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400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

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第三十九話 社交界は殺し合い、そして夜の距離が近すぎる

「……決めたよ、エリス」


 テラスでアレスに迫られているエリスを見て、ディアナが微笑む。


「三日後に開かれるボク主催の社交界にキミを招待しようじゃないか」


「…………は?」


「おや? リミナでは社交の場はなかったのかい?」


「いや……、そんな事はない。

 オレはリミナ王子の婚約者だったんだ。――前にも言っただろ」


 エリスの表情が一瞬曇る。


「……じゃあ、基礎は出来るんだね?」


「……基礎は、な」


「ふうん。じゃあ早速見せてもらおうか」


「……今? ここで?」


「今、ここで」


 ディアナの無言の圧力に屈したエリスは瞳を閉じて深呼吸した。


「……本日はお招きいただきたい光栄至極にございます」


 その声音は落ち着いていた。

 呼吸も、姿勢も、お辞儀も、全てが整っている。


 それはまるで――別人の所作。 


「ほう」


 ディアナの瞳が細まる。


「今のは悪くない」


「……当然です」


 エリスは静かに答える。


「最低限の教育は受けていますので」


 完璧な言葉遣い。


 隙のない所作。


 だが―― 


「“最低限”、ねぇ」


「それで満足している時点で、三流だ」


 ディアナはくすりと笑う。


「つまらないな」


「は?」


 思わず素が出る。


「今の顔だよ、それ」 


 くすくすと楽しげに笑う。


「作った顔より、ずっといい」 


「……っ」


 一瞬、言葉に詰まる。


(やめろ)


(そこを見るな) 


「君はさ……」 


 ディアナは続ける。 


「“ちゃんと出来る子”だ」 


 褒め言葉。


 だが、その視線は鋭い。



「だからこそ、雑だ」



「意味わかんねぇよ……」 


「分かるだろう?」


 即答だった。


「“出来るから、手を抜いている”」



「――っ」



 踏み抜かれる。

 

「本気を出せば完璧になる」


「だから、あえて崩す」

  


「その方が楽だからね」



「そんな事はない」


 反射的に否定する。


「あるよ」 


 ディアナは楽しげに笑う。 


「でなければ、あの切り替えは出来ない」


 逃げ道がない。 


「今のキミはね、エリス」 


 一歩、距離を詰める。


「壊れないように、軽く振る舞っている」


「――……っ」 


 息が詰まる。

 

 図星だった。 


(やめろ)


(それ以上言うな)

 


「いいじゃないか」 


 ディアナの声は優しい。


 けれど残酷だった。



「そういうの、嫌いじゃないよ」


「……褒めてるのかそれ」


「もちろん」


 にっこりと笑う。 


「だから壊したくなる」


 その笑みには、一切の躊躇がなかった。

 

「なっ! 最低だなお前!!」

 


 即座にツッコミが飛ぶ。



「ふふっ、今のもいい」 


 ディアナは心底楽しそうだった。


「その“戻り方”がいい」 


「戻り方ってなんだよ!!」


「完璧と素の落差」


 指先で軽く示す。 


「普通はどちらかに寄るんだけど……」 


「どうやらキミは違うらしい」 


「両方を持ったまま、揺れている」


 にやり、と笑う。 


「――非常に好ましい(面白い)」 


「面白がるな!!」 


 完全にペースを握られていた。 


 その様子を見ていたファイが、ぽつりと呟く。 


「……確かに――不安定だ」 


「お前もかよ!!」 


 エリスが叫ぶ。 


「安定していた方が良いのかい?」


 ディアナが首を傾げる。


「完全な王妃か」


「ただの少女か」

 


「どちらがいい?」 


「……っ」 


 答えられない。

 

「選べないだろう?」 


 静かに言い切る。


「なら、そのままでいい」 


 そして―― 


「その代わり」

 

「キミに社交界で生き残る方法を教えてあげるよ――」


「手取り足取り……ね」


 ディアナが琥珀色の瞳を細め舌なめずりをする。 

 

「――――ッ!」


「拒否はさせないよ。

 アレス、キミの大事な剣を少し借りるよ」


「…………分かった」


 短く答える。


「おい! アレス!!」


「近いうちにお前をルクサリスの社交界に連れていくつもりだった」


「近いうちって……」 


「安心するといい」


 ディアナが微笑む。


「礼儀作法の確認など、今さらするつもりはない」 


「……だろうな」 


(むしろそれなら助かる) 


「君はもう、“出来る”」 


 一歩、距離を詰める。 


「問題は――使っていないことだ」


「……なんだと?」 


「正しく振る舞うことと、勝つことは違う」

 

 その一言で、空気が変わった。 


「ルクサリスの社交界はね――」 


 ディアナの瞳が細まる。 


 

「――殺し合いだよ」



 静寂。

 

 ディアナの言葉がエリスに静かに刺さった。

 

「――三日後。楽しみにしているよ、エリス」

 

 その笑みにどこか嫌な予感を覚えながら、エリスはようやく息を吐いた。

 

(……面倒なことになった)



✕✕✕


 

 ――その夜。

 

 

 部屋はいつもと同じはずだった。

  

 だが。

 

「……エリス、契約(約束)の時間だ――」

  

 アレスの声が妙に近く感じる。 

 

「……分かってる」


 エリスは短く答える。

 

(これは、契約だ)


 だけど――

  

(……なんだよ、これ)


 さっきの感触が、消えない。

  

 距離が妙に意識に残る。

 

 触れられる。

 

 それだけで、神経がざわつく。

 

 アレスの吐息が首筋にかかる。

 

 ――近い。

  

 ――昼間のことを思い出す。

  

(……違う)

 

(あれは、ただの事故だ)

 

 

 そう言い聞かせながら、エリスは視線を逸らした。




最後まで読んでいただきありがとうございます!


「正しく振る舞うことと、勝つことは違う」

「ルクサリスの社交界はね――殺し合いだよ」


ディアナお姉様、どうでしょうか……!?

エリスが「完璧にこなせるからこそ、あえて崩して自分を守っている」ということを見抜き、優しくも残酷に踏み抜いていく心理戦。キャラクターの深みが一気に増した回でした!


そして夜、いつもの「契約(吸血)」の時間に、昼間のキスの感触を思い出して動揺するエリスちゃん……。甘さと切なさが大爆発していましたね!


ですがみなさん、次回……カオスすぎる展開にニヤニヤが止まらなくなる準備をしておいてください!!笑


【次回予告:第40話「仮想舞踏会・模擬戦」】


翌日、ディアナに訓練棟へ呼び出されたエリスとアレス。

そこに待ち受けていたのは――なんと、色とりどりのドレスを纏った「見覚えのある面々」!?


「エリス様! エリス様も着替えて下さいな!」

「……この見た目は自分の理想の姿だったりするのか?」

「んなわけねーだろ!!」


突如として開幕したツッコミどころ満載の「仮想舞踏会」。

そして混乱するエリスの前に現れたのは、誰よりも美しく、誰よりも完成された“白銀の令嬢”アレス様で――!?


「……教えてやる。“勝つ”というのは――こういうことだ」


次回、第40話! 華やかすぎる(?)舞踏会と、爆美女アレス様の容赦ないお仕置きをお楽しみに!

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