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400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

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第五十七話 破られた聖域

「……あれが、“アウレウス・コア”……?」


「あぁ。エリスは初めて見るんだったね。

 あの輝きと魔力……。間違いないよ」


 ディアナはカイに向き直る。


「――なぜキミが、そ(・)れ(・)を持っているんだい?

 それは『白』と『青』の一族しか知らない、アルヴァニアの地下深くに封印されてい(・)た(・)ものだよ?」 

 

「もしかして、カイ! お前が盗んだのか!?」


 エリスの澄んだ菫色の瞳が、カイを捕らえる。


「ははははは。

 エリスは本当に素直でかわいいね……」


「はぁ!? お前、頭沸いてんのか!?」


「その悪態のつき方、やっぱりアランなんだな……」


 カイは両目を閉じ、しみじみと想いを馳せる。


「……俺にだけ、教えてくれればよかったのに――。

 俺なら、ア(・)ラ(・)ン(・)の秘密をずっと守ってあげられたのに……」


「はぁ!? よく言うぜ!!

 リミナ王国(お前たち)が勝手にオレをお前の婚約者にして、戦場から遠ざけようとしたんだろ!?

 龍を鎮める血(・)が欲しかったのか!?

 反吐が出る!!」 


「……エリス……」


「オレは! 人(・)間(・)よりド(・)ラ(・)ゴ(・)ン(・)の方が好(・)き(・)なんだ!」


「……人間……ね……」


 カイの口角が意味深に上がる。  

 

「……想い出に浸ってる最中に申し訳ないんだけどさ、その“アウレウス・コア”。

 返して欲しいんだよね」


 ディアナはカイ目掛けて剣を振り下ろす。

 カイは寸前のところで剣を躱す。

 群青色の髪が数本、風に舞った。


「……おっと、エリスを連れて帰るためには、まずこっちから片付けないと――」


 カイはアウレウス・コアを高く掲げた。


「エリス、ちょっと待っててくれ――」


 カイの声に応えるように、地面からまた数本の“黒い手”が出現した。


 その“黒い手”は、先ほど戦った人狼型変異種へと姿を変え始める。


「ディアナお義姉様、援護します――!!」 


 エリスは、カイが再生した瞬間にカイの身体から弾き出された剣を拾いあげる。


「はぁ〜、キミも芸がないね。

 魔獣討伐は、ボクの得意分野だと言ったと思うんだけど……」


 ディアナはため息をつきながら、再度、白銀の光を纏った剣を真横に振り下ろす。


「【万物浄化・一閃消滅(ロスト・ゼロ)】」


 ディアナの浄化の力で、再び消滅した魔獣たち。


「…………くっ!」


 カイも苦しみの声を上げるが、その時――

 万物浄化・一閃消滅(ロスト・ゼロ)で削り取られた魔力を、アウレウス・コアが瞬時に補っていく。


「…………なるほどね、そういうことか」


 ディアナは剣を振るうのを止めた。


「キミ、ボクの万物浄化・一閃消滅(ロスト・ゼロ)が効かないワケじゃないんだね。

 大したものだよ、何度も浄化されて……、その都度魔力を補填している――」


(……“アウレウス・コア”を直接狙うワケにはいかない――)


(“アレ”を壊すと、封(・)印(・)も壊れてしまう可能性がある――) 


(そもそも、“アレ”を壊すことは許されない――) 


