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400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

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【ハロウィン特別番外編】吸血鬼の仮装、必要ですか? 〜吸血鬼と魔女の収穫祭〜

※ハロウィン特別編です。

本編の時系列・設定とは関係ありません。

 もしも、ルクサリスに収穫祭(ハロウィン)があったら――。



「おはよう、エリス」


 爽やかな朝の光が、アレスの私室に差し込む。


「…………ん…………」


 名前を呼ばれたエリスは、うっすらと瞳を開ける。

 声の主は、隣で自分を抱きしめている白銀の人物ではない。


(……この声は――)  


「――っ! ディアナお義姉様!?」


 エリスは慌てて起き上がる。

 いや、起き上がろうとして、アレスにガッチリホールドされた。


「おい! アレス! 離せ!!」


「……………………」


 じたばたするエリス。

 アレスの締め付けが、強くなる。


「寝たフリしてんじゃねぇよ! はーなーせー!!」


「…………ならん」


 そう呟くと、アレスはエリスを胸に抱き込んだまま上体を起こす。


「――うわぁ!」


「ふふ。朝から見せつけてくれるね」


 ディアナの楽しそうな声。

 表情は見なくても分かる。

 琥珀色の瞳を細め、猛禽類が獲物を狙う時のような目をしているに違いない。   


「お、お義姉様! いつもこうじゃないんですよ!?」


「ふふふ、大丈夫。分かっているよ。

 でも、朝から楽しいものが見られた」


「お義姉様――!」

「……姉上――」


 エリスとアレスが同時にディアナを呼ぶ。


「なんだい。二人とも?」


 アレスの束縛から無理やり逃れたエリスが問いかける。


「こんなに朝早くから……!

 何かあったんですか!?」         

 

「ふふふ、エリスはいい子だね――、

 実は、今日は特別なお祭があるんだよ」


「――お祭?」


「うん、収穫祭(ハロウィン)っていうんだけどさ」


「……はろ、うぃん――?」


「そう。ルクサリスでは昔から続いている収穫祭なんだけどね」


「あ! 収穫祭ならオレでも知ってるぞ!」


「うんうん。でもね、ルクサリスの収穫祭は、普通の収穫祭とちょっと違うんだよ――」


 エリスはディアナの両手に持たれている袋に目をやる。


「昔はね、この日は死者の世界とこちら側の境界が曖昧になるって言われてたんだ」

 

「へぇ」

 

「それで、悪い霊に連れていかれないように、魔物や亡霊の格好をしたのが仮装の始まりなんだって」

 

「……なるほど。

 ん? って言うことは、つまり――?」

 

「ふふふ。というわけで――」

 

 ディアナが満面の笑みを浮かべ、手に持っていた袋をエリスとアレスにそれぞれ手渡した。

 

「二人には、その衣装を着てもらうよ!」

 

「えっ!?」


「あ、これは皇帝の姉であるボ(・)ク(・)からの命(・)令(・)だよ」 


「…………はぁ?」


「……姉上、皇帝は俺だぞ?」


「知ってるよ?」


「では、なぜ皇帝の俺にまで命令する――?」


「そんなの、ボクがアレスの姉だからだよ――」


 堂々と言い放つディアナに、アレスは言葉が続かなかった。


「あ、そうそう。今、渡した袋はまだ開けないでね」


「…………え?」


「今夜、収穫祭のパーティーを開くから、その衣装を着てきて欲しいんだ――」


「………………」


「衣装は着替える時に見てほしい。それから――」


 ディアナは琥珀色の瞳を細めてニッコリと笑う。

 

「お互いの衣装も、今夜のパーティーまで見ちゃダメだよ」

 

「え? なんでだよ!?」

 

「その方が楽しいだろう――?」

 

「誰が!?」

 

「ボクが♡」

 

「お義姉様ぁぁぁ!!」  


「俺は参加するとはひと言も――」


「アレス。

 今、衣装は受け取っただろ? それはもう、強制参加だよ――」  


 アレスが、沈黙した。

 

(アレスが黙ったぁぁぁぁぁ!!)

 

 皇帝であり龍王でもある男をたった一言で黙らせたディアナを前に、エリスはゴクリと息を呑んだ。


(さすがディアナお義姉様――!!) 



