表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜  作者: 玖条 レイナ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/37

第十三話 五天星《アステリズム》

 会議場には既にファイ以外の五天星(アステリズム)が揃っていた。


「待たせたな」


 アレスは口を開く。


「……陛下、朝議にまでその女を連れてくるなんて非常識です!」


 『赤』のリュケイオスが早速噛み付く。


「いいじゃないかルベウス卿。その()は陛下の剣だと、昨日陛下も申されてる――

 それに、かわいい女の子がいてくれた方が軍議も楽しくなるさ」


「僕もメラン卿に賛成かなー、エリス様はルクサリスに必要な方だよ」


「……陛下が連れてこられたのだ。……わしに異存はない」


 『黒』のリーベル、『緑』のリコに続き、『茶』のサトゥルまでもがエリスを迎え入れていた。


「決まりだリュケイオス。エリスは俺の剣だ。今後も全ての軍議に出席してもらう」


 アレスの宣言にリュケイオスは顔を顰めた。


「では、早速朝議を始める」


 『青』のファイが議題を読み上げようとした時、アレスによって静止された。


「ファイ、まて。

 朝議の前にエリスにお前たちを改めて紹介したい」


 アレスがエリスの肩に手を置き、居並ぶ怪物たちを顎で示した。


「まずは……、俺と同じ最上級の『青』。ファイ・キュアノエイデスだ――」


 紺碧の髪に浅葱色の瞳。

 『青』の軍服を纏う青年が一歩前に出た。


「こいつはルクサリス最強の俺の軍師だ」


 アレスの言葉に、ファイは無表情のまま深々と頭を垂れた。


(……あいつがルクサリス騎士団のトップか――)

 

「次は……、上級の『黒』。リーベル・メラン。こいつの魔力量はルクサリスでもケタ違いだ」


 アレスが顎で示すと、漆黒の髪に墨色の瞳の男が、ひらひらと手を振った。


「やっほー、エリスちゃん。これからよろしくね」


「おい、リーベル。気安くエリスに話しかけるな」


「おぉ、怖い怖い」


 アレスの睨みも物ともせず、肩を竦めてみせる。飄々としている男だった。


「三人目も上級の『赤』。リュケイオス・ルベウス。軍部一の火力を誇る、破壊の専門家だ」


 褐色の肌に燃えるような赤髪、朱色の瞳。

 リュケイオスはエリスを一瞥すると「俺はソイツを認めていない」と視線を逸らす。


「四人目は下級の『緑』。下級と言っても龍の階級の話だ。魔人としては優秀な人材だ。お前ももう知っているだろ? リコ・ヴェルダ、暗殺を得意としている我がルクサリスの諜報部隊だ」


 リコは鷲色の髪と栗色の瞳でエリスに人懐っこい笑顔を見せる。


「エリス様。今後ともよろしくお願いしますね」


「最後に下級の『茶』。サトゥル・ブロイン。代々皇帝の盾として仕える名家、ブイロン家の嫡男だ。いかなる魔術も、巨龍の咆哮すら弾き返す」


「わしの盾は陛下のためにある。……陛下の背を預ける価値があるかどうか、見極めさせてもらおう」


 焦茶色に黄土色の瞳。

 ルクサリスの『盾』とも言うべき、巨漢の男はエリスは真正面から見据えていた。


「――以上が、ルクサリスの『五天星(アステリズム)』だ。この名、騎士であれば聞き覚えがあるだろう?」


 アレスはエリスの半歩前に出た。


(五天星(アステリズム)……!!)


 ルクサリス帝国で絶対的な強さを誇る集団。

 それぞれの部隊は『色』に応じて能力が異なり、それぞれ役割がある。


(なぜ、今まで気が付かなかった――! ルクサリスには()()がいるに決まっている。

 しかも、龍王アレスの腹心として――!!) 


「陛下ー! 僕いい事思いついちゃったんだけど、エリス様も僕ら五天星(アステリズム)に入れようよぉ! そうすると六天星になるから改名しないとだけど……」


 リコの突然の提案にリーベルが笑い転げる。


「ははは! リコ! それは名案だ!

 ヴァイオレット・レイスが俺たちの仲間だなんて心強いぜ」


「おい、静かにしろ! 今日の議題はヴァイオレット・レイスの事ではない。

 北部の渓谷に巣食う、変異種の魔獣討伐についてだ!」


 変異種の魔獣。


 ファイの言葉を聞いて、軽口を叩いていた二人は真剣な眼差しに戻る。


「最近、北部に送り込んだ部隊が次々と失踪している」


「北部の部隊は……、リーベルの担当だったな。報告を――」


 アレスの声に、今までふざけていた雰囲気を一新し、リーベルが報告を始めた。


「我ら『黒』の部隊の報告では、その変異種はいくら傷をつけてもすぐに再生し、我々の部隊を蹂躙しているという――」


「ご自慢の魔法で再生を食い止めればいいんじゃねえのか!?」


 イライラした様子のリュケイオスが横槍を入れる。


「はっ! そんな事は既に何度も試している! この『黒』の魔力をもってしてもそれが叶わんから『変異種』なんだろうがッ! 少しは考えてから発言しろ!」


 いつも飄々としているリーベルが珍しく強い口調でリュケイオスを窘める。

 会議場には険悪なムードが流れ始めた。

 

