第五十四話 六つの凶報
地下から戻ってきた三人は、アレスの私室で重苦しい空気のまま向かい合っていた。
「…………結局、結界内をくまなく探したが“アウレウス・コア”は見つからなかった」
ファイが悲痛な面持ちで淡々と告げる。
「……探してもなかったって事は――、壊れたか、誰かに盗まれたってことになのか?」
「……おそらく、後者だろうな」
「私もそう考える」
「アレス……。ファイも……」
エリスは二人を交互に見つめる。
「もし、壊れたとしたら“アウレウス・コア”の欠片や破片が落ちているはずだ」
「壊れたんじゃなくて、消滅したとかの可能性は……?」
「……アウレウス・コアが破壊されるワケがないのだ。ましてや自然消滅するなど考えられん――」
そう言い切るアレスにファイは頷く。
「………………そもそもの質問で申し訳ないんだが……、“アウレウス・コア”ってなんなんだ?
黄金龍、ってのと関係があるのか?」
「……さすがエリスだ。勘が鋭いな」
アレスは瑠璃色の瞳を少しだけ見開く。
「ヴァイオレット・レイスの名は伊達ではない、と――」
ファイも感心したように頷いた。
「…………それは、褒められているのか、貶されているのか――」
エリスは二人を半目で睨む。
「褒めているに決まっている。そうだろ? ファイ」
「あぁ。少ない情報でこれにたどり着いたのは、さすがの観察眼だ――」
「…………ぜんぜん、褒められてる気がしない――」
ぶすっとするエリスに目を細める二人。
「話がズレてしまったが、“アウレウス・コア”とは、黄金龍ジュピテル・アウレウス様が作り出した魔力結晶のことだ」
「魔力、結晶??」
「ああ、ルクサリスの均衡を保つために必要な結晶だ」
「……ルクサリスの均衡を保つ?」
「簡単に言うと、地下に封印してあることで、ルクサリスの龍脈を抑えて魔力を安定させているのだ」
「……他にも、瘴気を浄化させたり、アルヴァニア城の結界を維持する役目もある」
「……なるほど! なんとなく分かったぞっ!」
アレスとファイの説明を聞き、エリスは大きく頷いた。
「つまり……、ルクサリスにとってなくてはならない大切な魔力結晶なんだな!」
「……まあ、ザックリ言うとそうなるな」
「間違いではないが――」
アレスとファイはエリスの大雑把な解釈に釈然としないまま頷いた。
「で! “アウレウス・コア”の事がなんとなく分かったから話しを戻すけど。
龍魔族の最上位級の黄金龍が作った“アウレウス・コア”がそんな簡単に壊れたり、自然消滅する事はあり得ない、と! だから盗まれた可能性が高いって言ってたんだな」
「……理解が早くて助かる」
「それで、問題は“誰が”盗んだか――だけど……」
「おそらく内部犯、あるいは城内に“内通者”がいると考えるのが妥当ではないか?」
「…………例のメイドか?」
「可能性はある」
「え、でも待ってくれよ!
あの『封印の間』は『白』か『青』、あるいはそれに連なる者じゃなければ通れないんだろ?
だったら、そのメイドは『白』か『青』に連なる者だったってことか?」
「………………理論上はそうなるな――」
「だが、今この城にいる『白』と『青』は私とアレス、それにディアナしかいない――」
「そもそも、アルヴァス家とキュアノエイデス家は分家を持たない――。
そのメイドが最上級階級に連なる者だとは、考えられないな――」
「じゃあ、誰が盗んだって言うんだ?」
「……それが分かれば苦労はせん」
「ソラリスの女王にエリスのアンクレットを渡し、我々の目がアンクレット捜索に向いている間にアウレウス・コアが盗まれたか……」
「では、アンクレットは“陽動”か――?」
「……そう考えるのが妥当だな」
「…………陽動でオレのモノを盗むなんて、とんでもないやつだ!」
プリプリ怒っているエリスの隣で、アレスがポツリと呟いた。
「まあ、“陽動”と……、エリスの“動揺”を狙ったのかもしれないな」
「………………だれが上手いことを言えと言った!」
エリスがツッコミを入れると同時に、ノックの音が聞こえた。
――トントン。
「陛下! 失礼いたします!」
「……入れ」
アレスの許可と共に、入室してきたのは近衛隊長だった。
「陛下! ああ、ちょうどよかった。
キュアノエイデス卿もいらしたんですね」
三人は近衛隊長の言葉に顔を見合わせた。
「緊急事態です!
突如として変異種が現れましたっ!」
「変異種……だと?」
「はい! このアルヴァニア城から東に位置する都市に、変異種とみられる魔獣が出現したとの情報が――」
「陛下! 失礼いたします!
