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400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

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第三十七話 傲慢なるキスと、優雅なるお茶会

 ――ぴちょん。



 音が遠くで鳴る。

 沈みかけた意識の底で、何かが呼んでいる。 


 だが――届かない。


 白く曖昧な世界で

 輪郭はぼやけ、足場も定まらない。

  


 戻るべき場所は分かっているのに、そこへ至る道だけが見えない。

 


「……戻れ、エリス」 


 近くで自分を呼ぶ低い声が聞こえる。

 

 けれど……、触れられない。 


 声だけが輪郭を持たずに漂っている。

 


「……起きろ」

 


 重ねて呼ばれるが、応えられない。


 意識だけで、身体の感覚がない。 

 


 その時。

 


 ――ぐい、と。 


 何かに、引かれた。 


「……っ」

 

 不意に距離が縮まり、逃げ場が消える。

 


 次の瞬間―― 


 

 唇に、熱が触れた。 


「――っ!?」


 驚愕と同時に意識が軋む。 


 この行為に優しさはない。


 ただ――



 強引に“繋ぎ止める”ための行為。

 


 容赦なく塞がれる唇から

 逃げようとする意識を、無理やり掴み上げられる。

 


「……戻れ」


 

 低い声が、熱と一緒に直接流れ込む。

  

 抗えない。

 抗わせない。

 

 そのまま――意識が、一気に引き上げられた。



「――はぁっ!!」


 エリスは勢いよく息を吸い込んだ。 


 視界が弾ける。

 

 見慣れた天井に重たい身体。

 

「……な……に……が……」


 

 声がかすれ、思考も追いつかない。


 だが。 


 ひとつだけ、はっきりしている。


 目の前にある瑠璃色の瞳が近すぎる。

  


「……戻ったな」


 息がかかる距離でアレスが静かに言う。  


 その近さに数秒遅れて―― 


「…………は?」


 理解が追いつく。 


 そして――


 爆発した。 


「はぁああああああああああ!?」


 エリスは上体を跳ね起こす。 


「な、なななななにした! 今!!」

 

「起こしただけだ」


「起こしただけって……!

 ほ、方法がおかしいだろ!!」


 そこでふと、エリスは首元に手を当てた。


「……あれ?」


 あるはずの感触が、ない。

 

「……鎖、は……?」


 アレスは一瞬だけ視線を落とし、


「外に出す必要がなくなっただけだ」


 淡々と答える。


「は……?」


「形を保つ意味がない」


「外に出しておく方が危険だ」


 エリスは無意識に、首元へ手を当てる。


 ないはずの感触。


 けれど――


 ぞくり、と。


 内側から、触れられたような熱が残っていた。

 

 ――まるで、“内側に触れられている”かのように。


「……っ」


 思考が、そこで引っかかる。


 ――触れられた。


 どこで?


 どうやって?


 その答えに辿り着いた瞬間、エリスの顔が一気に熱くなる。


 思い出すな。


 思い出すな。



 ――思い出した。

 


(あれ、キスじゃ……)

 


「……その方が効率がいい」


 アレスは平然としている。 


「効率って何だよ!!」 


 枕を掴んで投げつけるが、軽く避けられた。 


「お前……っ、普通に起こせただろ!!」


 アレスは少し考える素振りを見せる。


「接触が必要だった」


「嘘つけ!!」 


(――今、初めて思いついた顔だ)

 


 ――コンコン。 


 ノック音が響く。

 


「……入れ」


 アレスが短く言う。

 

 扉が開き、サトゥルが入ってくる。


「失礼いたします――」 


 そこで、視線がエリスとアレスの距離を捉えた。


 一瞬止まるサトゥル。


 二人の距離が近い。

 明らかに近かった。


 そして、極めつけにエリスの真っ赤な顔。 


「…………」 


「…………」 


 しばしの沈黙。


(終わった――) 


「……目覚めたか」


 一拍置いて。


「……合理的な手段ですね」 


「違う!!」


 エリスは即座に否定する。 


「今のは違うぞ!!」


「何がだ?」 


「全部だ!!」 


 勢いよく返すも、サトゥルは一拍置き――

 


