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400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

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第六十三話 忘れるはずがない

「なぁなぁアレス。そろそろオレにも騎龍くれよ」


 アレスと共にアレスの白龍に騎乗し、エリスは南東の国境付近に向かっていた。


 今回の遠征は五天星(アステリズム)からファイとリーベルが同行することになった。


「…………ならん」


「なんでだよ! リミナにいた頃は緑龍に騎ってたんだぞ」


「知っている」


「だろうな! アレスと始(・)め(・)て(・)会ったのもその時だもんな!!」


 プク〜と頬を膨らませるエリスの腰に、アレスの手が回される。


「……なんだよ」


「……今回は、離れん」


「……もしかして、離れないって物理的な意味だったのか!?」


「あはははは、愛されてるね〜エリスちゃん!」


 左前方を飛んでいた黒龍がアレスの白龍に近づく。


「――リーベル」


 エリスは菫色の瞳でリーベルを睨みつけた。


「……おお、怖い。

 でもさ、諦めた方がいいよ」


「はぁ!?」


「アレスは、エリスちゃんと白龍の上でイチャイチャしたいんだって!」


「おい! リーベル!

 冗談は休み休み言えよ!!」


「あはははは! 冗談かどうかはアレス本人に聞いてみなよ!」


「おい! リーベル!!

 地上に降りたら覚悟しとけよ!!」


 エリスが声を荒げる。

 だが、アレスの腕はエリスの腰から離れることはなく――むしろ、力強く抱きしめられるのだった。 


「二人とも、お遊びはここまでだ――」


 ファイの青龍が右前方から近づいてくる。


「あそこが南東の国境だ――」



✕✕✕


 地上に降り立った四人は、リーベルの案内で昨日変異種と戦った地点に来ていた。


「……昨日は、ここに大型の変異種と、人狼型の変異種がいたんだ」


 リーベルが戦場の跡を指さす。


「……………………何か、昨日と違うことはあるか?」


「んーそうだねぇ――」


 リーベルが周囲を見回す。


「……見た目は何も変わってないけど……。

 とりあえず、魔力感知してみるよ」


「…………待って」


 エリスの声がリーベルを制止する。

   

「どうした、エリス」


 アレスがエリスの顔を覗き込む。

 

「……分かんねぇ」


 菫色の瞳が揺れていた。

 

 エリスは無意識に胸元へ手を当てる。

 

 痛いわけではない。

 苦しいわけでもない。

 それなのに――胸の奥が、妙にざわつく。

 

「なんか……変じゃないか?」

 

「変?」

 

「うん。なんて言えばいいのか分かんないけど……あっちの方から変な感じがする――」

 

 エリスは、戦場跡のさらに奥の森の中を指さした。

 

 アレスの瑠璃色の瞳が細められる。

 

「龍脈か――?」

 

「分かんねぇよ。そもそもオレ、龍脈なんて感じたことないし」

 

「……なるほどねぇ」

 

 リーベルがいつもの笑みを消した。

 

「じゃあ、調べてみようか」

 

 リーベルは墨色の瞳を閉じる。

 すると、足元に何十もの群青色の魔法陣が展開された。

 

「…………これは――!」

 

「――どうした?」

 

「昨日と違う」

 

 リーベルが目を開く。

 

「昨日より――龍脈の流れが乱れてる」


「――!」


「……確かに、エリスが指さした方角に、龍脈があるようだな」


 ファイは地図を広げて見せる。


「じゃあ、そこに行ってみる?」


「……そうだな。というか、手がかりがそれしかない」


「……アレス?」


 エリスがアレスに指示を仰ぐ。


「……分かった。龍脈まで行ってみよう。

 ファイ、リーベル。案内を任せた」


「はっ!」

「了解〜!」


 ファイとリーベルが強く頷いた。

 


✕✕✕


 しばらく歩くと、古い建物があった。


「……これは、何だ?」


「……おそらく、砦の跡だな」


 地図を見ながら、ファイが答える。


「砦?」 


「ああ、ルクサリス建国前の遺物だな」


「建国前?」


 エリスは古びた砦を見上げる。

 

