降伏論
丸一日でとてつもない戦果を獲得することができた聖戦軍は、その隊員達に押されて更に規模を大きくしながらダンジョンへと挑むことになった。
より効率的な探索を行うためと言うことで小隊規模から更に人員を分け、さながら冒険者達のように中へと入っていく。
無論しっかりと中ではぐれることがないよう、マッピング作業や人員確認などはしっかりと行いつつも、聖戦軍の全体には弛緩した空気が流れていた。
ダンジョンの奥へ進めば進むほど、よりレアリティの高い武具が出現することは昨日の探索で判明している。
もういっそこのままこのサナイグの街を支配してしまい、この無限の富の出るダンジョンを実効支配してしまった方がプラスはデカくなるのではないか……総大将であるコラブ公爵であってもそういった考えが過ってしまうほどに、このダンジョンは魅力的であった。
だが順調にも思えたダンジョン探索に異変が生じたのは、二日目の探索が始まってから二時間ほどが経過してからのことだった。
「閣下、第五十六小隊と連絡が取れません」
「ふんっ、広いダンジョンの中で迷子にでもなったのだろう。あれほど口酸っぱく言っておったというのに、糸を使い忘れたに違いない」
最初に連絡が取れなくなったのは、公爵家の騎士団に所属する小隊の一部であった。
第二混沌迷宮は非常に広大なダンジョンであり、ある程度大量の人員が中に入ってもごった返すことがないほどの広さを誇っている。
そんなダンジョンで一度迷子になれば出るのも大変ということで、探索を行う者達には混沌迷宮戦を見据えて大量に用意されていた糸を近場の物にくくりつける形で、迷子になることがないよう徹底させダンジョン攻略を行わせていた。
にもかかわらず、時間が経つにつれて連絡が取れなくなってくる隊の数が徐々に増え始める。
だが昨日何もなかったということもあり、中に入ることを拒否していた聖教勢力を除き、聖戦軍もかなりの数の人員が中に入ってしまっている。
だがそれでも、連絡が付かなくなっていく報告が徐々に増えていく。
ここまで事態が大きくなれば、ただ迷っているわけではないことは、明らかであった。
ここに来て総大将であるコラブ公爵は、選択に迫られることになる。
現在かなりの数が中に入ってしまっている聖戦軍を放置しこのまま先へ進むか、それとも彼らを救出するために軍を派遣するかだ。
大量の財貨に目がくらんでいた公爵は、ここが敵のお膝元であることを完全に失念していた。
彼は焦りながら代表者会議を始める。
そして彼と同様、他の者達も同様の焦りを見せていた。
このまま進軍し友軍を見捨てれば、自分達への信頼はガタ落ちすることになるだろう。
聖戦を行い兵を大いに減らして戻れば、今後の進退も厳しくなってしまう。
故に彼らに、友軍を放置するという選択は取れなかった。
「ええいっ、卑劣な魔王め……」
「なんとしてでも彼らを助けなければならん!」
新たにダンジョンを作り罠に使い人をおびき寄せた上で閉じ込めるなど、なんたる卑怯な行いか。
だがそれならば話は早い。
そもそも自分達は、混沌迷宮を攻略し、支配するためにやってきたのだ。
コラブ公爵は全軍でこの第二混沌迷宮を攻略する決定を下した。
その後の展開は、連絡が取れなくなっている者達を救出してから考えることにした。
体力があれば進軍しても良し、厳しいようならこの地を実効支配してダンジョンの果実を得るも良しだ。
「全軍、進撃せよ!」
公爵の鶴の一声により、今まで待機していた聖戦軍達が第二混沌迷宮の中へと入っていく。 そんな状況下にあってもなお、アリア率いる聖教軍だけは渋っていた。
混沌迷宮の攻略を行い魔王ミツルと戦うための力を残す必要があると言われれば、聖戦を大義名分としている公爵達にそれを否定することはできない。
「これで終わり……でしょうね」
続々と入っていく聖戦軍達を見つめながら、アリアはぽつりと呟く。
ルベールはそれに、何も言わず小さく頷いた。
彼のことを馬鹿にしていたジュラ達の姿は、既に見えなくなっている。
彼らは今中でどうなっているのか……。
まだ生きているにせよ、碌なことにはなっていないだろう。
「我らはどうしましょう、アリア様」
「貴族達が全員入りやられた時点で、この聖戦軍の総指揮は私に移ります。もしそうなった場合は……私は降伏します」
彼女の言葉は自分に言い聞かせているようでも、ルベールに言い含めているようでもあった。
「やはり人生というのは……思い通りにならないことばかりですね」
「アリア様……」
「あのダンジョンを作った存在相手に挑むなど……馬鹿げています。我らの降伏を素直に受け入れてくれたら良いのですが……」




