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400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

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第六十一話 離れない証

 ミカエラとリュケイオスが退室し、執務室にはアレス、エリス、ファイ、ディアナの四人が残っていた。


「これで、差し当たっての問題は片付いたかな?」 


 ディアナは、優雅にティーカップに口をつける。


「…………目下のところは、な――」


「………………」


 エリスは執務机にあるアンクレットを見つめていた。


「――ファイ。お茶も飲み終わったことだし、ボクたちも部屋に戻ろうか」


「……そうだな。今日は私の部屋に来るのか?」


「そうだね、今日はファイに甘えたい気分なんだ」


「……そうか――」


 ソファーから立ち上がったディアナをファイは当然のようにエスコートする。


「……では、アレス。明日の朝議でな――」


「………………ああ」


 アレスは短く返事をした。     


 ファイとディアナの後ろ姿を見送り、エリスは声を上げた。


「……なあアレス、あの二人って別々の部屋があるのか?」


「は? 何を言っている。

 当然だろう――」


「………………当然、なのか?」


「なんだ、どうした?」


「いや……。そういえばオレ、自分の部屋がないなと思って――」   


「…………必要ないだろう」


「え! 必要だろ!?」


「なぜだ? お前は今まで、俺の部屋で生活していて何か不都合なことでもあったか?」  

 

「え? 別に不都合なことはないけど……」


「なら、それでいい。

 ――それに、俺の側から一歩も離れない、と契約しただろう――」 


「――でも、今日はアレスがオレから離れた……」 


「……?」


「……今日の討伐、オレを城に残して――お前が離れた」


「…………その方が効率がよかったからだ」


「アレス、お前――

 前から思ってたんだけどさ、オレには離れるなって言う割に、自分からはよく離れるよな」


「…………」    


 そこまで言って、エリスは気がついた。


(ん? オレ、今……凄いこと言わなかったか――?)


「あ、ごめん! 今のなしな!

 ……考えないことにするわ」


「…………そうか」


 エリスはアレスに向き合う。


「で、だ。アレス――。

 このアンクレットはどうする?」


「――捨てろ」


「はぁ!? 何言ってんだよ!

 勿体ないだろ!?」


「…………一度他人がつけたものを、つける必要はない――」


「いや、でも……!

 オレは気にしてないぞ!」


「…………ならん」


「いや、オレがいいって言ってるじゃんか!」


「…………俺が嫌なのだ――」


「……え?」


「このアンクレットを見るたびに、お前はきっとミカエラを思い出す――。

 このアンクレットは、俺とお前だけの思い出にしたかったのだ――」  


「……………………」


 エリスはアレスの言葉に目を丸くした。


「……でも、だったら余計に捨てない――」


「……は? 何を――」


「だって、このアンクレットはアレスがオレにくれたモノなんだ。――捨てるのは、嫌だ」


「………………」


「もうつけないからさ! それならいいだろ?」


「…………」


「ほら、ジュエリーボックスの一番下に入れとくからさ! な?」


「…………分かった。その代わり、もう二度と身につけるなよ――」


「…………はいはい、分かってますよ」


「――絶対にだからな……」


「はいはい」 


(…………しつこい――) 



✕✕✕ 


 夕飯を食べ終えた二人は、エリスの自室――ではなく、いつものようにアレスの私室へ戻っていた。


 入浴を終えたエリスは、乳白色の寝間着に着替えていた。


 ――カタン。


「――これでよし!」


 エリスがジュエリーボックスの一番下にアンクレットをしまう。


「――エリス」


「なんだよ」


 エリスは振り返る。

 そこには、濃紺色の寝間着を着たアレスが立っていた。


「……これをやる」


 アレスが黒い箱を差し出す。

 

「………………なにこれ」


「……いいから開けてみろ」


 エリスはアレスに言われるがまま、箱を受け取りパカッと開く。

 すると、箱の中には、二つの細身の銀のブレスレットが並んでいた。

 一つには瑠璃色の宝石が、もう一つには淡い紫色の宝石が嵌め込まれている。


「…………なんだこれ?」


「……アンクレットの代わりではないが、お前にやる」


 エリスは箱の中のブレスレットを見つめた。


「…………二つとも、くれるのか?」


「……いや、片方は俺のだ」


「――え? お前もつけるのか?」


「そうだ」


「…………ふぅーん。アレスもこういうの着けるんだ」


「……何か言ったか?」


「いや、何も?」


「………………」


 アレスはおもむろに淡い紫の宝石が嵌められているブレスレットを手に取る。


「この宝石には、互いの存在を感知するための術式をあらかじめ組み込んでおいた。

 あとは互いの血を媒介に、俺が繋げば完成する」  


「互いの存在……?」

 

「正確な居場所が分かるわけではない。だが――お前が俺から離れても、そこにいることは分かる」

 

「…………」

 