「ルクサリスを建国したのは、アレスがマルスを倒して龍王になった後なんだよな?」

 

「ああ」

 

「――ルクサリス帝国が建国されたのは、三百年ほど前だ」 

 

 ファイの言葉に、エリスはしばらく黙った。

 

「………………」

 

 そして、隣にいるアレスを見上げる。

 

「…………今更だけど、アレスって三百年前からルクサリスの皇帝やってんの?」

 

「……そうだが」


「……三百年も同じ事やって、よく飽きないなって」

 

「…………エリス」

 

「あははは! 確かにねぇ!」


 リーベルが声をあげて笑う。


「でもね、エリスちゃん。

 アレスには三百年かけてまでやるべき事があったんだよ?」


「……やるべき、事――?」


「――リーベル! その話は今しなくてよい」


「……?」


「ごめんね、エリスちゃん。

 この話はまた今度だってさ!」


 リーベルは墨色の瞳で片目をつぶる。


「あ、ああ。分かった」


(……アレス……。何かオレに秘密にしてるのか?)


 その時、先程と同じ違和感がエリスの胸をよぎる。


「…………」

 

 不意に、エリスの笑みが消えた。

 

「……アレス」

 

「どうした」

 

「やっぱり……こっちだ」

 

 エリスは再度、砦を見上げる。

 

「さっきから感じてる変なやつ。……この中からする」  



✕✕✕


 四人はエリスの言葉に従い、砦の中に入った。


「………………」


 砦に入った瞬間、四人はある違和感に気がつく。


「……ファイ、さっきここはルクサリス建国前の砦だって言ってたよな?」


「ああ……」


「でも、それにしては――」


「キレイすぎるって?」


 リーベルがエリスの言葉を遮る。


「……ファイ。この砦をここ数年で使った者はいたか?」


「――いや。私が記憶している限り、この砦は三百年前から放棄されている」


「…………野盗とか、盗賊とかの根城になってるとか?」


「その可能性は否定出来ないが……」


「とりあえず、進んでみれば分かるんじゃないの?」


「まあ、そうだな――」 


 エリスが一歩踏み出す。


 ――ドクン!


「…………っ!?」


 先ほどとは明らかに違う感覚がエリスを襲う。


(……っ、なんだ、これ……?)


「……エリス? どうした?」


 エリスの様子に、すかさずアレスが近寄る。


「…………なんか今、下の方から変な感じがした――」


「――下、か……」


 アレスは少し考える。


「ファイ、この下は龍脈か?」


「……おそらくは」


「リーベル、調べろ」


「はいはい」


 リーベルは再び群青色の魔法陣を展開する。


「…………うん、龍脈で間違いなさそうではあるけど……、なんか変っていうか――。

 これは、まるで――――」


「……御託はいい。

 下(・)に行けば分かるんだな?」


「んー、まぁそうなんじゃない?

 因みに検索魔法でこの周囲を調べたけど、下に続く通路とか階段は一切反応なかった――」


 ――ドォォォン!


 リーベルの説明を遮るような轟音――。


「――――――アレス!?」


 アレスは何事もなかったかのような涼しい顔をしていた。


「――アレス。今の行動で、歴史的な遺構を破壊した可能性があるぞ?」

 

「…………お前、脳筋にも程があるだろっ!!」


 ファイとリーベルがアレスをたしなめる。

 だが、アレスは悪びれる様子もなく、そのままエリスを見つめる。


「これで、地下に行けるぞ」


「………………」 


「…………それに、俺は脳筋ではない――」


(アレス、“脳筋”気にしてんのかな……?)