✕✕✕


 ――そして、その日の夜。


「…………お義姉様。これ、本当に着なきゃダメか?」


「おや? ボクが心を込めて用意した衣装になにか文句でもあるのかい?」


「……いや、文句っていうか――」


 エリスはディアナが用意した衣装を身体に合わせる。


「…………布の面積、少なくない?」


「そんなことないよ。もっと少なくも出来たけど――。これはボクから義妹への優しさ、だよ」


 ディアナは琥珀色の瞳でウィンクしてみせた。


「………………」


「それにさ! 帽子が大きいから問題ないよ♡」


「いや、帽子の大きさは関係ねぇから!」


「クス――。特別に、ボクが着付けてあげるね♡」 


 ディアナが微笑みながらどんどん距離を詰める。


「あ、……いや、やめろぉぉぉぉぉぉ!!」 


 城内に、エリスの絶叫が響き渡った。



✕✕✕


 パーティー会場に着くとすぐ、エリスは一人で放置された。


『ボク、自分の用意があるからまた後でね〜♡』


 ディアナの言葉がリフレインする。


「……はぁ~、お義姉様にも困ったもんだ。

 こんな恥ずかしい格好させられて、後は放置――」


 エリスはディアナによって黒と紫を重ねた魔女の衣装を着せられていた。


 紫の薔薇で飾った大きな三角帽子を被せられているコルセット風の魔女の衣装――百歩譲ってそこまではいい。


 問題はスカートだった。

 

