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第23話『好きと寿司』



「抱き着いても……いいですか……」

「……ん」



 彼女の質問に、僕は無言で両手を広げて応えた。



「好き……」

「…………」



 すると、彼女の口からこぼれるようにその言葉が落ちた。


 まるで、彼女はその言葉を言ってないかのようにそのまま黙ってしまったが、これは僕の返答待ちなんだろうか?


 それとも、本当にただ無意味に『好き』と言っただけかもしれない。


 いや、だって……ただ『好き』といわれただけで僕に『好き』と言ったわけはないかもしれないわけだし……

 そもそも、これが『好き』ではなく『寿司……たべたい』の聞き間違いだってあるかもしれない!



 そう思って、彼女を見てみると……



「ぁぅ……」

「…………」



 ……わりと目で『早くしてください』っと、訴えていた。


 これは『そういうこと』なのだろうか?


 いい加減に腹をくくった方がいいのだろうか?



 しかし、だとしても……一つだけ分からないことがある。



「何で……僕なの?」

「いい人だからです」


「そうか……」



 彼女にとって『いい人』がそのままの意味ではないことを僕は分かっている。


 しかし、それがどういう意味で言っているのかまでは分からない。



 ただ、今の僕に分かることは……



「僕も好きだ」

「はぅ……」



 それでもいいと思うくらいには、今度の選択は間違ってないと思った。



「……」

「……あ」



 彼女の目と目が合う。瞬間、何かが噛み合ったようにお互いに息をのむ。


 彼女の顔が徐々に近づいてきた。何故か目の前がチカチカするように唐突なめまいが僕を襲った。


 その間にも彼女との距離は近づき、今にも触れてしまうそうな距離になっていく……


「ん……」

「……っ!」


 彼女の吐息がかかった。

 もう既に拒否をできるような状態ではなかった。


 しかし、僕が拒否できなくても、ここでタイミング良く何かの邪魔が入るかもしれない。


 だって、昨日もそうだったろ……?


 どうせ、何かしらの邪魔が入るに違いない。

そう、例えば猫が――


「…………」


 ……ぐっすり寝ていた。


 いや! でも、姉が突然また帰って来たり――



「…………」

「…………」



 ……やって……来ない!? 

 どういうことだ!? 何も邪魔が入らない……だと!?


 じゃあ、一体、僕はどうすれば……むしろ、どうなるんだろう……?


 例え、何かの一時的な感情だとしても、今の彼女が僕という人間《相手》を求めているのは確実だ。


 だとしたら、ここで彼女を受け入れることに、僕は何を躊躇っているのだろう?


 多分、それは……色々な危険性(デメリット)があるのかもしれない。

だけど、その危険性(デメリット)は僕が損をするだけで今の彼女が救われるのならそれでもいいのではないだろうか?



その時、近づいてくる彼女の首に巻いていた白いマフラーが床に落ちて、彼女の『《《首筋》》』が僕の目に映った。



「その跡……マフラーは『《《それ》》』を隠すためにしてたの……?」

「……はい」



 いつも白いマフラーをしていると思ったが『《《そういう》》』理由だったのか。


 しかし、こんなになるまで彼女は一体どれほど苦しい思いをしたのだろう……



 ――だけど、その彼女を拾ったのは僕だ。



 なのに、ここで彼女を受け入れなかったら、彼女はどう生きればいいのだろう?

 きっと、彼女はまた死のうとするだろう。



 誰も彼女を拾わない(救わない)のなら、僕が彼女を救う(拾う)



 瞬間、何かが吹っ切れた気がした。



「「……


 軽く触れただけなのに、一瞬だったとしても、

 確かな充実感がそれにはあった。


 僕達は――


……ん」」



――その瞬間、確実につながった気がした。


 たかが一度だけの瞬間だったかもしれない。


 それでも、一度触れたらもう忘れられないと思った。



「……」

「ふぁ……」



 ……欲が湧いた。

 もう一度、触れたいという欲が湧いてしまった。



「……です」



 何故かその返事だけで、彼女も同じ『欲』を持っているのだと思った。


 しかし、そう思った瞬間、僕は彼女に上から押さえつけらえていた。

 ……あれ? おかしいぞ?



「「――……っ!?」」



 瞬間、むさぼられた。


 どうやら、僕が抱いた『欲』よりも、彼女の『感情』の方がはるかに大きかったらしい。

 ……全然、同じ『欲』どころじゃなかった。


 けど、僕はそれを止めなかった。


 拒否しないのでなく、

 受けれ入れた。



 そして、受け止めた。



 とても強く、とても深く、とても重い瞬間だった。


「……ふぁ」

「はぁ……」



 そして、今度は彼女の『欲《期待》』に応えるように僕から彼女に触れた。





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