 リーベルは密かに思った。


「ん? というか、脳筋、ってなんだ?」


 エリスはリーベルを見つめる。


「…………脳みそ筋肉の略だよ」


 リーベルはエリスに耳打ちした。


「おいリーベル! エリスに変なことを吹き込むな!」


「……まぁいい、とりあえず下に降りよう。

 そうすれば全てが分かるはずだ――」


 ファイの言葉に三人は頷いた。


 アレスの穿った穴から降下した四人は、広い空間に出た。


「リーベル」


「はいはい。俺ってば今日めちゃくちゃこき使われてるなぁ」


 リーベルは嘆き、光の球体を数個出す。


「…………これは――」


「……なにか儀式でも行われていたのか?」


 リーベルが出した光の球体が縦横無尽に動き回り、空間を照らす。

 そこは、無数の魔法陣の跡が残る巨大な空間だった。

 

「…………砦の下にこんな空間があったとは……」    


「…………アレス、この文字は――」


 エリスが魔法陣に近づく。


「…………っ、これは、古代文字!?」


「古代文字?」


「ああ。少なくとも、この砦が造られるより遥か以前のものだな……」

 

「じゃあ……三百年以上前から、ここにあったってことか?」

 

「おそらくな」

 

 エリスは改めて周囲を見渡した。

 円形に広がる巨大な空間。

 床には幾重にも線が刻まれ、それらは中央から放射状に伸びている。

 

 古びているはずなのに、その一部だけが――赤黒い光を帯びていた。

 

「……でも、あれは古代文字じゃないよね」

 

 リーベルの声から、いつもの軽さが消える。

 

「明らかに後から書き足されてるな……」


「……龍脈へ干渉するための術式、か――?」

 

「……ファイ、調べられるか?」

 

「ああ、少し時間をもらえれば――」


 ファイが魔法陣を調べようと魔法を発動させようとした瞬間――。


「――その必要はない」


 どこからともなく、声が聞こえる。


 一同は声が聞こえた方角――後ろを振り向き、リーベルの光の球体が黒い外套を捕らえる。


 外套には見覚えのある赤い紋章――。


「…………っ!?」


「赤龍教団、か――」


 エリスとアレスの手が、同時に剣に触れる。


「…………まさか、龍王自らお越しになるとは――」 


 赤龍教団の男がパチンと指を鳴らした。


 すると、エリスたちを教団員が囲む。


「…………こんな所に潜んでたんだ?」 


 リーベルは、からかう様に墨色の瞳を細める。


 教団員たちはリーベルの問いには答えず、一斉に詠唱を始める。


「……ファイ」


「ああ、この程度の詠唱……。

 私たちが後れを取ることはない――」


 ファイも剣を掴む。


「……アレス。分かっていると思うが、ここは龍脈の近くだ――。

 下手に強力な魔力を使うと、龍脈がどうなるか分からない。だから――」


「……分かっている。ここでは基本魔術しか使わん――」 


 教団員から放たれた魔力弾をファイが弾く。


 それを合図に次々と放たれる魔力弾――。


 それぞれが弾を弾き飛ばし、隙を見ては教団員も同時に吹き飛ばしていった。


 数回の攻防を経て、ファイが気づく――。


「…………妙だな――」


「――ファイ?」


 エリスが問いかける。


「……奴らから、殺気が感じられない……。

 それに、この単調な攻撃は、私たちを倒そうとしているようには思えない――」


「………………本気を出せないのは俺たちだけじゃなくて、あちらさんも同じなんじゃないの?」


 リーベルが魔力弾を弾きながら言う。

 

「――いや」

 

 ファイは剣を振るいながら、教団員たちの動きを追う。

 

「それだけではない。

 奴らは先ほどから、一度もこの場所を離れようとしていない」

 

「…………?」

 

「私たちを倒すことが目的ではないとすれば――」

 

 ファイが赤黒く脈動する術式へ視線を向けた。

 

「――時間稼ぎか!」

 

「――何のための!?」

 

「それはまだ――」


 ――ドクン!   


「――――っ!」 


 先ほどよりも強く、胸の奥が脈打った――。


「…………この奥、か――?」


「エリス?」


「…………奥に……、なにか――い(・)る(・)」 


「……エリスちゃん、何か感じたんだね!

