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【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
リィの体調は、日増しに良くなっていった。
トーコは「順調ね」と、ベッドに横たわるリィに優しく笑いかける。
しかし、身体が元気になるにつれて、リィの表情が暗く曇っていくことにトーコは気づいていた。
魔力視を使える彼女だが、たとえそれがなくとも、少女が深い悩みを抱え込んでいることは一目でわかった。
一日の診察を終えた静かな夜、トーコはリィのベッドサイドへと腰を下ろす。
「何かあったのですか?」
「……どうして、そう思うの?」
「あなたの顔色はよくなっていても、魔力の色が濁っていっていますから」
魔力を色彩として捉えられるのは、魔力ゼロの魔眼を持つトーコだけだ。
並の治癒師や聖女ならば、患者の体調が戻ったことで満足し、それ以上の精神的なケアはしないだろう。
だが、トーコは違う。
患者の心まで救ってこそ、真の医師であると確信しているのだ。
トーコが、魔力と心が密接に関係していることを静かに説明する。
リィはすべてを諦めたかのように、力なくうつむきながら呟いた。
「……生きてて、何か良いこと、あるのかな」
ぽろぽろと、リィの大きな瞳から温かい涙がこぼれ落ちる。
白いシーツに、いくつもの小さな染みを作っていった。
ぽつりぽつりと、彼女は自らの凄惨な生い立ちを語り始める。
奴隷の子として生まれたリィには、物心ついたときから自由など存在しなかった。
ろくに食べ物を与えられず、骨と皮ばかりに痩せ細った体を欲するような、物好きな貴族はどこにもいなかったのだ。
労働力としても、慰み者としても役に立たない。
リィは事あるごとに、奴隷の主人から酷く罵倒され続けてきたらしい。
そうして虐げられるうちに、リィはすっかり自尊心をすり減らし、失ってしまったのだ。
そこへ、あの凄惨な交通事故が重なった。
死の淵から辛くも生還した途端、主人からあっさりと見捨てられるという悲劇。
リィは、己の存在価値を完全に見失っていた。
他人の気分一つで捨てられる、まるで路傍のゴミのようではないかと。
「なるほど。よくわかりました」
トーコは深く頷き、凜とした声で告げる。
「あなたは、しっかりと休養を取るべきです」
「……え?」
あまりにも予想外なセリフに、リィは涙で濡れた目を丸くして戸惑う。
普通なら、ここで「そんなことはない」だの、「元気を出そうよ」だのと。
そういった、ありきたりな言葉で励まそうとする場面であるはずだ。
だが、目の前の医師が放ったのは、ただ「休養を取れ」という極めて現実的な指示だった。
「リィさん。今日からしっかりご飯を食べて、適度に運動して、早めに寝ましょう」
「え? え?」
「また、セロトニンのバランスを整える……心がすっと楽になるお薬も出しておきますね」
「あ、あの……」
「そして、毎日こうして、私とのんびりおしゃべりしましょうか」
「…………」
リィは、激しく戸惑っていた。
何か耳当たりの良い甘い言葉で、その場限りの慰めをくれるだけなのだと思っていた。
だが、この風変わりな医師は、具体的に「こうしよう」という明確な治療方針を提示してきたのである。
「リィさん。貴方は、病気です。心の病気、うつ病です」
「う……つ?」
「はい。この間も産後うつの方が居ましたが、なにもお産を終えた女性だけがなる病気じゃありません。歳を取っていても、年若くてもなる、心の病気。それがうつ病なのです」
異世界人であるリィに、うつ病という専門的な概念はすぐには理解できないだろう。
それでも構わないと、トーコは聖母のように優しく微笑みかける。
「焦らず、ゆっくりと治していきましょう。大丈夫、私は貴方の心がすっかり治るまで、ずっと側にいますよ」
「あ……」
側にいる。決して離れない。
真っ直ぐに見つめてくるトーコの澄んだ瞳は、嘘を吐いているようには到底思えなかった。
リィの家族は、姉弟はもういない。二度と会えない。
自分のそばにいて、自分というちっぽけな存在を認めてくれる人間は、この世界のどこにもいなかったのだ。
でも、目の前のこの女性は、一緒にいてくれると言う。
見えない心の病気を、共に治してくれると言う。
「…………」
教会の聖女や高位の治癒師は、ただ無機質に治癒の魔法をかける。ただ、それで終わりだ。
でも、この人は違った。
魔法なんて使わない。
見えない病を治すために、長い時間をしっかりと費やしてくれるという。
自分という存在に、どこまでも深く寄り添ってくれる。
その事実が、リィにとってはひどく温かく、嬉しかった。
「あり、がとう……先生」
「いえ。さあ、今日はまずゆっくり眠りましょうね」
トーコは、シーツの上で震えていたリィの細い手を両手で優しく包み込む。
じんわりと伝わってくる確かな人の温もりを感じながら、リィは静かに安らかな眠りにつくのだった。
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