 後ろは幾重もの布が足元まで優雅に流れているくせに、前だけがやたらと短い。

 黒いレースのニーハイはガーターベルトで繋がれ、その間からは白い太腿がしっかりと覗いていた。


「……もしかしてエリスちゃん!?」


 呆然と佇んでいたエリスに、見知った声がかけられる。


「……リーベル!」


 声をかけられた方を振り向くと、そこには黒衣の上から白い包帯を無造作にグルグル巻きにされた男と、白いフード付きの布をふわりと被った青年がいた。


「リコも!」


 エリスは見知った顔に出会い、嬉しさのあまり二人に駆け寄る。


「わわっ! エリス様! そんなに近づかれると、どこ見ていいか分からなくなっちゃう」


 リコが慌てて視線を外す。


「………………?」


「いや、俺はいいんだけどさ――。

 でも、今日の俺は見られたくないっていうか……」


「………………??」


 リコは頬を赤く染め、リーベルは死んだ目をしていた。


「…………お前たちもディアナお義姉様に命令されたのか?」


「うん、まぁそんなところかな?」


「…………お前らは――」


「よぉ! 似合ってんじゃねーか! リーベル、リコ!」


 エリスの言葉を遮り、リコとリーベルの間から、赤い男が現れた。


 その男はリーベルとリコの肩を豪快に掴む。


「……リュケイオス!」


「あぁ!? なんでヴァイオレット・レイスもここにいんだよっ!!」   


 リュケイオスは赤と黒の衣装に毛皮を纏い、頭には赤い狼耳、腰には尾。鋭い牙と爪まで備えた姿をしていた。


「………………」


「あぁ!? なんだヴァイオレット・レイス、その目は!?」


「……いや、仮装とは思えないほど馴染んでると思って――」


「はぁ!? テメェ俺に喧嘩売ってんのか!?」


「喧嘩は売ってないが、そっちがその気なら買ってやってもいいぞ!?」


 エリスの菫色とリュケイオスの朱色の瞳が睨み合う。


「――エリス嬢。リュケイオスも落ち着け……。

 今宵は、そういう祭典ではない――」


 リュケイオスの後から大柄の男――サトゥルが顔を出した。


「サトゥル!」


 エリスに名前を呼ばれ、サトゥルは恥ずかしそうに近づく。

 黒と深緑の重厚な衣装に、首元の金具や縫い痕を模した装飾を加えた怪物姿。


「――凄い迫力だな!」


 リュケイオスとの睨み合いを終え、エリスがニカッと笑う。


「……そうか? エリス嬢もなかなかの迫力ではあるが……」


「え? オレも――?」


 その時。


 ――コツ。コツ。


 どこからか、足音が近づいてくる。


「――エリス」


 聞き慣れた声。

 エリスは振り返る。


「――アレス……」


 そこには、黒を基調に深紅を差した、立て襟の長いマントと白いフリルシャツを着こなしたアレスが立っていた。


「…………お前、いつもとあんまり変わらんな」


 エリスがポツリと呟く。


「……ん? 何か言ったかエリス。

 お前は、とてもよく似合っている……」


 アレスは、エリスの全身に舐め回すような視線を向ける。


「…………っ、どこ見てんだよ!」


「衣装を見ている」


「……衣装って! い、今違うとこ見てただろ!?」


「……違うところとは、どこのことだ?」


 アレスの長い指が、エリスの頬に触れる。

 それから流れるような動作で首筋から肩に流れた。


「――こんな格好をさせられて、これでは俺(・)にどこからでも吸ってくれと言っているようなものではないか……」


「はぁ!? 何いってんだよ!?」


「……見て分からんか? 今の俺は吸血鬼だ――」


「…………だから?」


「……つまり、お前の血を吸い放題――というわけだな」       


 アレスが瑠璃色の瞳を光らせ、口元から牙を覗かせた。


「………………なんだ、やっぱりいつもと何も変わらないじゃないか」


「………………」


「だって、お前いつもオレの血吸ってんじゃんかよ」 


 腰に手を当てて、堂々と言い放つエリスに、周りは吹き出した。


「……ぷっ、エリスちゃん全然色気ないねぇ」

「僕、アレス様がかわいそうになってきた――」

「ぎゃはははは! 泣く子も黙る龍王様を黙らせっちまったぞ!」

「…………………………エリス嬢――」 


「え? なんでお前らが笑うんだよ!!

 オレ、なんか変なこと言った!?」


 右往左往するエリスに、周りは笑いが止まらなくなっていた。


「おやおや。ボクがいないのに盛り上がっていて大変結構結構――」


「…………ディアナお義姉様! と、ファイ!」


「…………私を取ってつけたように呼ぶな」


「……って、お義姉様……! その格好は……!!」


「ふふふ、せっかくの仮装だからね。

 一番ボクらしい衣装にしてみたよ」


 そう語るディアナは、白と金で統一された優美なドレス姿。背中には大きな純白の翼、頭上には金色に輝く光輪までも装備していた。 


「……………………それって、天使?」


「ふふふ、見れば分かるだろ?

 みんながいつもボクに対して思っているであろう姿を実現してみたんだよ♡」


「……………………」


 ディアナの言葉に頭を抱えるファイ。

   

 ファイは、黒と濃紺のフード付きローブを纏った姿。金の装飾を散らした衣装に、青白く輝く大鎌を携えている。


「あ、ファイはなんの衣装なんだ?」


 無邪気に聞くエリスに、ディアナは嬉しそうに答える。


「ファイは死神♡ ボクとお揃いでカッコいいだろ?」 


「え? どこがお揃いなんだ?」 

 

「ふふふ。どっちも魂を迎えに来るところ♡」

 

「え!? そういう括り!?」


「ふふふ。

 因みに――エリスは魔女で、アレスは吸血鬼!

 リーベルがミイラ男で、リコがゴースト。

 リュケイオスが狼男で、サトゥルがフランケンシュタインだ」


 ディアナが一人一人指を指して衣装を説明する。


「ねぇディアナ!」


 そこで、声を上げる人物が一人。

 そう、リーベルである。


「俺、この収穫祭の趣旨は気に入ってるんだよ。

 別に仮装も大賛成だった……でもさ――」


「…………」


「なんで俺がミイラ男なの!?

 俺だって、もっとカッコいい吸血鬼とか死神とかデーモンとかが良かったんだけど!?」


「…………そうなのかい?

