第38話『嫉妬とピザパ』
「サトルちゃんてば、また女の子を拾ったの?」
そう言って、僕に冤罪をかけようとしているこの女性は安達理沙。
僕の姉だ。
「人聞きが悪いな!?」
夕方に『今日はピザパーティーよ!』と言って何故か一人では食べ切れない量の特大ピザを大量に持って来たのだが……。
普通に迷惑な姉だ。
「別に、家まで来てもらっただけで『拾った』とかじゃないよ……」
しかし、そんな僕の言い分を、何故か隣で猫とピザを分け合っている彼女が否定するようにつぶやいた。
「いいえ、浮気です……」
「違うよ!?」
「ニャー」
彼女の方はまだ僕が知らない女の子を家に連れて来たのを不満に思っているらしい。
どうやら、この話は僕に分が悪いようだ。
現状、彼女と姉とピザに買収された猫の三対一で不利だ。
ここは別の話題にシフトするのが賢明だろう。
「そ、それより……この大量のピザはどうしたのさ?」
確か、姉はこの前ブラックな仕事を辞めて職場の寮から追い出され住む場所すらなかった身だ。
こんな大量のピザを買うお金なんて無いはずだが……?
「ああ、このピサ? えーと、退職金? みたいな?」
……は?
この大量のピザが退職金だって?
「えーと、お、お姉さんはピザ屋さんで働いていたんですか?」
「いや、僕の記憶では姉がピザ屋に勤めていた記憶はないよ」
確か、姉の前職は超絶ブラックな営業職だ。
しかし、その僕のセリフを聞くと姉は『チッチッ』と舌を鳴らして小生意気に訂正してきた。
「サトルちゃん、情報が古いね~。ジャジャジャジャーン! なんと、お姉ちゃんはあの後ちゃんと新しい職場に就職できたのです!」
なんと!
朗報、姉は既に再就職を果たしていたらしい。
「お、おめでとうございますです!」
「モモカちゃん、ありがとうね~?」
「ニャー!」
「クロちゃんも、祝ってくれてありがとうー!」
「おもクロ丸だから」
「もぉー! サトルちゃんも祝ってくれてもいいじゃない!」
「いや、まぁ……それは、おめでとうだけど……」
いや、待てよ?
この姉、さっきピザのことを何て言っていた?
「ちょっと、待て! 再就職したはずなのに、何でこのピザが『退職金』なんだよ?」
「あちゃ~、バレた?」
すると、姉はなんとでもないように言った。
「新しい職場……上司がムカついたから辞めてきた♪」
「また!?」
「だって、さぁーっ! 上司がピザを大量に誤発注したのに、何故か新人のアタシがミスをしたって言うんだもん~!」
「そ、それは……酷いと思います!」
そんな風に拗ねる姉を彼女は頷きながら擁護しているが、それで辞め来たっていう姉も僕は酷いと思いますぅ~。
「それで、この大量のピザが退職金だと……?」
「だって、アタシが誤発注したって言うのなら、アタシの物でしょう?」
なんだ。そのニュータイプのジャイアニズムは?
そりゃ、クビになるわ。
「もしかして、また家に泊まるとか言わないよな?」
「大丈夫! 今は実家に帰っているから、サトルちゃんとモモカちゃんの邪魔はしないってば~♪」
姉がそう言いながら、彼女が持って来たお泊りセットのバッグを指さして『分かっている』と言わんばかりに笑みを浮かべた。
「ふぇ! おおお、お邪魔だなんて、お、思ってないです!」
「べべべ、別に……そ、そういう意味で言ったわけじゃねーし!」
「ニャー?」
その姉の笑みに、僕と彼女は明らかに動揺を隠せていなかった。
しかし、姉の奴、実家に帰っているって言ってたが……
「実家って……」
「まぁ、そのうち出て行くつもりだけどね」
あそこに帰ったのかぁ……。僕なら、一日もいたくないけどな。
まぁ、姉のことだから大丈夫なのだろう。
「でも、お姉ちゃんはサトルちゃんの浮気の件の方が心配だけどな……」
「ですです!」
「だから、浮気じゃないよ!?」
その話まだ掘り返すのかよ!
「ニャー」
何故か、猫のおもクロ丸も責めてきます。
味方がいません!
「じゃあ、サトルちゃんはその子とはもう会ったりしないの?」
「いや、道で偶然会ったりはするかも――」
「むぅう~っ!」
「シャー!」
僕はそう言った瞬間、彼女とおもクロ丸が唸り始めた。
「分かった! 分かった! 会わないよ 会っても、連れて来たりしないよ!」
「ほ、ほんとうですか……?」
「本当だよ」
ちょっと、モモカさん……? お顏が近い近い……あと、その姿勢だと胸元からおっぱい見えちゃうからね?
「本当に、本当に本当に……ですか?」
「大丈夫! 絶対にもう会ったりしないから!」
「ふぅ……なら、良しです♪」
「ニャー♪」
まったく……モモカのやつ、僕が『会わない』って言質を取るまで詰めやがった……。
「嘘ついたら……腕一本持っていきますからね?」
「だ、大丈夫だよ……」
「アハハ、モモカちゃんって意外と嫉妬深いんだねー?」
「そ、そんなこと無いです……こ、これくらい普通です!」
「うん、ソウダネー」
まぁ、そもそも浮気なんて誤解なのだから何の心配もいらないんだけどね?
それに、あの女の子ともう会うことなんて無いだろうから大丈夫だろうしな!
……うん、最悪腕の一本くらいで済まされるなら問題無いだろう。




