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400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

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第五十話 ひとつ足りない

 朝議を終え、アレスと共に私室に戻ったエリスは、息つく暇もなくディアナの襲来に遭っていた。


「アレス。ソラリスの王女の件、助かったよ」


「――いや、失礼を働いたのは俺だ。

 ……当然の対処だ」


「待てアレス。そもそもソイツが怒ったのって“オレのせい”だよな?」


「お前は関係ない」


「でも――!」


「そうだよ、エリス。

 これはルクサリスの王が、ソラリス王国に失礼を働いただ(・)け(・)の話さ」


 ディアナは白銀の髪をクルクルと指でもて遊ぶ。

 

「――そもそも、ソラリス側も相当失礼だったとは思うけどね」 


「で、でも――」     


「エリス。お前は何も間違ったことはしていない。

 そもそも、俺もあのミカエラという王女には迷惑していた」


「……アレス――。

 オレのせいで、お前の立場が――」


「アレスの立場は揺るがないよ」


 ディアナがピシャリと答える。


「エリスは何も心配しなくていい――」


 ディアナは琥珀色の瞳を揺らす。 


「……ディアナお義姉様……」 


「はぁ~、本当はこんなくだらない話をしに来たんじゃないんだ」


 ディアナは不機嫌そうに首を横に振る。


 その時――


「ディアナ……、準備が出来た」


 皇帝の私室の扉を開ける音と共に、ファイが顔を出した。


「ファイ! さすがボクのフィアンセ。

 仕事が早い」


 ディアナはファイに向き合い、ウットリした表情を浮かべた。 


「エリス。ここからは“楽しい”話をしよう。

 昨日はとても愉しかったね」


 琥珀色の瞳を細め、いつものディアナに戻る。


「……楽しかった?」


 エリスはディアナの言葉を反芻する。


(昨日……、何か“楽しいこと”あったか――?)


 不思議そうなエリスをよそに、ディアナはファイに目配せをした。


 ファイはメイドたちに合図を送る。


 すると、メイドが次々と皇帝の私室に荷物を運び始めた。


「エリス。これは昨日ボクをとびきり愉しませてくれた礼さ――。

 遠慮せずに受け取ってくれ給え」


 メイドが運び込んだ箱を開けると、中から様々な装飾品が出てきた。


 金や銀細工の髪飾り。

 宝石が散りばめられたティアラに、ネックレス。

 ブレスレットやイヤリング――。


 ありとあらゆるジュエリーとアクセサリーがところ狭しと入れられていた。


「ディアナお義姉様!! これはいったい!?」


「ボクを愉しませた褒美だよ。

 本当はもっとたくさん用意したかったのだけど、時間がなくてこれしか調達出来なかった。

 ごめんね、エリス」


「いやいや! こんなにたくさん十分過ぎる!

 それに、こんなに要らない……というか、使う機会がないぞ!?」


「……姉上、エリスに贈り物をするのは俺だけでいい――」


「おやおや、男の嫉妬は醜いよ?」


 ディアナは琥珀色の瞳を細める。


「……アレス。今までキミはエリスに何を贈ったんだい?」


「ディアナお義姉様……!

 アレスからは昨日のドレスも仕立てて貰ったし、チョーカーとかアンクレットも貰ってる!」


「それに、ルクサリスでのオレの居場所だって――!!」


「エリス。それとこれとは話が違うよ」


「ボクは、アレスが男(・)として、エリスに何を贈ったのかを聞いているんだ」


「お義姉様……!!」


「エリスは黙っていて。

 アレス、エリスにちゃんと求(・)婚(・)したのかい?」


「なっ……!!」


「ソラリスの王女の求婚を断るんだ。

 それなりの理(・)由(・)は必要だろ――?」


「ディアナ。今はそこまでの話をする必要はないのではないか?」


「ファイ……!」


「……そうだね、ボクとしたことが焦ってしまったよ」


 ディアナはいつもの笑みを取り戻す。


「エリス……。付ける機会がないと言ったね?

 ――心配しなくても大丈夫だよ」

 

「社交界は毎晩、どこかしらの屋敷で開かれている。

 皇后候補として、挨拶回りも大事だよ」


「なっ!!」


 エリスは顔を真っ赤にする。


「クス。そうだエリス。

 今、ボクが着けているこのネックレスもね、ファイが選んでくれたんだよ――」


 そう言うと、ディアナは浅葱色宝石が着いた首飾りをずらして見せる――。


「ディ、ディアナお義姉様――!

 その、首の痕……」    


 ディアナはニヤリと口角を上げる。


「おや? 見えてしまったかい?

 実は昨日、ファイにたくさん可愛がられてしまってね……」


ディアナはファイに近づく。


「エリス。いいものを見せて上げる――」


 そう言うと、ディアナはファイの襟元を少し引っ張りズラす。


「………………!!」


 ファイの首筋には、ディアナと同じような赤い痕が刻まれていた。


「……ディアナ」


「ふふふ。ボクも思わず付け返してしまったよ――」


 頬を赤く染め、恥ずかしそうに自分の頬に手を添えるディアナ。


「見せなくていい――」


「いいじゃないか、減るもんじゃないし――」


 淡々と言うファイに対して、ディアナは嬉しそうに答えた。


「……吸血(これ)って、本来はお互い吸い合うものなのか!?」


 エリスは自分の首元を押さえる。

 昨日刻まれた痕。

 まだズキズキと疼く。


「ぷっ! あははははは!!

