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第35話
文化祭が終わって、いつもの日常が戻ってきた。それでも、何かが、確実に変わっていた。
桜井くんが、後夜祭で言いかけた言葉。「最近、ずっと思ってたんだけど」。その続きが、何度も頭の中でリフレインする。気になって、夜もなかなか寝つけない。けれど、自分から「あのとき、何を言おうとしたの?」なんて、とても聞けなかった。
翌週、隣の席の蓮くんが、ノートに目を落としたまま、ぽつりと言った。「朝陽、なんか言いそびれたって、悔しがってたよ」
え、と私は顔を上げる。やっぱり、あれは――。
「あいつ、ああ見えて、けっこう不器用だから」。蓮くんは小さく笑った。「ま、気長に待ってやって」
その言葉に、胸が、じんわりと熱くなる。桜井くんも、何かを伝えようとしてくれている。それなら、いつか――今度は私のほうから、ちゃんと気持ちを伝えられる日が、来るのだろうか。
窓の外を、秋の澄んだ風が吹き抜けていく。遠くから見ているだけだったあの頃から、私は、確かに少しずつ前へ進んでいる。あと一歩。その一歩を、いつか必ず踏み出そう。私は、そっと、そう心に誓った。




