28話. 混乱と追跡
外は既に真っ暗になっていた。
落ち着かずに青い顔をしてソファーに座り、震えている由利江と、その横に座り慰めている仁美。
仕事から帰ってきた仁美の夫の晃樹は、落ち着かない様子でソファーの近くをウロウロとしている。
由利江の夫の尚希が出張先の海外から帰れるのは、早くても明日の昼頃になってしまうようだった。
周りには警察の人達が数人、慌ただしくやり取りをしている。
「お茶でも飲んで少し落ち着いて下さい。きっと凛子ちゃんは大丈夫ですよ」
そう言って咲子は温かい紅茶を運んできて、皆に手渡した。
―電話が鳴る―
心配そうに見上げた由利江に警官がうなずいて、電話を取るようにうながす。
「も……もしもし……そうです!凛子!凛子は無事なんですか!?……渋谷……え!?そんな大金!……え!?あ、あの、もしもし!?もしもし!?」
犯人は言うことだけ言って、一方的に電話を切ったようだった。
「電話をかけてきた大まかな範囲は特定できたんですが…プリペイド携帯みたいで、直ぐに壊されてますね……」
警官は少し困った顔をしながらそう言った。
「…5,000万現金で用意しろって……そんな急に…あ、銀行に行かなくちゃ……あと黒い鞄…」
フラフラと立ち上がろうとする由利江を仁美が落ち着かせる。
「由利江さん、今は夜よ。銀行は開いてないわ。それよりそんな大金を用意できるの?」
仁美もあまりの事に青い顔をしていた。
晃樹もソファーの後ろから、落ち着かせようと2人の肩をさすっている。
「奥さん、現金さえ口座にあれば、警察の方から銀行に連絡すれば緊急措置として直ぐに準備ができます。犯人は何時を指定してきましたか?」
警察官が淡々と説明と質問をしてくる。
「あ……お金はどうにか……あの、12時に…渋谷のスクランブル交差点の真ん中に……そうだ、黒い鞄用意しなくちゃ!」
また慌てて動き出そうとする由利江を警官がなだめる。
「奥さん、大丈夫ですよ。犯人は必ず捕まえますし、娘さん、凛子ちゃんも無事に帰ってきますよ」
そう言われても由利江の震えは止まらず、仁美も晃樹も、さらわれた凛子のこと、そして行方のわからないココとハヤテの無事をただ祈るしかなかった。
◇◆◇◆◇
先頭を歩くボス、その少し後ろをついていく2匹の猫、そして私の横にはブチが並んで早足で歩いていた。
そういえば手伝ってくれる2匹の猫の名前を聞いていなかったと思い、少し早足になって追い付く。
真っ白だったと思われるが、薄汚れて黄ばんでいるメス猫に最初に声をかけた。
「あ、あの、助けてくれてありがとう。私はココ。あなたのお名前も聞いていいかしら?」
「ハッ、私の名前?おばちゃんはシロって呼ぶわね。まぁ、見た目のまんまよね」
皮肉交じりの口調で返してきた。そして少し不機嫌ながらも優しい匂いが漂った。
「教えてくれてありがとう。シロ、よろしくね」
私はそう言うと、もう一匹の茶色と黒で顔が半分色違いになって、シッポがシマシマのオス猫にも声をかけた。
「あなたも助けてくれてありがとう。お名前を教えてくれる?」
そう聞くと少し間が抜けた口調で話し始めた。
「僕~?僕はオイデだよ~。多分そう」
いつも『おいでーおいでー』と言われてたのが自分の名前だと思っているみたいだった。
「教えてくれてありがとう。オイデもよろしくね」
2匹にお礼と挨拶をして、先頭を歩いているボスのところまで走っていった。
「あなたはボスよね?協力してくれてありがとう。確かに匂いが強くなってきてる気がするの。本当に助かってるわ」
私がそう言うと、はにかんだように笑い、優しい匂いとともに少しの怒りが漂ってきた。
「まあ、アンタの探してるってヤツが俺にタバコ投げつけたヤツと同じだったら、ちょうど仕返しもできるし、してやりたいしな!」
そして、さっと前に向き直りスタスタと更に早足になって歩きだした。
私はブチの横へと戻ると、改めて感謝を伝えて鼻から大きく息を吸い込み、強くなりつつある匂いの元を探した。
「こっちだ!もうすぐ着くぞ!」
ボスが走り出したあとに続いて全員で走り出す。
男の袖口と同じ匂い、そして私の体の匂い!近づくに連れて匂いもどんどん強くなってくる!
舗装された爪が痛くなる道路から、更に歩きにくい砂利道へと入った。
砂利道の奥の方、建物の近くに白いタオルが落ちていて、そこから強烈な匂いが発せられていた。
「このタオル!犯人のだわ!袖口のこんな布切れなんかよりしっかり匂いが付いているの!あと、私の体の匂い…この体の中身のハヤテだわ!」
そこにいる5匹ともが興奮していた。




