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400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

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第三十八話 お義姉様の実演(※キスシーン)と、アレスのいじわる

 庭園にまだ熱が残っている。


 エリスの絶叫の余韻が、空気に微かに震えていた。


「……事故、ねぇ」


 ディアナが楽しげに呟く。


 琥珀色の瞳が細まり、まるで獲物を見つけた猛禽類のようにエリスを見つめた。


「事故で済ませるには、少しばかり――顔が赤すぎないかい?」


「うるさい!!」


 即座に返すエリス。


「ほんとに事故だからな!? 本当だからな!?」


「ふふ……」


 ディアナは笑う。

 

(ムキになればなるほど、愉しい――)


「なるほどね。では――」


 一拍。


 その視線が、ゆっくりと横へ流れる。


「“本物”を知らない、ということかな?」


「……は? “本物”?」


(嫌な予感しかしない――!)


 エリスの背筋に、ぞくりと冷たいものが走る。


「ファイ」


 名前を呼ばれた男は、静かに視線を上げた。


 浅葱色の瞳が微かに細まる。


「……やめておけ」


 低く、短い制止。


 だが――


「なぜ?」


 ディアナは笑う。


「教育は大事だろう?」


「教育!?」


 エリスが叫ぶ。


「な、何の教育だよ!!」


「もちろん、“接吻”だよ――」


 あまりにも堂々とした宣言だった。


「いらない! 必要ない!!」


 エリスは即答するも、その拒否は意味をなさない。


 ディアナは椅子から立ち上がり、流れるような動作でファイの元へ歩み寄る。

 

「見ているといい、エリス」


 ゆっくりと。

 最初から逃げ場などないように――。


「こういうものは、言葉で説明するよりも――」


 ファイの前で止まる。


 そして。


「実演した方が、分かりやすい」


「い、や、やめろってぇえええ!!」


 エリスは一歩後退しながら叫ぶ。

 だが、その叫びは届かなかった。


 ディアナの手が、迷いなくファイの首に回される。

 そして、軍師の端整な顔を、自分の方へと引き寄せる。

  

「……ディアナ」


 ファイの声が、低く沈む。


「今は――」


「いいじゃないか」


 遮るように囁く。


「少しだけ、付き合え」


 その言葉にほんのわずかだけ、ファイの瞳が揺れた。


 ――次の瞬間。


 重なった。


「――っ!!」


 エリスから声にならない悲鳴が漏れる。


 それは、さっきの“事故”とはまるで違った。


 絡め取るように。


 ただ触れるだけでは終わらない、“支配”の気配。


  触れた、その一瞬だけで——違う、と分かる。


 ファイの瞳がわずかに歪み、その手がディアナの腰を強く引き寄せる。


 ――深く。


 やがて唇が離れた時。


 距離は、ほとんど離れていなかった。


「……ディアナ」


 低く、掠れた声。


「これ以上は――キスでは済まない」


 その言葉に、ディアナは楽しげに笑った。


「おや」


 唇を指でなぞる。


「それは困るな」


 全く困っていない顔だった。


 そして、くるりと振り返る。


「――どうだい、エリス」


 完全に愉悦に満ちた瞳。


「これが“接吻”だ」


「いや知らん!!」


 エリスは顔を真っ赤にして即否定した。


「知らんし分かりたくもない!!」


 エリスは頭を抱える。


「なんだ今の!? オレは何を見せられた!?」


「ふふ、参考になっただろう?」


「なるかぁあああ!!」


 庭園に再び絶叫が響く。


 その様子を見ながらアレスが一歩、距離を詰める。


「……質が低いな」


 淡々と、言い切った。


「は?」


「見せ物としては、な」


「おやおや、言うようになったじゃないか――」


 ディアナは琥珀色の瞳を楽しそうに細める。


 アレスはエリスの目の前で止まり、逃げ場を塞ぐように、低く囁く。


「……教えてやろうか」

 

 逃げ場を完全に塞ぐ声で、そう言った。


「な、何を――」


「“逃げられないやつ”を――」


 さらに一歩、距離を詰める。


「効率的で、支配的なやつだ」


「やめろぉおおおおお!!!」


 エリスは全力で拒否するも、逃げ場はない。


 ディアナが楽しそうに見守っている。

 ファイは目を逸らし、呟く。


「最悪だな」 


 サトゥルは、静かに視線を外した。


(味方がいない!!)


 アレスの顔が、吸い寄せられるようにエリスに近づく。


 鼻先が触れそうな距離で、彼は逃げ場を塞ぐように、耳元で低く囁いた。


「――望むなら」


 一拍。


「お前に合うやり方で教えてやる」


「……どうせ近いうちに、

 “人前で振る舞う必要”も出てくる」


「…………っ! お前もバカなのかぁああ!!!」


(いや! バカだった――!!!)


  

 その時。


 ――ぴちょん。


 ほんのわずかに音が鳴った。



 エリスの背筋が、ぞくりと震える。


「……?」


 ほんの一瞬、何かを思い出しかける。


 白い光。


 赤い血。


 そして――届かなかった“あの感触”。


「……どうした?」


 アレスの声。


「……いや、なんでもない」


 エリスは首を振る。


 だが、胸の奥に引っかかる違和感。


 それは消えなかった。


 消えずに――残る。


 どこかから“見られている”ように。


 ――ぴちょん。


 音だけが、静かに響いていた。


 まるで――


 “そこにいる”とでも言うように。




最後まで読んでいただきありがとうございます!


「実演した方が、分かりやすい」

「……これ以上は、キスでは済まない」


ディアナお姉様&ファイの凄まじい実演と、まったく動じない(むしろ火がついた)アレス様の「“逃げられないやつ”を教えてやろうか」の爆弾発言……!!

エリスちゃんじゃなくても「味方がいない!!」「やめろぉおおおお!」って絶叫したくなる怒涛のテラスお茶会でしたね笑


しかし、大爆笑の裏で密かに鳴り響く「ぴちょん」の音と、エリスの胸に渦巻く不穏な違和感……。


【次回予告:第39話「出来るから、勝てない」】


「三日後に開かれるボク主催の社交界にキミを招待しようじゃないか」


突然始まる、ディアナによるエリスの社交界チェック。

元・王子の婚約者として完璧な作法を披露するエリスだったが、ディアナはその本質――「崩して身を守る心の隙」を冷徹に見抜いていて……?


「正しく振る舞うことと、勝つことは違う」

「ルクサリスの社交界はね――殺し合いだよ」


そしてその夜、アレスとの“契約”の時間に、昼間の感触が蘇り――。


次回、第39話。狂乱のお茶会から、真の社交界レッスンへ! お楽しみに!


「実演キス凄まじすぎた!」「アレス様とファイのリアクション最高!」と思った方は、ぜひページ下部の**【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆(評価)】**をポチッと押して応援していただけるとめちゃくちゃ励みになります!


次回の更新もどうぞお楽しみに!

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