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第32話
お昼を過ぎると、喫茶店はいちばんの混雑を迎えた。注文が重なり、ホールはてんてこ舞いになる。
そんなとき、運んでいたトレーのグラスが、ぐらりと傾いた。あっ、と思った瞬間、横から伸びてきた手が、すっとグラスを支える。桜井くんだった。
「あぶないあぶない。息ぴったりだな、俺たち」。冗談めかして笑う桜井くんに、私もつられて笑ってしまう。
それからの私たちは、まるで前から組んでいたみたいに、自然に連携できた。私が注文を取り、桜井くんが運ぶ。彼が会計をしているあいだ、私が次のテーブルを片づける。言葉を交わさなくても、相手が次に何をするか、なんとなくわかる。
「葉山さん、めっちゃ働くじゃん。見直したわ」。すれ違いざま、桜井くんが小声で言った。その「見直した」が、くすぐったくて、嬉しい。
七海が遠くのレジから、私たちのほうを見て、満足そうにうなずいている。蓮くんも、いつもより楽しそうに皿を運んでいた。みんなで力を合わせて、ひとつのものをつくっている。その実感が、胸をあたたかくした。苦手だと思っていた接客も、気づけば、ちょっとだけ好きになっていた。




