第33話『フラッシュバック後編』
「安達くんはいい子です」
「……うん」
あの後、彼女は僕が落ち着くまで僕の頭をその胸で抱きしめてひたすらに頭を撫で続けてくれた。
おかげで、僕は呼吸ができなくなった焦りよりも今の自分の状況が恥ずかしすぎて逆に落ちつたくらいである。
やっぱり、胸枕は偉大だな……。
「それで、猫ちゃんはこの辺にいるんですか?」
「あの段ボールに痕跡があった。だけどもう……」
「でも、まだどこかに隠れている可能性はあります!」
「それは……うん、そうだね」
「なら、探しましょう!」
確かに、川があるだけで流されたとは限らない。
それに、あの時は記憶がフラッシュバックして冷静な判断ができなかったけど、よく見ると段ボールから川には二メートルほど距離がある。
誰か人が来て逃げたとしても、わざわざ川の方に子猫が向かうとは限らない。
「でも、この暗さだと……」
既に日は暮れているし、気温も今日は特に低い。
あの子猫の体力だと夜を乗り切るのは厳しいはずだ。
「だからこそ、近くの茂みに隠れているかもしれません」
「そ、そうだね!」
どうやって移動したのかは知らないが、少なくても、子猫らしきものがその段ボールにいた可能性はあるのだ。
なら、この周囲を探すのが一番だろう。
「問題は……子猫が警戒して出てこないことだけど……」
保護したとはいえたったの三日だ。再び外に逃げたということは子猫も人間を警戒しているかもしれない。
『こんな所にいたのね』
『かわいそうね』
『仕方ない。帰るか』
ボクはあの家族たちと……同じじゃない……っ!
『……ミカエル?』
『溺死だってさ……』
もう、ボクは……二度とキミを裏切らない!
「ミカ……」
すると、それを聞いて彼女が遠慮がちにこう言った。
「……やっぱり、探すのはわたしだけにしますか?」
「それ、遠回しにボクが邪魔だって言ってない……?」
「そ、そんなことないです……よぉ?」
彼女の声が上ずっている……怪しい。
なんだかんだ言え、一番あの子猫の世話をしたのは僕だ。
『ありがとう……ミカエル』
『ミャ―♪』
……それに、猫だって僕は懐いてくれていた。
だから、懐くまでもは言わなくても、警戒はされてな――
「シャー!」
それは、この三日間でとてもよく聞いた『威嚇』だった。
『ミャ―♪』
……違う。
そう、ボクの記憶にある猫の鳴き声とは似ても似つかない威嚇《鳴き声》だ。
まったく、何でオマエは懐いてくれないんだよ……。
「……そうか、お前はアイツじゃないんだもんな」
僕はこんな状況でも威嚇してる子猫を逃げられないように首根っこを捕まえて捕獲した。
「シャー!」
それでも、捕まえられた子猫は首根っこを掴まれてぶら下がった状態で威嚇し続けている。
本当にお前は大した奴だよ……
「あ! 猫ちゃん、見つけたんですね!?」
「あぁ……」
僕が子猫をぶら下げているのを見て彼女が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「猫ちゃん見つかって良かったです!」
「うん……本当に良かった……」
すると、僕の顔を見て彼女がこんな提案をして来た。
「サトルくん、よかったら猫ちゃんの名前決めてあげませんか?」
「え、今……?」
「ハイです! だって、この前は『そんな愛着わいてないし、良い名前が思いつかないんだ』って言ってたじゃないですか?」
「あぁ……」
確かに、ぼくは怖がっていた。
名前を付けることも呼ぶことも、それを失ってしまうのが怖くて避けていたんだと思う。
拾ったくせにその『名前』を背負う責任の重さから逃げていたんだ。
「でも、わたしは今のサトルくんなら、きっと素晴らしい名前を付けてあげられると思うんです」
「そう……かもね」
でも、今の僕なら……その『名前』も背負える気がした。
「じゃあ、お前は今日から『おもクロ丸』だ」
「シャー!」
「あぁ……猫ちゃん、ごめんなさいです……わたしが間違ってました……」




