第12話『庭付き一戸建て』
お嬢様の家だ……
「安達くん、どうしましたか?」
「あ、いや、大丈夫……」
初めてお邪魔した彼女の家は立派な庭付きの一軒家だった。
ちゃんと家の隣にはいかにも高そうなピカピカの高級車が止められているし、玄関も立派な門構えでお迎えだ。
「どうぞあがってください」
「お、おじゃまします……」
……てか、家の中でもその白いマフラーはしたままなんだな。
そのマフラーは、彼女のこだわりファツションアイテムとかなのだろうか?
そんな彼女の家は玄関が凄い広さだった。
しかし、なによりも驚いたのは……
「凄い靴の量だね……」
そう玄関に置いてある靴の量がすさまじいのだ。しかも、その全部が男物の靴ときた。
確認しただけでも十足以上は高そうな靴が散乱している。
「お客さんでも来ているの?」
「いいえ、この靴は全部パパのです」
「全部!?」
はっ!? ちょ、まって!? この玄関に散乱している高そうな靴が全部、彼女の父親一人の所有物ってことなのか!?
てか、父親の靴だけで玄関の八割が埋まっているじゃねーか!
「その……お父さんは?」
「パパは単身赴任してるからあまり家に帰って来ないんです」
帰って来ないのに、この靴の散乱状態なのかよ!
「てか、外に車もあったよね……」
「あれもパパのです」
「ヒェ……」
かなりピカピカの高級車が置いていると思ったけど、単身赴任の所為で乗れてないだけなのかよ! 悲しいな……
「こっちがリビングです」
「う、うん……」
うわっ! リビングも相当な広さだったがそれ以上にビックリしたのはリビングにピアノが置いてある……だと!?
普通の家のリビングにピアノ何て置くのどこの上流家庭だよ!
「えっと……このピアノは弾けるの?」
「あ、はい……普通に弾くくらいなら……弾きますか?」
「あ、いや、大丈夫だよ……」
へぇ~、普通に弾けるんだぁ……
「あ、そうだ!」
すると、彼女が慌てたように声を上げた。
「帰ったら、ちゃんと手を洗わないとです」
「あ、うん……」
お嬢様だ……
「安達くんも手を洗ってください。洗面台はこっちです」
「あ、あぁ、そうだね……」
「あと、アルコール消毒もしてください」
「お、おう……」
それも、かなり育ちが良いお嬢様だ……
しかし、そんな彼女が――
『わたしは死のうとしてました』
何で、死のうと……
そして、言われるがまま洗面台で手を洗ってアルコール消毒をしてリビングに帰って来ると、彼女がテーブルに何かを準備して待っていた。
「えっと……安達くん」
「桜井さん、何かな?」
「ケーキあるんですけど……食べますか?」
そう言って出されたケーキはお店で売っているものと比べたら少しだけ形が崩れている。
しかし、見た目はちゃんとした一人分のチーズケーキみたいだ。
もしかして……
「それ、自分で作ったの?」
「はい……」
すげぇ!? ケーキを作れるとか……やっぱり、本当にお嬢様じゃないか。
「じゃあ、もらうね?」
「えっと、お口に合うといいんですが……」
「いただきま―……」
……毒とか入ってないよね?
いやいや、流石に無いか。
変なことを考えていた所為か余計なことまで勘ぐってしまった。
「……あむ、うむ、ふむ……」
そして、彼女お手製のケーキを食べた感想は……
「ふむふむ……」
「ど、どうですか?」
「……うん」
酸っぱぁああああーーーーーーーーーーーーーーーーい!!
てか……何だこれ!? レモンか!?
「やっぱり、酸っぱいですよね? あ、あの……レモンチーズケーキなんですけど、作ってる時に少し酸っぱくなりすぎちゃったかなって……」
う~ん、それは先に言って欲しかったな。
まぁ、でも……
「いや、おいしいよ……全然食べられる味……ダヨ」
「ほ、本当ですか!」
うん、食えない味ではない。
流石にすこぉ~しだけ酸っぱすぎる気はするが……まぁ、すっぱム~●ョとかもこんな感じのレベルの酸っぱさだし、全然いけるだろう。
「あ、そうだ! 紅茶もあります! 飲みますか?」
「うん、ありがとう。それ、死ぬほど欲しかった」
しかし、ピアノも弾けてケーキも作れてるとか、やっぱり彼女は本当のお嬢様ってやつなのではないか?
「これだけの家なら、猫を飼うくらい大丈夫なんじゃないの?」
「実は……ママが猫アレルギーなんです……」
「あぁー、なるほど……」
だから、部屋に入った時に消毒と手洗いがあったのか厳しかったのか?
それなら猫は飼うことはできそうにないよな。
すると、僕がレモンまるまる一個分のビタミンCが取れそうなくらいのチーズケーキを食べ終わったのを見て、彼女が立ち上がった。
「そろそろ、わたしの部屋に行きますか?」
「そ、そ、そうだね……」
その言葉を聞いて僕は一瞬動揺してしまった。
初めて行く女子の部屋、しかも、普通の女の子じゃなくこんなお金持ちの家のお嬢様だ。
あきらかにヤバイ気がする……
「二階がわたしの部屋です」
「お邪魔します……」
そして、案内された部屋は――
「えへへ……お部屋、少し散らかってるので恥ずかしいです……」
「……あ?」
拾い部屋の隅に置かれた小さな勉強机、
その部屋中に雑に投げられて放置されている衣服。
部屋の奥には開けたままで使われていないクローゼット、そして小さな棚にはわずかな化粧品と沢山の本が積み込まれて、入らない分の本が床に散乱している。
最後に、その部屋の真ん中に可愛らしいベットが一つだけ置かれていた。
つまり、僕が期待した彼女の部屋の正体は、アホみたいに服と本が散乱しているゴミ屋敷みたいな部屋だった。