 なんだい、それ! そんな反応されたら、ボクもエリスの血を吸いたくなってしまうよ!!」 


「それはダメだ!」


 ディアナの言葉に、すかさずアレスが反応する。


「ふふふ。冗談だよ、ジョーダン」


「姉上が言うと冗談に聞こえない――!」


 アレスはエリスを後から抱きしめた。


「うわぁ! ちょっ、バカアレス! 何しやがる!!」


「…………誰にも渡さない。

 例え、それが姉上でも……な――」


 瑠璃色の瞳が冷たい光を放つ。


「ふふ。少しからかい過ぎてしまったね」


 ディアナはそう言ってクスリと笑うと、ファイの腕に手を絡めた。


「この装飾品は好きにしていいよ、今日のお詫びも兼ねて……ね」


 ファイがディアナの腰に腕を回した。


「……それとアレス。

 この部屋でエリスと過ごすのなら、ジュエリーボックスくらい置いてあげたらどうだい?」


「ボクの贈り物がしまえないからね――」


 ディアナとファイが私室から出て行く。


 部屋にはメイドが持ってきたたくさんの装飾品。


「…………取り敢えずこれ、どーすんだよ」


「…………考える――」



✕✕✕



 数時間後。


「アレス様〜! 言われた通りジュエリーボックス用意しましたよー!」


「リコ、サトゥル。ご苦労だった……」


 リコとサトゥルがアレスの私室にジュエリーボックスを運んでいた。


「うわぁ、なんだそのタ(・)ン(・)ス(・)!」


「エリス様、これがジュエリーボックスです」


 ドヤ顔で運び込んできたタンス、もといジュエリーボックス。

 リコが観音扉を開けるとティアラや首飾りが掛けられようになっていた。


「下の段に、腕輪や指輪、耳飾りのような小物を入れる場所もある」


 リコとサトゥルの説明に目を丸くするエリス。 


「だって、殿下からの贈り物、たくさんあるから普通のサイズのジュエリーボックスじゃ全部入り切らないでしょ?」


「うっ……、確かに……」


 エリスは床に置かれた装飾品を眺める。


「エリス嬢。もし手伝いが必要ならいつでもお呼び下され」


「ブロイン卿……、助かるよ」


「それと、エリス嬢。

 わしのことも“サトゥル”と呼んでいただいて結構ですよ」


「え……?」


「やったねエリス様!

 サトゥルもエリス様のこと、認めたってことだよ!」


「……リコ……。そ、そうか。なんかくすぐったいな。

 でも、ありがとう、サトゥル」


 エリスのはにかんだ笑みに、リコ、サトゥルは微笑む。


 だが、その心温まる光景をよく思わない人物が一名。――アレスである。


「サトゥル、リコ。

 そのジュエリーボックスを運び終わったら持ち場に戻れ――。

 後は俺(・)とエリスと二人だけで出来る――」


「おい、アレス! せっかく運んでもらってそんな言い方はないだろ!?」  


「エリス様、大丈夫ですよ~」


「陛下の一途さはよく理解している」


「リコ、サトゥル……」 


「またなにかあったら呼んでね〜」


「では、失礼する――」


 リコは軽やかに手を振り、サトゥルは騎士の一礼をし、皇帝の私室を退室した。          


「………………やるか……」


 エリスは意を決して、ディアナからの贈り物をしまい始める。


「あ、そうだ――」


 エリスはおもむろに立ち上がり、アレスの仕事机の引き出しを開けた。


「どうした?」


「いや、お前から貰って引き出しにしまっておいたチョーカーとアンクレットも、ジュエリーボックスに移そうと思って……」


「……そうか」


 アレスの瑠璃色の瞳が細まる。


 ゴソゴソと引き出しを漁るエリス。


「……あれ? アンクレットがない――」      




最後まで読んでいただきありがとうございます!


「……吸血って、本来はお互い吸い合うものなのか!?」


私室に乱入してきたディアナお義姉様とファイの激重な愛と、首元に残されたキスマーク(吸血痕)の見せつけに真っ赤になって困惑するエリスちゃん!

アレス様の「誰にも渡さない」という猛烈な独占欲爆発、いかがでしたか……?


そして、リコとサトゥルがドヤ顔で運んできた「タンス型ジュエリーボックス」(笑)。

サトゥルに認められて「ありがとう、サトゥル」とはにかむエリスちゃんと、それに嫉妬を隠せないアレス様のやり取りにほっこり……


――としていたのも束の間。

引き出しに大切にしまっていたはずの、アレスからもらったアンクレットが消えていることに気づいたエリス。


甘い空気から一転、城内に忍び寄る不穏な影とは一体――!?


【次回予告:第51話「杞憂なら、それでいい」】


「アレス。お前からもらったアンクレット知らないか?」


消えたアンクレットを探すため、全メイドを動員して大捜索を命じるアレス。

しかし、城を知り尽くした優秀なメイドたちが束になっても見つからないことに、アレスは単なる「紛失」ではない危険な違和感を抱く。


「……エリス。これはたんに“なくした”だけの話ではないかもしれない――」


そんな中、ディアナからのお茶会の誘いを受け、中庭のテラスへと向かう二人。

そこには、ソラリスの王女・ミカエラが待っていた。

強烈な勘違いと謎のポジティブ理論でエリスを煽り、アレスに擦り寄るミカエラ。

絶対零度の冷気を纏うアレスに対し、彼女は不敵に微笑みながらドレスの裾を持ち上げる――。


次回、第51話! 暴走する王女の勘違いと、静かに怒りを燃やす皇帝の真価をお楽しみに!


「サトゥル呼び胸熱!」「タンスで笑ったのにラストで一気に鳥肌!」「アンクレットどこいったの!?」と思った方は、ぜひページ下部の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆(評価)】をポチッと押して応援していただけるとめちゃくちゃ励みになります!


次回の更新もどうぞお楽しみに!

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