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第9話
放課後、図書室で本を返そうとしたとき、本棚の向こうから聞き覚えのある声がした。桜井くんと、蓮くんだった。私は思わず、その場で足を止めてしまう。
「で、結局あの子のこと、気になってんの?」。からかうような蓮くんの声。
「……べつに。ただ、しおり大事そうにしてたから、覚えてただけ」。桜井くんの声は、いつもより少しだけ低くて、早口だった。
「ふーん。朝陽がそんなふうに人のこと覚えてんの、めずらしいけどな」
「うるさいって」
そこから先は、笑い声に混ざって聞き取れなかった。私は本棚の陰で、心臓を押さえながら立ちすくんでいた。気になってる。その言葉が、何度も頭のなかで響く。
きっと深い意味なんてない。ただの世間話だ。そう自分に言い聞かせても、胸の高鳴りは、どうしても止まってくれなかった。ずっと、見ているだけの恋だと思っていたのに。もしかしたら、ほんの少しだけ、向こうも私のことを覚えていてくれたのかもしれない。そんな淡い期待が、こっそり心に灯ってしまう。