「……承知した」


 絶対分かってる顔だった。

 


✕✕✕

 


「さて、目覚めたばかりで恐縮なのだが――」


 サトゥルがエリスを見ながら淡々と話を進める。 


「……嫌な予感しかしないぞ」


 エリスはサトゥルとアレスを交互に見上げる。

 

「ディアナ様からお茶会の誘いが来ている。

 目覚めないエリス嬢が心配だそうで……」


「却下だ」


 エリスは速答するもサトゥルは首を横に振る。


「それは出来ない」

 

「なんでだよ!」


「既に招待は受理されている」 


「誰が!?」


 ゆっくりと横を見るとアレスと目が合う。 


「……お前か」 


「姉上の言動は俺でも制御できん。

 それに、問題ないと判断した」 


「問題しかないだろがー!!」

 


✕✕✕

 


 ――数刻後。


 穏やかな午後の陽光が差し込むテラス。

 美味しいお菓子と紅茶。目の前には、白銀の髪を輝かせる絶世の美女、ディアナ・アルヴァスと、五天星(アステリズム)『青』のファイ・キュアノエイデスがいた。

  


「やあ、大変だったねエリス」

 

 白銀の髪を揺らしディアナが微笑む。


(……今からもっと“大変”になる予感しかしない)


 エリスは本気で思った。


「おや? 顔色が悪いね。

 まだ、調子が戻らないのかい?」

 

「誰のせいだと……!」


 エリスは横で涼しい顔をしているアレスを睨む。 


「おやおや?」


 ディアナの琥珀色の瞳が細まる。


「ずいぶんと、いい雰囲気じゃないか。

 ……何か、あったのかい?」


「なにもない!!」 


 即否定。 


「ふふ、否定が早いな」 


 ディアナは完全に楽しんでいる。


 そして――


「ねぇエリス。アレスとはもう、接吻は済ませたのかい?」 

 

 まるで「今日はいい天気だね」とでも言うような軽さで、とんでもない爆弾を放り込んできた。 


「はぁ!?」


 エリスの時間が完全に止まった。 


「せ、せっ……」 


 言葉が詰まり、さっきの感触が脳裏に蘇る。


(終わった……)


  

「おや、接吻をご存じない? 接吻とはキスのことだよ、可愛いエリス」

 

「それは知ってるわ!!」


 顔を真っ赤にしたエリスの叫びが、テラスにこだまする。


「なるほど」


 ディアナが頷く。


「済ませた、というわけだ」 


「違うって言ってるだろ!!」


「あれは! 事故だ!!」  


 庭園に、絶叫が響いた。

 


 その様子を見ながら、アレスはわずかに口元を緩める。


 ――ぴちょん。 


 誰にも気づかれずに。

 


 その音だけが、

 


 まだ、消えていなかった。 




最後まで読んでいただきありがとうございます!


「起こしただけだ」

「効率がいい」

「……合理的な手段ですね」


いやいやいやアレス様&サトゥル!? どこが合理的なんですかーーー!?笑

意識を失っていたエリスちゃんを強制キスでお目覚めさせ、「事故だ!!」と絶叫するエリスちゃんを冷たく(?)あしらうアレス様、いかがだったでしょうか?笑


脱出できたと思ったら、ディアナお姉様の登場でさらに「大変な予感」しかしないお茶会へ……!


【次回予告:第38話「優雅なる暴君と、実演という名の災厄」】


「事故」と言い張るエリスに、ディアナお姉様の悪ノリが炸裂!?

「教育は大事だろう?」と、なんと軍師ファイを巻き込んで『本物の接吻』を実演し始めて……!?


さらにそれを見たアレス様まで対抗心を燃やし始める事態に!


「“逃げられないやつ”を――教えてやろうか」

「やめろぉおおおおお!!!」


次回、第38話。味方ゼロのテラスでエリスちゃん絶体絶命!? お楽しみに!


「アレス様の強制キスごちそうさまでした!」「お姉様ぶっ飛びすぎてて最高!」と思った方は、ぜひページ下部の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆(評価)】をポチッと押して応援していただけるとめちゃくちゃ励みになります!


次回の更新もどうぞお楽しみに!

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