
「違います! サトルくんの体臭が臭いんじゃありません」
「じゃあ、どういう意味?」
すると、彼女は改めて僕の服や体の匂いを嗅いでこう言い放った。
「他の女のにおいがします!」
……やっぱり、彼女は犬かもしれない。
「ニャー」
そんなことを思っていたら、猫の方が鳴き出した。
いや、お前のことじゃないよ。
「クロちゃん、ごはんが欲しいんだと思います」
「おもクロ丸のごはん、まだあげてないの?」
「一緒に食べようと思っていたんです!」
すると、彼女はそう言ってソファーに置いてあった白いマフラーを取り出し、マフラーに顔を埋めて拗ねてしまった。
……かわいい。
「なのに、誰かさんが帰って来ないのが悪いんです」
「ご、ごめんなさい……」
「ニャー!」
くっそう、あっちこち催促がうるさいな。
「わかったわかった。今、餌を用意するから……」
「ニャー♪」
いい加減に、おもクロ丸がごはんをご所望のようだ。
コイツ、エサの時だけ僕にいい顔するんだよな。
すると、彼女が白いマフラーから顔を上げて変なことを言い出した。
「わたしにもエサをください!」
………………?
「え、モモカも猫缶食べるの?」
「違います! サトルくんと一緒にしないでください」
いや、僕だっておもクロ丸の栄養管理のために試食しているだけで、好きで食べているわけじゃないからね?
「じゃあ、どういう意味なのさ?」
「サトルくんって釣った魚に餌をあげないタイプですよね」
「……そんなこと無いって」
「今一瞬沈黙しました!」
「ニャー!」
すると、今度は彼女が手にした白いマフラーを僕の首に巻き、まるで嘘を付いたらそのマフラーで首でも占めるのかというよな目をして追及してきた。
「じゃあ、こんな遅くまで一体どこで道草を食って来たんですか!?」
「道草って……」
こういう時に限って、彼女は鋭いんだ。
しかし、素直に昨日のボクっ子と会ってました。なんて言った日には、この首に巻かれた白いマフラーがどうなるのか目に見えている。
さて、どうしたものか……
「えーと……」
「サトルくん、何か言ってください!」
「ニャー?」
……いや、待てよ?
そもそも、ボクっ子は『女の子』に含まれるのだろうか?
いや、別にボクっ子が実は男の子だった説を唱えたいわけでは無いんだけど……とある、界隈では『男の娘』という言葉があるわけで……つまり、ボクっ子は『ボクっ子』というジャンルで分けるべきではないかということだ。
「ニャー(飯クレー)」
そうすれば、僕は『女の子と道草を食ってきた』わけでなく『ボクっ子と道草を食っていた』ことになるので、これは浮気ではないということが立証でき――
「サトルくん!」
「うっわ!」
――と、そんなことを言い出そうとしたら彼女が急に猫みたいに僕の上に飛び乗ってきた。
「ど、どうしたの?」
「今……他の女の子のこと考えていましたよね?」
「……チガウヨ」
考えていたのはボクっ子のことだヨ?
「わたしにもエサください!」
「ちょ、ま! のわーぁ!」
「ニャーッ!」
どうやら、おもクロ丸の餌はもう少し後になりそうだ。