 ボクはてっきり、リーベルならカッコよく着こなせると思って用意したんだけど…………。

 イヤ、だったかい――?」


「うっ……!!」


 琥珀色の瞳が、上目遣いでリーベルを見上げる。

 いつも飄々としているリーベルの耳が赤くなっていくのをリコは見逃さなかった。


(リーベルって、もしかしてディアナ様のことまだ――)


「わ、分かったよ! ミイラ男でも蜘蛛男でもなんでも! ディアナが用意したものは着るよ!!」


「クス。……それでこそ、ボクが知っているリーベルだね」


「………………」


「まぁ、みんな似合ってるからいいじゃないか!」


「そうだね! せっかくの収穫祭、楽しもう!」


 リコの掛け声に、一同は笑顔になった。




✕✕✕


 しばらくして――。

 収穫祭の宴も、すっかり賑やかになっていた。


「なぁ、アレス〜」 


 収穫祭のご馳走に舌鼓していたエリスが、アレスの横に座った。


「……なんだ」


「一人でワイン飲んでたのか?」


「ああ、お前から血を吸えないからな――」


「………………。

 それ、真顔で言ってるの引くわ――」


 エリスはうーんと伸びをして、アレスの顔を覗く。


「さっきディアナお義姉様から教えてもらったんだけどさ……」


 エリスは、もじもじしながらアレスを見上げた。


「トリック・オア・トリート」 


「………………」


「お菓子をくれないと、イタズラしちゃうぞ?」


「……………………」


「…………これ、知らない?」


「いや、知っている」


「じゃあ――」


「菓子はない。だからイタズラで頼む」


「…………は?」


「――なんだ、自分から言っておいて何もしてくれんのか……」


「い、いや! 今イタズラの内容考えてたの!」


「……そうか」


「そうだ!」


「…………では、俺からも」


「ん?」


「トリック・オア・トリート」


「……え?」


「なんだ、自分は言われないとでも思っていたか?」


「いや、そうじゃねぇけど……。

 アレスも菓子欲しかったの?」


「……いや、どちらかというと、イタズラをしたいしされたい」


「…………はあ? 頭大丈夫か?」


「……俺はいつでも本気だ」


 アレスはエリスの耳元で囁く。


「エリス。俺が欲しいのは、いつでもお前だけだ――」


「………………っ」


「今夜の吸血は、遠慮なく行くぞ?」 


 そして、軽く首筋に唇を落とす。


「………………! お、お前……!!」


「どうした? 俺の魔女(ウィッチ)」


「……やっぱり、吸血鬼の仮装してもしなくても、やってること変わらねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!」




 吸血鬼と魔女の夜の戦いは、また別のお話――。

                                      




最後まで読んでいただきありがとうございます!


「……やっぱり、吸血鬼の仮装してもしなくても、やってること変わらねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!」


というわけで、本編の重たい展開から一転、寒暖差で風邪をひきそうな(?)ルクサリスのハロウィン収穫祭をお届けいたしました!✨


ディアナお義姉様の無敵の天使姿や、上目遣いに即落ちするミイラ男リーベル、そして「菓子よりイタズラ(吸血)」を堂々と要求してくるアレスの相変わらずの愛の重さ……楽しんでいただけましたでしょうか?笑


さて、たっぷり息抜きをしたところで……次回はいよいよ本編再開です!


【次回予告:第64話「友の声」】


南東の国境で見つかった謎の砦。その地下深く、痛々しい姿で横たわる巨大な影を前に、感情を抑えきれず駆け出そうとするエリス。


「……止まれ」

「……罠かもしれん……」


動揺するエリスを静かに制し、解き放たれた術式の調査へと動き出すアレス、ファイ、リーベルの三人。


紐解かれていく残酷な術式の真実と、暗闇の奥から届くか細い「声」――。


そして明かされる、エリスの《血》に秘められた真の本質とは――!?


次回、第64話「友の声」。


11月4日(水)21時更新予定です!


「ハロウィン回のふたりにニヤニヤが止まらない!」「本編の再開とエリスの血の秘密が気になりすぎる!」と思った方は、ぜひページ下部の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆(評価)】をポチッと押して応援していただけると、めちゃくちゃ執筆の励みになります!


【ちょっとした余談】


実は今回のハロウィン特別編、遊び心でAI音声を使った約2分のボイスドラマまで作ってしまいました笑


アレスとエリスが実際に会話しているのを聴いて、作者が一人でニヤニヤしております笑


公開するかどうかはまだ未定なのですが、もし「ちょっと聴いてみたい!」という方がいらっしゃいましたら、コメントでこっそり教えていただけると嬉しいです♪


次回の更新もどうぞお楽しみに!

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