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第3話
その日の一時間目、教室の空気がいつもより騒がしかった。窓際の席のあたりに何人もの生徒が集まって、笑い声をあげている。その中心にいる横顔を見て、私は思わず息を止めた。
今朝、電車で私を助けてくれた、あの人だった。
「桜井くん、今日もモテモテだね」。隣の席の七海が、頬杖をついてつぶやく。桜井朝陽。サッカー部のエースで、誰にでも気さくで、クラスの真ん中にいるのが当たり前みたいな男の子。名前だけは知っていた。けれど、私とはまったく違う世界の人だと思って、これまで一度も意識したことなんてなかった。
その桜井くんが、ふと顔を上げて、こちらを見た気がした。私はあわてて教科書に目を落とす。心臓が、自分でもびっくりするくらい大きく跳ねていた。
「詩織、どうしたの。顔、赤いよ」。七海が不思議そうにのぞきこんでくる。なんでもない、と首を振りながら、私はそっと鞄に手を入れた。指先が、あのしおりに触れる。今朝のことが、ぜんぶ夢じゃなかったと確かめるみたいに。