「………………少し、厄介だね」 


 ディアナは小さく呟いた。


「エリス――。ボクが隙を作る。 キミはアウレウス・コアだけを狙え。」 


「……分かった」


 ディアナの琥珀色の瞳と、エリスの菫色の瞳が交わる。


「――行くよ! エリス!!」


「あぁ!」


「【万物浄化(ロスト)】――」


「はっ! またそれか! 芸がないのはそっちもなんじゃないのか!?」


 カイの嘲笑。


「……クス。

 なぁんて、言うと思ったかい?」


 ディアナは剣を地面に突き刺す。


「【白銀封鎖・聖域結界《セイクリッド・サンクチュアリ》】!」


 その瞬間。


 ディアナの足元から白い魔法陣が浮かび上がった。

 それと同時に、幾重にも重なる白い結界がカイを包み込む。


「……っ!? なんだ!?」


「……浄(・)化(・)出来ないなら、供給を封印するしかないよね? ボクの結界の中では魔力を使えないよ。

 ――エリス!」


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ディアナの掛け声と共にエリスがカイに飛び掛かる。


「……くそっ!! “アウレウス・コア”が反応しないっ!!」


 カイが初めて焦りを見せる。


 エリスの剣先が、カイの手元、“アウレウス・コア”を確実に捕らえた。


 いや、捕らえていた。


 後、ほんの数センチのところで、エリスの身体が止まった。


「……なっ!!」


 いつの間にか地面から出ていた赤黒い蔦が、エリスの進行を止めたのだ。


「ッ! なんだこれ!?」


 蔦はエリスの脚元から腕や身体にまで絡みつき、エリスを締め上げる。


「くっ……!」


「エリス!」


 ディアナは気配を探る。


(どこから出て来た!?)


(ボクの結界内では魔力は全て遮断されるのに――!!)


 その時――。


 崩れた正門から、数人の人影が現れた。


「やっと来たか! 遅かったな――!」


 人影を見て、カイの表情が焦りから安堵へと変わっていく。


「……キミたちは、誰だい?」


 ディアナが琥珀色の瞳を細める。


「我々は――」


 黒い外套を纏った男が一歩前に出た。

 外套には、赤い紋章が見える。

 目深にフードを被っているため、顔や表情は分からなかった。


「偉大なる、赤龍マルス様を深く敬愛する者」


「寛大なる、赤龍マルス様を心より信仰する者」 


「――赤龍教団」


 別の男たちが答えた。


「…………マルス」


「随分と懐かしい名前だね――」


 ディアナの表情が見る見る怒りに染まっていく。


「出来ることなら、二度と聞きたくない名前だったよ――」


 ディアナが地面に突き刺した剣に手を伸ばす。


「おっと、動くな――」


 赤龍教団を名乗る男が赤い宝珠を掲げると、赤黒い蔦が再度エリスを締め付け始めた。


「……ぐわっ……」


 エリスからくぐもった声が漏れた。


「……お、お義姉、様……。オレのことは気にせず、アウレウス・コアを……くぅっ……!」


「――エリスを痛めつけるのはやめろ!」


 エリスの苦しそうな顔に、カイは顔を歪めながら赤龍教団に指図をする。


「……ですが、カイ様。

 ディアナ(あの女)は危険です。無力化するにはこうするしか――」


「ええい! エリスは俺のだ! 俺のモノを俺以外の者が汚す事は許さないッ!」 


「……………………」


「そんな事より、さっさと俺の結界を解け!!」


「………………はっ。

 かしこまりました――」


「…………ボクの【白銀封鎖・聖域結界《セイクリッド・サンクチュアリ》】はそう簡単には解けないよ」


 ディアナは大きくため息をついた。


「…………お前ももう黙っていろ!」


 教団の男が、ディアナに向かって赤黒い蔦を伸ばす。


「…………おや。ボクも拘束するのかい?

 用心深いんだね――」


 赤黒い蔦がディアナの身体に絡みつく。


「…………嫌な匂いだ」


 ディアナは抵抗せずに、蔦を受け入れた。


「……お義姉様!!」


「……大丈夫だよ、エリス。

 それにしても、こんな蔦(・)ごときに拘束されるなんて――。

 鍛錬をサボっていたツケが回ってきたね」


(……さて、これからどうしたものか――)


(こんな拘束、すぐに解けるけどそれじゃあエリスが締め上げられる)


(カイ(敵)の狙いは十中八九“エリス”だ――)


(ここで、エリスを傷つける事はなさそうだけど……)


(……赤龍教団がどう出るか読めないね)


 ディアナが戦況の整理を始めると、赤龍教団の男たちがカイに近づく。


 そして、赤い宝珠をディアナが張った結界に近づける。

 宝珠から赤い光が激しく煌めく。


 だが――


「……………………何も起こらないじゃないか…………」


 苛立つカイ。


「…………申し訳ありません。

 これが『白』の結界。やはりこれ一つでは足りませんね……」


 男は仲間に目配せをする。

 すると、四、五人の男が集まり、同じ赤い宝珠を懐から取り出し掲げた。


 宝珠から同様の赤い烈光が放たれる。


「…………………………」


「宝珠のリミッターを外せ!

 今回は『白』が相手だ! 壊れても仕方あるまい!」


 リーダー格の男の号令で、教団の男たちは宝珠に魔力を送り続ける。


「うおぉぉぉぉぉ!」


 男たちの唸り声と共に、赤い宝珠にヒビが入る。


(ディアナお義姉様の結界の方が、強い――!)


