最強の一撃
コラブ公爵、ツヴァイト公爵、そしてセガタ勇爵名代のナリタが率いている聖戦軍は、他の者達とはまた違う場所へと飛ばされていた。
彼らがやってきたのは、火山エリアであった。
そびえ立つ山々があちこちで噴火をしており、辺りには熱気が立ちこめている。
ただ彼らが飛ばされたのは、火山地帯の中にぽっかりと空いた巨大な平野であった。
合わせて一万五千名からなる彼らの前に現れたのは、一人の赤髪の少女である。
「やった、思ってたよりいっぱい来たね! しかも勇者の末裔まで来るとか、超ラッキー!」
その少女には、小さな翼と、爬虫類を思わせる尾が生えていた。
その可憐な様子を見た兵士達の表情が一瞬緩むが、彼らはすぐにこんな少女がこの場所に一人でいるということの異常さに気付く。
「お前は、一体……」
「あっ、お前って言った! 人間のくせに生意気だ!」
「失礼、貴殿は……魔物なのか?」
「もちろん! あんた達勇者をぶっ潰すために待ってたんだ!」
その言葉に眉を顰めるのは、二人の男達だった。
全身を真っ赤な赤備えで揃えた偉丈夫であるツヴァイト公爵家認定勇者のゼル。
そして月型のピアスを両の耳に嵌めた細身の美男子であるコラブ公爵家認定勇者のムーン。
Aランクモンスターですら討伐を可能とする公爵認定勇者達二人を前にして、彼女は背の翼をパタパタと振り回しながら笑っていた。
それが空元気でないことを、歴戦の二人は即座に見抜いていたのである。
「今までずうっと力を振るう機会がなくて……うずうずしてたんだ! やっぱりダンジョンの中で戦ってても張り合いがないっていうか……やっぱり戦いは人間とやってこそって思うからさ!」
瞬間少女の身に纏っている気配が膨れ上がる。
興奮で上気した彼女の口の吐息が漏れ出すと、そこから高温の火炎が噴き出した。
それを見た兵士達の顔が緊張に染まる。
目の前の存在が対話の通じぬ化け物であると理解した彼らが、臨戦態勢を取った。
「私はタマキ。混沌迷宮第一軍団軍団長『竜王』タマキ! さあ、あなた達の力を見せて!」
タマキは大きく息を吸い込むと、たったそれだけのことで周囲の気温が数度上がる。
相手が何をしようとしているのかを理解した勇者達が、即座に臨戦態勢を整えた。
「来るぞ、総員……戦闘準備!」
瞬間、空間全体を閃光と灼熱が包み込んだ。
♢♢♢
「プラズマブレス!」
タマキの攻撃に即座に適切な反応ができたのは、この場ではたったの四人だけであった。
コラブ公爵家認定勇者ゼルと自身も優れた武人であるコラブ公爵、そしてツヴァイト公爵認定勇者ムーンにセガタ勇爵家名代のナリタ……彼ら四人は即座に、タマキが発動させようとしているものがドラゴンが持つ固有スキルであるブレス技であることを見抜いた。
――ドラゴン種が持つ固有スキルであるブレスは、原初の魔法とも呼ばれる魔物が扱う魔力攻撃である。
魔力を変換することで事象をねじ曲げる魔法は、元は魔物達が使っていた魔力攻撃を人間が操れるように最適化させたものに他ならない。
その中でもブレスは最も有名なものであり、ドラゴンという種族の代名詞の一つにすらなっている。
ブレス攻撃はそのドラゴンが持つ属性の魔力を、最高効率かつ最高位力で吐き出すドラゴンの必殺技である。
その威力は極めて高いが、魔法のように複雑化されておらず、発射部である口から直線上に飛んでいく性質を持つ。
故に彼らは即座にタマキの顔の向いている側から外れる形で空いている空間へ駆けた。
だが隊列を取り行動している軍隊に、同様の動きをすることはできない。
タマキがわーっと間抜けな声を出しながら、口から光の奔流を放つ。
ブレス攻撃が走り、地面を舐めるようにして進んでいった。
閃光、そして溶解。
ナイフをバターで裂くようにして、一万五千からなる縦列がまるまる一つ消え失せた。
「なんという威力だ……」
コラブ公爵は自身が先頭を切って戦う生粋の猛将であり、彼には一度だけだがドラゴン討伐を行った経験がある。
故に彼はブレス攻撃に関しても、直に見たことがある。だがその時のものと比べるとタマキが放ったものの威力は、異次元であった。
人がいた痕跡が全て消え去り、後に残るのは黒く残った煤と高温によりガラス化した大地のみ。
先ほどまで隣にいた戦友達が一瞬で消え、軍はパニックに陥った。
これはマズい……と公爵が声を出すよりも早く、三人の人物がブレスを放った直後のタマキ目掛けて駆けていく。
「ブレス攻撃の発動の前後には大きな隙ができる……」
「俺達がそれを、知らないとお思いか!」
ゼルは左から、ムーンは右から。言葉を交わすことなく、最短でタイミングを合わせ同時に絶技を放つ。
「ソウルオーバーロード!」
上位ジョブ魂還士であるゼルは、自身の倒した生命の数だけ強くなることができる。
固有スキルホストオブスピリットによって基礎攻撃力を増加させ、同じくラピッドシャーマンによって敏捷を向上させた彼の速度は、人間の知覚レベルを優に超えていた。
勝利すればするほど強くなる、そんな上位ジョブのレベルをカンストさせているゼルが放つのは、己が倒した生命達の力を借り受けて放つことができる大技、ソウルオーバーロード。
ゼルの首に付けられていたペンダントが割れて砕け散る。
彼が作りだすことができる特殊な魔道具であるこのペンダントに溜めてきた、彼が倒した者達の攻撃力の一部がその本来の威力に上乗せされて放たれる。
斬撃を放つために踏み込むだけで周囲に衝撃波が発生し、タマキの身体が揺らぐほどであった。
「――ルナエクリプス!」
そして左側からやってくるムーンは、月剣士と呼ばれる上位ジョブに就いている。
彼が剣で放つ攻撃は全て三日月型の軌道を取り、その攻撃スキルの全ては月を冠したものへと変わる。
そんな月剣士である彼が放つ必殺の一撃は、黒を纏った巨大な斬撃であった。
彼の攻撃の威力は現在のこの星と月との関係性によって変わる。
新月となり月の光がほとんどなくなっている現在、月蝕の名を冠する一撃は最も威力を発揮してくれる。
相手の肉体を浸蝕し、その精神にすら作用するほどの破壊の一撃。
彼が放つ斬撃は漆黒の球体となり、ブレスを放った直後である無防備なタマキの頭上から降り注いだ。
激突、破壊。
土煙が上がり、二人の手元には衝撃が入ってくる。
だが……。
「――硬いッ!」
その衝撃はあまりにも硬質。肉を裂いたという感触しか帰ってこない。
二人が即座に下がりながら土煙が晴れるのを待つと……。
「ふぅむ、なるほどなるほど……」
そこにはなぜかしたり顔で顎に手をやっているタマキの姿があった。
全力の一撃を放ったにもかかわらずその身体傷一つついていない。
「まあこの程度なら……っ!?」
攻撃を受けてもなお平然としていたタマキが、突如として勢いよく天を見上げた。
――そう、彼ら二人の全力の攻撃すらも陽動。
彼らが即席で組んだコンビネーション、その本命は――かつて勇者コタローが築き上げた勇爵家、その名代たるナリタの放つ一撃。
「聖剣解放――Ex・カリバー!」




