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第4話『パジャマと黒猫』


「お、お風呂ありがとうございました……」



 とりあえず、身体を洗ったあとの子猫をタオルで拭いて温めてあげていると、お風呂から上がった彼女がパジャマ姿で現れた。


 あと、何故かパジャマの上にあの白いマフラーを撒いている。この子、服はあんな簡単に抜いたのにマフラーだけは固くなく取らないな……


 まぁ、どうでもいいか……。



 因みに、パジャマは僕の物だ。



 やはり、男物のパジャマだからか、若干サイズが大きかったようだ。

 パジャマがすごいブカブカだ。



 いや、でも彼女の胸が大きい所為で胸元だけパツパツだな……。



「あの……猫ちゃんは大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だよ」



 今は安心しているのか、あの黒猫はタオルの中で丸くなって大人しくしている。


 家に来た時はまだ鳴いていたけど、ようやく警戒を解いてくれたようだ。



「よかったです。えっと……」



 まぁ、彼女の方はまだオドオドしているけどね。

 それなのに何で彼女は人の家で風呂まで入っているんだろう?



「そう言えば名前は何て呼べばしょうか?」



 ……マジかよ。



「何か?」

「いや……」



 元クラスメイトだと言っても特に親しく無ければ名前を憶えていないこともあるだろう……僕達隣の席同士だったけどね。


 まぁいいさ、僕は名前を憶えられてないくらいで怒るような人間じゃない。



 ……でも、考えてみれば、あの川沿いで彼女と黒猫を拾ってからお互いに名前を知っている前提で話していたから、ちゃんと名乗ってはいなかったのか?



 ならば、改めてここで自己紹介といこう。



「サトルだよ。安達サトル(あだちさとる)。好きに呼んでくれ……」

「わ、わかりました! サトルちゃんですね!」



 いや、好きに呼んでくれとは言ったけど……



「『ちゃん』呼びって、ずいぶんと距離が近くない……?」

「そ、そうですか? 少しでも可愛い呼び方の方が良いかと思ったんですけど……」


「同い年なんだから、ちゃん呼びはちょっとな……」

「え、でもまだ子猫ですよ?」


「は、子猫……?」



「ミャー」



 ん、待てよ? かわいい……?



「もしかして、だけど……この子猫《黒猫》の名前を決めようとしてる?」

「え、違うんですか!?」


「違うだろ!?」



 何で名前を聞かれて、まだ飼うとも決めてもいない黒猫の名前を答えなきゃいけないんだよ!



「そもそも『安達』って苗字を名乗っている時点で子猫の名前じゃないだろ!」

「す、すみません……てっきり、飼い猫に自分の苗字を付けるタイプかと……」



 コイツ……ッ! さりげなく、僕がこの黒猫を飼う前提で話を進めていやがる!?



「安達って苗字、わたしは素敵だと思いますけど……ね? 猫ちゃん?」


「ミギャーッ!」


「ほら! ね、猫ちゃんも喜んでいます!」

「勝手に猫の意思を代弁するなよ……」



 しかも、どちらかというと嫌がっている鳴き声じゃないか?



「そもそも、元クラスメイトなんだから苗字の段階で僕の名前だと気づくだろ……」

「え……わたし達って、クラスメイトだったんですか!?」


「何言ってるの!? 一年の時に隣の席だったろ!」

「しかも、隣同士なんですか!?」


「何で覚えてないんだよ!?」



 驚愕の事実! まさかのクラスメイトだと認識されていなかった!?


 ――ってことは……コイツ、マジで知らない男子学生の家に一人でついて来たわけか!?



「まったく、少しは警戒とかしなかったのか?」

「す、すみません……」


「ミャ……」


 何故か一緒に謝罪でもしているかのように子猫が鳴いた。



「はぅう……」


 まぁ、彼女もそれだけ子猫のことで頭が一杯だったのだろう。



「じゃあ、自己紹介でもする?」

「は、はい……すみません……」



 そして、僕達は改めて自己紹介をした。



「僕は安達サトル(あだちさとる)。決して猫の名前じゃないからね?」

「は、はい! わたしは桜井モモカ(さくらいももか)です……」


「じゃあ、桜井さんって呼ぶよ」

「なら、わたしは安達くんって呼びます!」


「……それって、子猫の名前じゃないよね?」

「も、もちろんです!」


「ハハ、冗談だよ」

「はぅ! あ、安達くんは、意地悪です……」



 名前を忘れられていた仕返しではないが、これくらいはイジってもいいだろう?



「す、すみません……」

「いや、僕も少し意地が悪かったよ」


「しゅみません!」

「いや、もう謝らなくていいから」



「す、すみませ――あ……」



 しかし、彼女はよく謝る人だな……。

 まるで、何かに怯えているようだ。


 それで言ったら、既にこの家に上がってタオルで丸くなっているこの黒猫の方が図太いくらいだろう。



「それで、この猫ちゃんのお名前はどうするんですか?」

「あぁ、そうだね……」



 そう言えば、黒猫の名前をどうするかって話の途中だっけ――



「――って、僕はこの子猫を飼わないからな!?」

「うぅ……この流れで名前を付けてもらえれば、猫ちゃんを引き取ってくれると思ってたのがバレました……」


「いや、その手には乗らないから……」



 そもそも、黒猫の名前を決めようだなんて流れでもなかった!

 危うく流されるところだったじゃないか。


 ……てか、彼女って意外とずる賢いことを考えるな。



「で、でも……拾ったからには責任があると思います!」

「そもそも、この子猫を拾ったのは僕じゃなくて、キミ……桜井さんだよね?」

「そ、それは……」



 なら、この黒猫を飼うべきなのは彼女だ。


 だから、責任があるというのなら彼女の方だろう。



「それに、僕がこの子猫を飼うとしても、なんのメリットも僕にはないじゃないか?」



 まぁ、しいて言うのならば、僕は猫をひろったつもりなど無い。


 ただ、彼女が助けを求めていたから一時的に家にあげただけだ。


 なので、僕が拾ったというのなら、それは黒猫の方ではなく、彼女を『拾った』という方が正しいのではないだろうか?



「そ、そうなんでしょうか……」



 すると、しばらく悩んだ後、彼女がとある提案を僕にした。



「なら、わたしが体で払います!」


「…………はぁ?」






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