「今日のようなことは、二度と御免だからな――」  


 そして――


 アレスは自分の指を軽く噛み、血を滴らせる。

 その血を、紫の宝石に与えた。


 アレスが小さく何かを唱えると、淡い紫色の宝石が光を帯びた。


「………………」


 ブレスレットは淡く光り、そして何事もなかったかのように静まる。


「エリス。左手を出せ」


「え? 左手?」


 エリスが左手をアレスに差し出すと、血を与えたブレスレットをエリスの腕に嵌めた。


「……………………」


「次は、お前の番だ」


「え? オレ?」


 アレスはエリスの左手を口元に持っていく。


「次は、お前の血を俺のブレスレットに与える」


 アレスが黒い箱を受け取り、瑠璃色の宝石がついたブレスレットをエリスに渡す。


「え?」


「……少しだけ、噛むぞ――」


 戸惑うエリスをよそに、アレスはエリスの指先を軽く噛む。

 エリスの白い指先から血が滴る。


「……血が勿体ない。早くしろ」 


「あ、ああ――」


 エリスは言われた通りに瑠璃色の宝石に自分の血を垂らした。

 すると、先程と同じく淡い光がブレスレットを包み込む。


「――それを、俺の右腕に嵌めてくれ」


「え? 右腕?」


「そうだ」


 エリスは血を与えたブレスレットをアレスの右腕に嵌めた。 


 ――カチリ。


 二人の腕に、銀色のブレスレットがはまった。


「エリス、もう一度左手を出せ――」


「え?」


「……傷を見る」


「いや、傷なんて――」


 有無を言わせず、アレスがエリスの左手を取ると、噛んだ指先を口の中に入れ、そのまま、指先に残った血を吸い取った。

 

「――っ! 何すんだよ!」

 

「止血だ」

 

「これくらい放っとけば止まる!」

 

「……せっかくのお前の血だ。無駄に流すことは許さない――」


「……………………そ、そうかよ!

 じゃあ今日の吸血はそれで終わりな!」


 エリスは赤くなった顔を隠すように、横を向く。


「……エリス」


「なんだよ!」


「……それだけでは、足りぬ――」


「………………知ってるよ!!」


 エリスはドカッとベッドに腰を下ろした。

 そして、藤色の髪を掻き分け、首筋を露わにする。


「――ほら、欲しいんだろ――?」


 ――ゴクッ。


 アレスが固唾を呑んだ。


「…………随分と素直になってきたではないか」


「なっ! オレはもともと素直なの!!」


「――そうか……」


 アレスの瑠璃色の瞳が、狙いを定めゆっくりと近づいてくる。


 エリスはもう逃げない。

 逃げないと決めたから――。


 やがて、白銀の影が目の前に落ちる。


「……エリス――」


「…………ああ」


 そして、首筋にいつもの感覚が訪れた――。



✕✕✕                 


 ――明け方。


 エリスはふと、目を覚ます。


「………………」


 隣からは、アレスの規則正しい寝息が聞こえていた。


「……アレス?」


 抱きしめられるように眠っていたエリスは、アレスの方を向く。


「……起きてる?」


 アレスの精悍な顔が目に入る。


「………………」


 返事の代わりに、強く抱きしめられる。


「……まだ夜明け前だ。もう少し寝ていろ――」


 その時、エリスは左腕につけたブレスレットが目に入った。


「なあ、アレス――?」


「……なんだ」


「なんで、左手なんだ?」


「――何が――」


「ブレスレット……。どうしてオレが左手で、お前が右手なんだ?」


「……………………」 


 アレスは瑠璃色の瞳をゆっくり開くと、自分の右手で、エリスの左手を掴む。

 そして、当然のように、指を絡める。


「…………こうして向かい合った時に、二つが隣り合うからだ――」


「…………え? アレスお前。これ、自分で考えて作らせたのか?」


「…………悪いか」


「…………いや、悪くは、ないけど――」 


「では、この話はおしまいだ」


「………………」


「もう少し、寝ていろ――」


「……うん、分かった――」


(…………アレスって、変なこと考えてるんだな――)


 エリスは繋がれたままの手と、重なり合うブレスレットに視線を向ける。


(…………なんか、恋人ってやつみたい、だな――)


 

 しばらくすると、皇帝の私室には、再び二人分の規則正しい寝息だけが響いていた。

 

 絡められた指は、そのまま――。

 

 エリスの左手首とアレスの右手首で、淡い紫と瑠璃色の宝石が、寄り添うように並んでいた。    




最後まで読んでいただきありがとうございます!


「……アンクレットの代わりではないが、お前にやる」


ミカエラの一件が落ち着き、いつもの平和な(?)二人の時間へ。


アンクレットを巡るアレスの重すぎる独占欲と、「自分からは離れるくせに」と無意識に寂しさを漏らしてしまうエリス。


そんな中、アレスが差し出したのは、互いの血を繋ぐ「対」のブレスレット――。


「……せっかくのお前の血だ。無駄に流すことは許さない――」


指先からの血の吸収、首筋への吸血、そして明け方のベッドの中で交わされる甘すぎる約束と指繋ぎ――。


アレスの愛の重さが炸裂する、激甘お部屋回! いかがだったでしょうか?


【次回予告:第62話「七つの龍脈」】


「――では、朝議を行う」


甘い夜が明け、アルヴァニア城で開かれる緊張感漂う朝議。


昨日、各地で同時に発生した変異種襲撃の裏で、赤龍教団が巡らせていた「恐るべき謀略」が判明する。


彼らの真の目的とは――?


そして提示された、地図上に浮かび上がる「ある異常な地域」。


「――今回は、離れん」


互いの腕に輝くブレスレットを視線で交わし、二人は新たなる目的地へと動き出す!


次回、第62話「七つの龍脈」。


深まる謎と加速する物語、どうぞお楽しみに!


「アレスの愛が重くて最高すぎた!」「ブレスレットの伏線とラストの指繋ぎでニヤニヤが止まらない!」と思った方は、ぜひページ下部の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆(評価)】をポチッと押して応援していただけるとめちゃくちゃ励みになります!


次回の更新もどうぞお楽しみに!

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