(どうやら五天星(アステリズム)も一枚岩じゃないようだ……)


 その様子を見かね、アレスがエリスに問いかけた。

 

「……エリス。お前ならどう討伐する――?」


 それは騎士エリスとしての意見を聞かれている。

 エリスは込み上げてくる熱を抑えて、冷静に答えた。


「……まず、その魔獣は元々はどんな魔獣だったんだ?」


「狼さ! でも、今は狼と言うには姿が違いすぎる……。アイツらは増殖するんだ……!」


「増殖……?」


「そう、切れば切るほど。痛めれば痛めるほどに仔狼が増える」


「……なるほど……」


 エリスが呟く。


「……誰か、その北部渓谷の地脈が描かれた地図を持っていないか?」


「ファイ、地図を……」


 アレスの一言でファイが持っていた地図をエリスに差し出す。


「何か分かったか?」


 アレスがエリスに不自然に顔を近づけ一緒に地図を覗き込む。

 エリスはアレスを一瞥するも、淡々と説明を始めた。


「可能性は二つある。一つは、群生型――核を持つタイプだ」


「群生型……?」


「分裂してるように見えるが、全て一つの個体だと言うことだ」


 リコの質問にエリスが冷淡に答えた。

 

「そしてもう一つ。 再生ではない。

 ……破壊した部位を、地脈の魔力で再構成している」


 会議場がざわついた。

 

「渓谷の地脈が異常に濃い。

 これは吸い上げている――」


 エリスの言葉にリュケイオスが噛み付く。


「証拠はあんのか!?」

 

「魔術が効かない時点で、生体能力ではない」


 エリスの菫色の瞳が、リュケイオスの朱色の瞳を真っ直ぐに射抜いた。


「ハッ! 祈祷師の机上の推論で、俺の部隊を殺す気か?

 おい! 今回の討伐はヴァイオレット・レイス様に任せようじゃねぇか!」


 リュケイオスが嘲笑を浮かべて腕を広げる。


「ルベウス卿、何を勝手に――!」


 ファイの静止も聞かず、リュケイオスがわざとらしく肩を竦めた。


「戦場を知らねぇ奴の推測なんざ信用できるか! 龍の巫女様の空論で、殺されるなんてたまったもんじゃえねからな!」

 

「信用出来るかは置いておいて……。もしエリス様に怪我でもさせたら、僕ら陛下に首をはねられちゃうよ?」


 ――バンッ。

 激しい音が響き、エリスが立ち上がった。


「いいだろう。……オレが証明してやる」


 その声音には、病弱な巫女の面影など微塵もなかった。


「エリス、お前ならこの魔獣を討伐出来ると言うのだな」


「当然だ。騎士を……オレを侮るな」


 アレスは瑠璃色の瞳を細める。

 

「それでこそ俺の剣だ――。

 決まりだ。三時間後に出陣する」


「陛下自ら出陣なさるのか……」


 サトゥルが眉を上げた。 


「契約だ。……そうだろう?」 


 アレスはエリスに熱い視線を向けた。

 エリスはアレスから顔を背けた。


「リーベル、北部までの案内は任せる」


「はっ」


 リーベルは仰々しく頭を下げた。


「せいぜい、エリスの活躍を語り継ぐことだな」


 アレスは五天星(アステリズム)を一瞥する。そしてエリスの横に並び、純白の外套を翻し会議場のドアへ向かう。

 リーベルだけが、アレスのエリスを見る視線に違和感を覚えた。

 それは臣下を見る目ではなく――手放すつもりのない者を見る目だった。


 その時。


 ――ピシリ。


 場違いなほど小さな音が、会議場の中央に響いた。


「……今のは?」


 誰かが呟く。


 次の瞬間。


 ――バキンッ!!


 ファイの持つ通信結晶が、内側から弾け飛んだ。


 破片が床に散らばる。

 だが――それだけでは終わらなかった。


 砕けた結晶の欠片が、まるで“生きているかのように”蠢き、黒く濁り始める。


「……なんだ、これ……」


 リーベルの声に、誰も答えない。


 その濁りの奥から――


 ザザッ――と、音が漏れた。


『――た、す……け……』


 掠れた声。


 だが、それは一人ではなかった。


 重なる。歪む。増えていく。


『タスケテ』『タスケテ』『タスケテ』


 無数の声が、同時に、同じ言葉を繰り返す。


 ――次の瞬間。


 それは“声”ではなくなった。


 獣の咆哮とも、断末魔ともつかぬ“何か”が、結晶の奥から溢れ出す。


 そして――


 ブツン、と音を立てて、すべてが途切れた。


 完全な沈黙。

 誰も、動けなかった。


 エリスが、ゆっくりと口を開く。


「……再生じゃない」


 菫色の瞳が、冷たく細められる。


「……“増えている”」


 一拍の静寂。

 

 そしてエリスは、確信したように呟いた。

 

「一体で、群れてやがる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