 エリスは確信する。


 だが、次の瞬間――。


 ピシッ――!


 ディアナの白銀の結界に赤いヒビが入った。


「…………ウソだろ……?」 


「……………………」 


 エリスとディアナが目を見開く。


 すると、カイが持つ“アウレウス・コア”から赫い閃光が広がった。



 ――パリンッ!


 ガラスが割れたように、ディアナの結界が破られると同時に、赤龍教団の男たちが持つ宝珠も粉々に砕け散った。


「………………相討ちか……」


「……だが、こちらは五つもの宝珠を失ってしまった――」


「これが、『白』の力――!」

 


「…………宝珠など、どうでもいい。

 俺は、エリスさえ手に入れば後は何もいらない……!!」


 割れた結界から抜け出したカイは、ゆっくりと赤黒い蔦で拘束されているエリスに近づく。


「………………カイ……」


「…………エリス。

 やっと、現実(こっち)でもお前に触れられる――!」


「………………ッ!」


 カイはエリスの顎に手を掛けた。


「ずっと待っていたんだよ、エリス――」


 カイの紺色の瞳から赤い光が溢れる。


「……俺と一緒に、リミナに帰ろう……?」


 カイはエリスの顎を力強く掴み、無理やり目を合わせる。


「カイ。何度だって言ってやる。

 オレは――リミナには帰らない!!」


 エリスの菫色の瞳に、邪悪な笑みを浮かべたカイが映る。


「エリス。そんな事言っていいのかな?」


 カイは“アウレウス・コア”に力を込めると、ディアナを拘束していた赤黒い蔦がディアナの首まで伸び、一気に首を絞め始めた。


「…………ぅっ……」


「……形勢逆転……かな?」      


「――お義姉様!」 


「エリスぅ。お前が俺と一緒にリミナに帰る、と言えば――。あの女は助けてやる」


「な、なんて卑怯な!!」


「卑怯? どこが?

 そもそも、俺からエリスを奪ったのはルクサリスの方だ!

 それを返してもらうだけ……」


 カイの顔がどんどんエリスに近づく。


「エリス……! ボクは、だいじょう……ぶ、だから――」


「ディアナお義姉様――!」


「……さぁ、エリス!

 言うんだ!! 『俺と一緒にリミナに帰る』と!!!」


「………………くっ………………。お義姉様…………」


 その時、地上の温度が急激に低下し……。


 世界が凍った――。


 ――パリン!


 エリスとディアナを拘束していた蔦が、音を立てて凍り付いた。


 氷を踏み砕く軍靴の音だけが、静寂に響く。



「……随分と面白いことをしているな」




最後まで読んでいただきありがとうございます!


「アウレウス・コア」を掲げ、不気味な再生能力で執拗にエリスに迫るカイ。


絶望的な状況の中、ディアナの放った『白銀封鎖・聖域結界(セイクリッド・サンクチュアリ)』が発動するも、乱入してきた謎の組織『赤龍教団』の手によって八方塞がりのピンチに……!


人質を取られ、カイから酷虐な選択を迫られたエリス。城が完全に絶望に包まれたその時――世界を凍てつかせる圧倒的な気配と共に“あの男”が舞い戻る!!


「……随分と面白いことをしているな」


【次回予告:第58話「蒼の静謐」】


「俺のエリスに、気安く触るなぁぁぁぁぁ!!」


助けに駆けつけたアレスに対し、怒りを爆発させるカイ。


しかし、ブチギレた龍王アレスの力はまさに圧巻の一言で――!?


「この女は、俺を選んだ――」


圧倒的な力で敵を蹴散らしながら、エリスを抱き寄せ、見せつけるように甘い仕草を重ねるアレス。


そして追い詰められたカイが「真の力」を解放した時、アレスの解き放つ真の秘術が世界を呑み込む――!


次回、第58話! 舞い戻った絶対者の圧倒的な無双と、世界を包む『蒼の静謐』。どうぞお楽しみに!


「アレス様の登場に鳥肌が立った!」「アレスとカイの直接対決が楽しみすぎる!」と思った方は、ぜひページ下部の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆(評価)】をポチッと押して応援していただけるとめちゃくちゃ励みになります!


次回の更新もどうぞお楽しみに!

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