 そういう事なら俺に任せて!」


 リーベルの瞳が群青色に輝く。  


「――龍脈に干渉せずに、コイツらの動きだ(・)け(・)を止めればいいんだろ?」 


 その口元が、不敵に吊り上がった。

  

「――【時空固定・影縫の檻(クロノ・バインド)】!」


 リーベルは自らの魔力が外部へ漏れないよう、周囲に結界を張る。

 それと同時に、幾重もの群青色の魔法陣が展開され、一斉に教団員たちを取り囲んだ。 

 

 次の瞬間――教団員たちの動きが止まった。


「今だ! エリスちゃん!」


「――リーベル!」


「いいから行って!!」


「っ、分かった!!」


 エリスはリーベルが止めた「時」を走り抜ける。


「――ファイ、リーベル。ここは頼む」


 そう言い残し、アレスはエリスの後を追った。



 

 エリスは暗い通路を駆け抜けた。

 

 近づくたびに、胸の奥がざわめく。

 

 ――知っている。

 

 なぜか、そんな気がした。

 

「…………っ」

 

 やがて辿り着いた最奥。

 そこには――巨大な影が横たわっていた。



「…………ここか?」


 エリスに追いついたアレスが足を止める。


「…………うん」


 アレスは無言で光の球体を出した。

 淡い光が暗闇を押し退け、目の前の巨大な影を照らしていく。

 

 そこには――

  

 痩せ細った四肢。

 力なく床へ落ちた翼。

 身体中を這う、赤黒い術式。


 その身体から伸びる赤黒い光は、床に刻まれた術式へと繋がっていた。

 

 そして――

 

 かつて鮮やかだったはずの鱗は、見る影もなくくすんでいた。

 

「…………龍……?」

 

 アレスの声。

 けれど、エリスには届かなかった。

 

「………………」

 

 震える足で、一歩。

 

 また一歩。

 

 近づいていく。

 

 その時――

 

 龍の瞼が、ゆっくりと持ち上がった。

 

「――――っ」

 

 濁った瞳が、エリスを映す。

 

 そして、ほんのわずかに――その瞳が揺れた。

 

『…………グ……ゥ…………』

 

「…………嘘、だろ」

 

 忘れるはずがない――。

 

 その声も。

 その瞳も。

 

 何度もその背に乗り、リミナの空を駆けたことも――。

 

「…………お前……」

 

 エリスの声が震える。

 

「……お前、なのか……?」




最後まで読んでいただきありがとうございます!


「……お前、なのか……?」


南東の国境で見つかった謎の砦。その地下深く、幾重もの術式に縛られ痩せ細っていた巨大な龍――。


そして、ラストでエリスの脳裏に溢れ出した、決して忘れるはずのない記憶。


リーベルの【時空固定・影縫の檻(クロノ・バインド)】の技のキレやアレスの豪快な「脳筋」いじりから一転、あまりにも切なく波乱を予感さる展開に……!


最奥で囚われていた龍の正体とは、一体――。


激動の展開を迎えた本作ですが、次回は本編を一度お休みして、季節感たっぷりの番外編をお届けします!✨


【次回予告】


次回、10月31日(土)はハロウィン特別番外編!


『吸血鬼の仮装、必要ですか?

~吸血鬼と魔女の収穫祭~』


※本編の時系列・設定とは関係のない、ルクサリスの賑やかな収穫祭(ハロウィン)のお話です!


仮装に身を包むルクサリスの面々と、相変わらず「菓子よりイタズラ(吸血)」を要求してくるアレスの愛の重さをお楽しみに!


(※本編の第六十四話は11月4日(水)21時更新予定です。)


「衝撃のラストに鳥肌が立った!」「ハロウィン番外編のふたりが楽しみすぎる!」と思った方は、ぜひページ下部の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆(評価)】をポチッと押して応援していただけるとめちゃくちゃ執筆の励みになります!


次回の更新もどうぞお楽しみに!

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