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400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

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第五十二話 『封印の間』

「……とても素敵なアンクレットだね――」


 まず、口を開いたのはディアナだった。

 琥珀色の瞳からは表情を読み取れない。


「ええ! 今朝メイドが届けてくれましたのぉ♡」


「アンクレットを贈るのは、『束縛』とか『永遠の愛』の意味があるのでしょ?

 わたくし、もう嬉しくて嬉しくて……! 今にも踊り狂いそうですわぁ♡」


 クルリとみかん色のドレスをひるがえし、一回転するミカエラ。うっとりとした表情でアレスを見つめる。


「……陛下。城内で捜索しているエ(・)リ(・)ス(・)の(・)私(・)物(・)と同じものかと――」 


 今まで黙っていたファイが口を開く。


「………………ソラリスの王女よ。誰が届けた」


 淡々と告げるアレス。


「メイドさんですわぁ♡」


「『アレス陛下から、“昨日のお詫び”』だと仰っていましたわぁ♡」


「………………そうか」


 アレスは瑠璃色の瞳を伏せる。


 その声からは感情を読み取れない。 だが、長年彼に仕えるファイには分かった。

 

 ――陛下(アレス)は怒っている。

 

「ファイ。調べさせろ――」


「はっ、直ちに――」


 ファイは一礼し、テラスから去っていく。


「あららぁ? どうかなされたのかしらぁ?」


 ミカエラは頬に手を当てて首を傾げる。


「なんでもないよ、ミカエラ。

 ――さぁ、お茶会を再開しようか……」 


「……アレス様も参加されますかぁ?」


「いや、俺は……」


 アレスはエリスを見つめる。


 エリスの菫色の瞳は、ただ一点――ミカエラの左足首を見つめている。


(あれは……オレがアレスから貰ったアンクレットだ――)


(どうしてアイツが身につけている……?)


(あれは……、あのアンクレットは……、オ(・)レ(・)の(・)なのに――)   




✕✕✕



「……座れ――」


 アレスの優しい声。


「……あぁ……」


 エリスはアレスに言われるがまま、アレスの私室のソファーに腰を下ろす。


「……何か口にするか?」


「え……あ、……いらない――」


(どうしたんだオレ――。

 アンクレット、見つかってよかったじゃないか――)


(でも……、あれは本当に“見つかった”と言うのか?)


 エリスは自分の手を握りしめる。


「アレス。すまない――。

 オレがずさんなせいで、みんなに迷惑かけたな……」


「もう、大丈夫だから!

 アンクレットも見つかってよかったじゃないか!」


「これで、心配事はなくなったな!」


 わざと明るく言ってのけるエリスを、アレスの瑠璃色の瞳が見据える。


「エリス。謝るべきなのは俺の方だ。

 ――不愉快な想いをさせて、本当にすまない。

 あのソラリスの王女は、そのうち処分する……」


「ばっ! 処分とか人聞きが悪い!!

 簡単にそういうことは言わない方がいいぞ!」

 

「それに、ソラリスってのと戦争になれば厄介なんだろ??」


「……戦争になっても、ルクサリスの優位性は変わらない――」


 アレスの手が、エリスの顔に触れる。


「エリス。……俺は、お前に二(・)度(・)と(・)悲しい思いをさせたくないのだ――」 


「……アレス……?

 オレは別に悲しい思いなんて――」


 ――トントン。


「……アレス。入るぞ――」


 エリスの言葉を遮るように、ノックの音が響く。


「あぁ、入れ――」


 アレスはエリスから手を離し、扉の方を向いた。 


 扉を開け、入室してきたのはファイ。


 ファイは浅葱色の瞳でアレスとエリスを交互に見やる。


「……アレス。該当メイドが判明した。

 近衛隊長の調べと、メイド長の証言も一致している――」


 エリスとアレスが息を呑む。

 

「では、その者を連れてこい――」


 アレスの言葉に、ファイは首を横に振った。


「……それはできん。

 なぜなら――該当メイドの消息がつかめなくなった」


「…………どういう事だ?」


 アレスは慎重に問いただす。


「…………該当メイドが失踪した」


「なんだと……?」


「メイドの私室には、制服だけが残されていた……」


「――逃げられたのか?」


「いや……、逃げたと言うよりは、最初から戻るつもりがなかったように感じられた」


「……それって、オレのせいで――」


 エリスがソファーから立ち上がる。

 

「先ほども言ったが、エリス。お前は何も悪くない」


 アレスは瑠璃色の瞳をエリスに向けた。


「……アレスっ、でも――!」


「それと、もう一つ。

 皇帝陛下(お前)の耳に入れたい事がある――」


 ファイは神妙な趣でアレスに近づく。


「…………地下の……、例の結界に、ごく僅かな綻びが確認された――」


 アレスの眉がピクッと動いた。


「…………地下の、封印……?」


 聞き慣れない単語を、エリスは復唱した。


 アレスとファイはお互いに目配せする。


「地下に……、このアルヴァニア城の最深部に、ルクサリスが建国以来守り続けてきた“あるモノ”を封印している」


「“あるモノ”……?」


「エリス。お前はまだ、知らなくていい――」


 エリスはファイを見る。


「……国家秘密だ。

 このアルヴァニア城でも、存在を知っている者は、ごく限られている――」


 ゴクリ。

 エリスは固唾を飲む。


「そうか、分かった」


 エリスは静かに頷いた。


 しばしの沈黙後、重い口を開いたのは、アレスだった。


「……地下の封印を確認する」


「あぁ、承知した」 


 ファイが頷く。


「エリス。……お前も一緒に来てくれ」


「え? ルクサリスの秘密の場所なんじゃないのか?」


「……これから先、お前にも関わる話だ――」 


 アレスは有無を言わせぬ声で、低く呟く。


「……分かった。一緒に行く――」


 アレスとファイは頷き合う。


「……行くぞ」


 アレスの後に、エリスとファイが続く。


 三人はアルヴァニア城の地下深く――建国以来、誰にも知られることなく守られ続けた"封印の間"へと向かった。




最後まで読んでいただきありがとうございます!


アレスから贈られた大切なアンクレットを奪われ、気丈に振る舞いながらも心の中ではモヤモヤを隠しきれないエリス。


強がりなエリスが見せた素直な思いとすれ違い、いかがだったでしょうか……!


容疑者メイドの失踪、そしてソラリス王女に対するアレスの冷徹な一言。


不穏な影が蠢く中、三人はルクサリス帝国の最高機密――アルヴァニア城の最深部に眠る『封印の間』へと足を運ぶことになりますが……。


【次回予告:第53話「アウレウス・コア」】


建国以来、誰一人として近づくことを許されないアルヴァニア城の地下最深部――『封印の間』。


最高位の一族『六星龍』の中でも『白』と『青』でなければ通れないはずの禁域で、なぜか起き始める数々の“異常”。


アレスの指先がエリスの首筋に触れ、真相を確かめようと奥へ進む三人だったが、辿り着いた祭壇で彼らを待ち受けていたのは――言葉を失うような衝撃の光景だった。


「……何が起きてるんだ……!?」


次回、第53話! 明かされる秘宝の存在と、静かに忍び寄る致命的な影。どうぞお楽しみに!


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次回の更新もどうぞお楽しみに!

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