南の農村より、急報がッ――!」
近衛隊長の言葉を遮り、別の伝令が飛び込んできた。
「失礼いたします! 西の街道に変異種が――!!」
「北の砦より救援要請ですッ――!」
「なっ――!」
次から次に伝令がやってきて『変異種』の出現を告げる。
「……アレス!」
「……アウレウス・コア盗難の影響がこんなに速く出たのか――」
エリスとファイの言葉に、アレスは決断を下した。
「……五天星を招集しろ」
「……はっ! 仰せのままに――!」
✕✕✕
軍事会議場には既にリーベル、リュケイオス、リコ、サトゥルの四人が集まっていた。
「アレス様……! また変異種が出たって聞いたけど……?」
「リコ……。耳が早いな」
「そりゃあ、こう見えても諜報部隊長ですからね!」
リコは自分の胸元をトンっと軽く叩く。
「そんなことより陛下ぁ! 今回はどこに出たんだ?
今回も是非、俺に出撃命令を出してくれ!
ヴァイオレット・レイスよりも、俺の方が強い事を証明してやるよ――!」
「なっ――!」
「あらあら、リュケイオスったら殺気立っちゃって」
「あぁ!? 俺が今ムシャクシャしてるのは誰のせいだと思ってるんだ! メラン卿!?」
「……誰のせいだろ?」
「お前だよ! お前!! お前とヴァイオレット・レイスのせいだ!!」
「オレもか――!」
「……陛下、今回も陛下は出撃なさるのか?」
「……サトゥル」
「もし、わしで力になれる事があれば、遠慮なく言って欲しい――」
「あぁ。そのつもりだ――」
アレスはファイと目配せをする。
「これより、突如出現した変異種討伐についての軍議を行う――!」
ファイの声に会議場は静まり返った。
「まず、皆も知っての通り突如として変異種が出現した」
一同は頷く。
「そして、今回出現した場所は――」
一拍。
会議場に沈黙が流れる。
「東の都市『アウロラ』、南部農村地、西部の街道、北の砦、北西部にある商業都市『メルカティア』、南東に位置する国境付近、計六ヶ所に同時多発的に出現した――」
「はぁ!?」
「六ヶ所!?」
「しかも、同時……だと……!?」
「陛下! これはいったい……!」
「……お前たちが混乱するのも仕方なかろう――。
だが、これは事実だ――」
アレスの低い声が会議場に響き渡る。
「こんなん、どうすんだよ!?」
「俺たちがそれぞれ受け持つしかなくない??」
「……それが賢明だな――」
「でも、『五天星』が全員出撃したとしても、あと一箇所足りないよね……?」
「そこは、問題ない――」
再び開かれたアレスの口。
「……俺、自ら出撃する――」
「待てよ、アレス!」
アレスの言葉を遮ったのは菫色の瞳の騎士。皇帝陛下の剣――エリス。
「そこはオレが行く――!」
「……ならん」
「はぁ!? 何でだよ!!」
「その話は後だ。
先に、配置を決める――!」
膨れっ面のエリスをよそに、アレスはファイに指示を出す。
「ファイ、変異種の出現場所と被害状況の確認を――」
ファイは頷き、地図を広げる。
「……一番被害が多い場所はどこだ?」
「……報告によると、東の都市『アウロラ』の損傷が激しいようだな――」
ファイは地図で『アウロラ』を指さす。
「……ならば、そこに俺が向かうとしよう――」
「リーベル、お前は南東の国境に向かえ」
「はいよ」
「リュケイオスは西の街道へ行け」
「おう!」
「リコは北の砦に向かえ」
「はい!」
「サトゥルは南部農村地だ」
「承知した」
「ファイ、北西部の『メルカティア』を頼む」
「分かった」
「そして、エリス――」
アレスは瑠璃色の瞳でエリスを見据える。
「……お前は、城に残れ――」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
「アウレウス・コア」の紛失と、時を同じくしてルクサリス各地に同時多発的に現れた6箇所もの『変異種』。
事件の裏に潜む「陽動」と「内通者」の影、そして国家未曾有の危機に、皇帝アレスをはじめとする『五天星』が全面出撃する怒涛の展開となりました!
そんな中、アレスから下されたのはまさかの「城に残れ」という留守番の命令。
納得がいかず抗議するエリスでしたが、アレスから告げられた“真の意図”とは――!?
【次回予告:第55話「城を守る者」】
「はぁ!? 何言ってんだよ! アレス!」
自分だけ城に残されることに納得がいかず、猛反論するエリス。
しかし、兵も飛龍も持たない現実をファイに突かれ、さらにアレスから思わぬ“役割”と護衛役を告げられることになり……。
出撃の刻、大空へと舞い上がる龍たち。
そして、見送るエリスに対してアレスが見せた、あまりにも罪深い“一動作”とは――!?
次回、第55話! 試される『皇帝の剣』の覚悟と、手薄になった城に迫る新たな影。どうぞお楽しみに!
「お留守番と言われたエリスはどうするの!?」「出撃直前の二人が気になる!」と思った方は、ぜひページ下部の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆(評価)】をポチッと押して応援していただけるとめちゃくちゃ励みになります!
次回の更新もどうぞお楽しみに!




