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400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

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第二十三話 蹂躙の幕開け

 悲鳴と、焼けた肉の臭いが、リミナの空気そのものを腐らせていた。

 北の空は赤く染まり、黒煙が街を覆っている。

 

「殿下! 第三防衛線が突破されました!

 変異種の咆哮により、兵たちが正気を失っています!」

 

 カイ・リミナは折れかけた剣を杖代わりに立ち上がる。その瞳には、かつての輝きはなく、絶望の色が濃く沈んでいた。


(アランが……エリスがいないだけで……

 この国は、ここまで脆いのか……) 


 リミナ王国騎士団長アラン・オルタディアがルクサリス帝国の龍王アレスに殺されてから何日経っただろうか。


 リミナ王国はアラン亡き後、北部に出現した魔獣により、混迷を極めていた。


「アラン隊長がいてくれたら……」


「バカッ! それは言わない約束だろ!?」


 王国騎士団の士気は明らかに下がり、国民はアランの命を奪った龍王アレスに対して並々ならぬ憎悪を抱いていた。


 北部の国境付近に魔獣が出現したことにより、国境付近の村や街が恐怖に突き落とされた。


 通常の魔獣であれば、リミナ王国騎士団が直ちに討伐をしてくれる。

 特に、アラン・オルタディアが騎士団長に任命されてからは魔獣への対処が格段に速くなった。


 アランが率いる遊撃隊は、報告から半日足らずで現場を制圧する『リミナの盾』そのものだった。

 アランは国民からも絶大なる信用を得ていたのだ。


 だが、今回の魔獣はいつもの魔獣と何かが違った。

 明らかに、知性が感じられた。


 通常の魔獣は家畜や人間を同じように襲う。

 今回の変異種は『人間だけ』を襲っているのだ――。

 

✕✕✕

 

 一方。王宮内でも龍の巫女・エリスを失ったことにより、事態が深刻化していた――。

 

「巫女の血が底をつきそうだと!?」


 神官からの報告に、リミナ国王は声を荒げた。


「……はい、恐れながら……。

 北部に出現した魔獣の鎮圧に、予想以上に血液を使ってしまい……」


「くっ……! 巫女の血がなければドラゴンどもを()()()ことが出来ぬ――」


 王は玉座に拳を叩きつける。


「龍王アレスに渡す前に、巫女の血を全て搾り取っておくべきだったのだ!」


 王の言葉に、誰一人として異を唱えなかった。


「オルタディア侯爵家はなんと言っている!?」


「それが……、最愛の息子と娘を同時になくし、それどころではないと……」


「……くッ! あのタヌキめ!」


「せめてエリスと話さえ出来れば……

 あの従順な娘であれば、いくらでも懐柔できるものを……」


 大臣たちの言葉に、カイは胸を痛める。


(エリスは龍の巫女として、リミナの為に血液を大量に献上していた――

 なぜ、自分はそんな大事な事を知ろうともしなかったのか……!)


 カイは今まで何も知らなかった自分を恥じた。

 ルクサリスの使者が言っていた『密猟』の意味さえ知らなかったのだ……。


(エリス……。あの龍王アレスがいるルクサリスではどんな酷い目に合わされているのか――)


 カイは王宮で大臣たちの会話を聞くに堪えず、自ら戦場へ赴いたのだった。


✕✕✕


 北部防衛線。

 城壁の外では、すでに地獄が広がっていた。

 

 狼の変異種とも言える魔獣が三体。

 うち一体の狼が口を開いた。その咆哮が夜空を震わせる。

 その瞬間――


「ぐっ……! いやだ……!」

「来るな……来るな……!」

 

 ある者は何もない空間を斬りつけ、ある者は剣を落とし、またある者は膝を折り耳を塞ぐ。

 その場で泣き叫び、錯乱する者まで現れた。


 ――恐怖ではない。

 

 “思考そのもの”が歪められている。

 

 変異種の咆哮は、精神を直接侵し、認識を狂わせていた。

 

 本来であれば、この程度の魔獣に遅れを取る騎士ではない。

 

 それでも――

 

 誰一人として、まともに剣を振るえていなかった。

 

 騎士たちの隙を狙うように、黒い影が走った。

 

 ――ザシュッ。

 

「がっ……!」

 

 騎士の首が宙を舞う。

 血飛沫が夜空に散った。

 

「くそっ……!」

 

 カイは歯を食いしばり、剣を握り直す。


(アランが育てた騎士たちが……押されている……)

  

 影は止まらない。

 狼は嘲るように騎士たちの間を駆け抜け、次々と命を刈り取っていく。


 精鋭であるはずの騎士たちが、一方的に蹂躙されていた。


(どこだ……どこから来る!?)

 

 人間の動きではない。

 カイは踏み込み、剣を振るう。

 

「止まれぇぇぇ!」

 

 だが。

 

 剣は空を斬った。

 

 次の瞬間。

 鋭い爪がカイの脇腹を裂いた。

 

「っ……!」

 

 衝撃に膝をつく。

 血が地面に滴った。

 狼はゆっくりと振り返り、再びカイを捉えた。

 

 その瞳が――赤く光り、爪が振り下ろされる。

 

(終わり……か……)


 

 その瞬間。

 戦場の空気が、凍りついた。


 ――誰も、動けなかった。

 

 ――次の瞬間。

 

 轟音が空を裂いた。

 

 ドォン!!


 大地が爆ぜた。

 白龍の一撃が、狼を吹き飛ばした。


 カイは音のする方向を振り向く。

 

 だが、その瞬間。

 

 空が影に覆われた。

 巨大な翼が夜空を切り裂く。

 轟音と共に、白い龍が降り立った。

 

 大地が震える。

 兵士たちが息を呑む。

 白龍の瑠璃色の瞳が、戦場を見下ろした。

 

 その背から、一人の男が姿を現す。

 

 漆黒のマント。

 瑠璃の瞳。

 圧倒的な威圧。

 

「……龍王……アレス……」

 

 カイの喉が震えた。


「……邪魔だ……」


 アレスが放った言葉により、あたりは静まり返る。


「下がれ。

 ここから先は――俺の領域だ」


  低く、圧し潰すような声だった。



第23話をお読みいただきありがとうございました!


地獄と化したリミナの戦場に、ついに姿を現した龍王アレス。

「ここから先は、俺の領域だ」と言い放ったアレスですが……ルクサリスの陣営が、絶望するカイとリミナ王国に一体どんな『蹂躙』を見せるのか。


そして、アレスの隣に立つエリス(アラン)の姿を見たカイは――?


次回、第24話。物語の歯車が、誰も予想しなかった方向へと一気に狂い始めます。


ここからの怒涛の衝撃展開、ぜひハラハラしながら見届けてください!


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