39/44
第39話
桜井くんも、何度もボールを奪われていた。悔しそうに唇を噛む姿に、こちらまで胸が苦しくなる。頑張って。届かないとわかっていても、祈らずにはいられなかった。
後半、残り十分。桜井くんが、味方の声に応えて大きく手を挙げた。その直後だった。こぼれ球に誰よりも早く反応して、相手守備のあいだを、鋭く駆け抜けていく。
「行けっ!」。隣で七海が叫ぶ。蓮くんまで、腰を浮かせていた。
桜井くんの右足が振り抜かれて、ボールがゴールネットに突き刺さる。一瞬の静寂のあと、観客席がどっと沸いた。同点。
チームメイトと抱き合った桜井くんが、ふと、観客席を振り返った。その目が、まっすぐ私を探し当てる。目が合った。遠く離れているのに、確かに合った。彼が小さくガッツポーズをつくる。私は、にじむ涙をこらえながら、力いっぱい手を振り返した。




