これで
勇者コタローの一族は、その強さから認定をもらう勇者システムによって選定された勇者達とは根本から違う力を持つ。
彼らは皆、自身にのみ使う特殊な固有スキルを持つ。
ナリタの持つ力は、聖剣解放。
己の体内に宿る聖なる力を解放し、得物と同一化させることで伝説の武器である聖剣のレプリカを生み出すスキルだ。
勇爵家の持つ力の全ては、大物喰らいに特化している。
彼がスキルを発動させればこの第二混沌迷宮で拾った総ミスリル製の剣に聖なる光が宿り、その刀身を覆ってゆく。
「クロス……カリバーァァッッ!!」
彼が×字に放った斬撃が、白銀の光を伴いながらタマキへと迫っていく。
その一撃の速度は、先ほどの公爵級勇者達の全力の一撃に比べればわずかに遅い程度。
にもかかわらずタマキはその一撃に、今までで最も高い脅威を感じずにはいられなかった。
背筋が泡立つ、この攻撃を食らうのはマズイと自身の感覚が警鐘を鳴らしていた。
「そうは……」
「させるかッ!」
「――まずっ!?」
だが既に二発の攻撃を受け止め、更に攻撃を加えてくるムーン達の攻撃を捌いているせいで回避がワンテンポ遅れる。
結果としてタマキは攻撃を受け……攻撃を食らった首筋に、ピッと赤い十字の線が走った。
「あー……マジかぁ~~」
驚いてからやってしまった、という感じでシュンと顔を俯かせるタマキ。
だがそんな彼女の様子を見て、更に驚くのはナリタの方だ。
「なん、だと……?」
己が放った攻撃によってついたあまりにも小さな傷を見て、ナリタは呆然としてしまっていた。
肩で息をしながらなんとかして着地した彼は、そのまま地面に片膝をつきながら呼吸を整える。
勇者の持つ固有スキルは高い格上殺しの能力と引き換えに、その燃費は極めて悪い。
一撃を放った時点で彼は体力・魔力共に底を尽きかけていた。
そしてその結果が……小指ほどのサイズの、小さな切り傷が二つ。
「うーん、これは……ちょっとばかりこの世界の人達を舐めてたなぁ。目とかにもらってたら、ワンチャン戦闘不能になってたかもしれないし」
ナリタは雰囲気が変わったタマキを見て、気付いてしまった。
――自分は起こしてはならぬ竜を、本気にさせてしまったのだ……ということを。
タマキはその場で屈むと、思い切り上体を起こした。
それだけのことで彼女の周囲にいたナリタと勇者達は、思い切り吹き飛ばされる。
「傷をつけたことを末世まで誇っていけるよう……私の本気をちょっとだけ、見せてあげる」
起き上がった彼女の姿は、先ほどまでとは徐々に変わってゆく。
その背に宿る竜の翼が徐々に大きくなっていき、尾は太くなっていき、その瞳の瞳孔が徐々に縦に細くなっていく。
「竜王、戴冠」
身体が赤く明滅し始め、目を開けていられぬほどの強い光が辺り一帯を包み込む。
そして光が消えた時そこには……強大と形容するのも生ぬるいほどの、一体の竜の姿があった。
その体躯は優に二十メートルは超えているだろう。
左右に高く広げた翼は天を貫くかと錯覚するほどに高く掲げられ、その翼膜は薄く虹がかかっている。
蜥蜴を思わせるシャープな顔立ちは、正しく彼らが知っているドラゴンのそれ。
だがただのドラゴンにはない深い知性と……圧倒的な暴力の気配がそこにはあった。
「この姿に戻るのは久しぶりだけど……うーん、やっぱり上がるなぁ!」
バサリ、と翼を動かす。
たったそれだけのことで巨大な暴風が巻き起こり、巻き上げられて隊列の一部が高くまで吹き飛ばされた。
彼女が息を吹けば、それが炎となって先ほどのブレス攻撃と変わらぬほどの熱で兵士達を焼き殺していく。
「ハ、ハハハ……」
ナリタにできることは、ただ笑うことだけであった。
呼吸一つで百を超える兵士が死に、身体を動かすだけで台風が起こる。
このような化け物を果たして魔物と呼んでいいものか。
それは正しく、天災とでも呼ぶべき災害であった。
天災と戦って打ち勝とうとする者はいない。
矮小な人間に許されるのは、天災がただ過ぎ去るのを待つだけだ。
ボキリ、と心が折れる音が聞こえる。
「さて、それじゃあいっくよー!」
先ほどまでより低い、陽気な声を発しながら、タマキが空を飛びこちらに口を向ける。
そこから放たれるのはブレス。
だが口から漏れ出している余波ですら、先ほど放たれたブレス以上の熱を持っている。
莫大な、莫大すぎてもはや知覚することができぬほどに大量の魔力。
それによって放たれるブレス攻撃を、果たしてどう避ければいいというのか。
「竜王の息吹ッ!!」
タマキが放った全力のブレスは、この階層一体を一瞬にして蒸発させ、壊し尽くした。
当然ながらその跡地に生き残っている人間がいるはずもなく……。
「……ちょっと、やりすぎちゃったかも」
タマキはたったの一撃で、一万を超える王国兵達を皆殺しにしてみせたのであった。
こうして三万を超えていた聖戦の兵士達は、サナイグの街を出ることもなく全滅の憂き目に遭った。
軍事上の、ではない。文字通りの全滅である。
その様子を、混沌迷宮第百階層にて、ミツルはジッと見つめていた。
「……終わり、なのか? これで……本当に?」




