第10話【二日目】『メッセージ』
『こんにちは』
翌朝。
まだ昼前だが、彼女から届いた初めてのメッセージはそんな何気ない一つの挨拶から始まった。
『おはよう』
『昨日はすみませんでした』
『こっちこそ、昨日はゴメンね』
何気ない普通のやり取りだが、メッセージが来るだけで彼女が生きているということが分かって少し安心するな……
「なになに? 相手はモモカちゃん?」
「う、うるさいな……」
すると、そんな僕の顔を見て何かを感じ取ったのか、姉が僕のスマホを覗き込むように現れてきた。
「へぇ~、連絡先交換したんだぁ~?」
そう言いながら、にやける姉の顔が鬱陶しい……
別に、連絡先くらい交換してたって何もおかしいことはないだろう?
「ミャ~!」
すると、今度は子猫まで起きて騒ぎ出した。
どうやら、ミルクをご所望のようだ。
「はいはい……すぐ用意するよ」
「ミャ~! ミャ~!」
「猫ちゃん、昨日よりも元気になったね!」
「まぁ、ミルクと猫缶も上げたからな……」
確かに、心なしか目がハッキリと開いて昨日より元気に思える。
これくらいの子猫はすぐに成長するから、二、三時間おきにミルクとトイレの世話をしないといけないので、実は昨日からあんまり寝れていないんだよな。
「……ちゃんと、寝れる時に寝なさいよ?」
「そう言うなら、夜中の世話も手伝えよ……」
因みに、姉は僕が子猫の世話をしている夜中も爆睡していた。
♡☆いつもありがとうございます~♪ ←スマホの着信音
すると、彼女から新しいメッセージが僕のスマホに表示された。
そうだ、連絡の途中だった!
えっと、内容は――
『お話したいです』
「……」
これは、どうするべきなんだ……?
この場で電話をしたらいいのか? それとも、会いたいという意味なのか?
「どうしたの?」
すると、何かを感じ取ったのか、姉が再びスマホを覗き込もうとして来たので、とっさに子猫をスマホの上にのっけて画面を見せないように隠した。
「ミギャ!」
「いや、別に……」
とりあえず、コイツ(姉)に話を聞かれないように場所を移そう。
「あ! ちょっと、何で隠れるの!?」
何処に行くか迷った結果、僕は猫をかかえたままトイレにこもり彼女に電話をかけることにした。
「もしもし……」
『も、もしもし』
「えっと……聞こえる?」
『はい、聞こえます……』
初めての彼女との通話はなんかぎこちない感じで始まった。
『猫ちゃんは、元気ですか?』
「うん、大丈夫。元気だよ」
「シャー!」
今も僕の腕の中で手足をジタバタしている最中だ。
どうやら、よっぽど僕の腕に抱かれるのが嫌なんだろう。
すると、電話の向こうで彼女が小さくつぶやいた。
『えっと、会いたいです……』
なんなく、寂しそうなその声は、まるで猫ではなく『誰かに会いたい』と言っているように聞こえてしまった。
だからか、僕は一瞬だけ返事に迷って曖昧な言葉を彼女に返した。
「……じゃあ、会いに来る?」
これなら、彼女が『誰に』会いたいという意味で言っていても大丈夫だろう。
『……違うんです』
「え……」
しかし、彼女はその『誰に』をハッキリと言葉にした。
『安達くんに会いたいんです……』
「お、おう……」
どうやら、僕の気遣いは余計だったらしい。
しかし、こんな直球で言われると、なんかドキドキするな……
『あの……』
「……うん」
『できたら、これから……』
「うん……」
これからウチに来るとかそんな感じかな?
『わたしの家で、会えませんか?』
「――ぅえ!?」
イエ……って、家!? マイホームってことだよね!?
『その……できれば二人っきりで会いたいんです』
「ふ、二人っきりで……」
ちょっと待て!
なんか、そう言われると変なことを考えてしまうが……違うよな?
『……ダメですか?』
「いや、ダメじゃないんだけど……」
でも、本当にいいのか?
昨日連絡先を交換したばかりの男を家に呼ぶなんてありえるのか?
だけど、昨日の家に帰る時の彼女の様子を思い出すと――
『キミは死のうとしてたのか?』
『はい……』
昨夜の彼女との会話を思い出すと、僕の返事は一つしかなかった。
「……わかった」
その後、彼女の家の近くで待ち合わせをし、通話を終えて僕がトイレから出ると、にやけた姉がトイレの外で待ち構えていた。
「電話の相手、モモカちゃん?」
「うるさい……」
コイツ……外で盗み聞ぎしていたな!
「もしかして、これからお出かけですかぁ~♪」
「ミャ~?」
「う、うるさい!」
……よし、
ムカつくから、猫の世話は姉に押し付けていこう。




