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第2話
倒れる、と思った瞬間、誰かの手が私の腕をしっかりと支えた。「あぶない」。低くて、やわらかい声が、すぐ近くで聞こえた。
気づけば、私の鞄から教科書とノートが滑り落ちて、足元に散らばっていた。顔が一気に熱くなる。すみません、と消えそうな声で言うのが精一杯だった。
その人は何も言わずにしゃがみこんで、散らばったノートを一枚ずつ拾い集めてくれた。最後に、私が落としたしおり――去年からずっと大切に使っている、すこし色あせたもの――を、ていねいに拾い上げて差し出してくれた。
「これ、大事なやつでしょ。落ちてたよ」
顔を上げると、まっすぐな目とぶつかった。朝の光が逆光になって、その人の輪郭だけが、やけにまぶしく見える。何か言わなきゃと思うのに、喉の奥で言葉がつかえてしまって、私はただ、こくりとうなずくことしかできなかった。
電車が駅に着いて、扉が開く。その人は「じゃあ」と軽く手を上げて、人の波のなかへ消えていった。手のひらに残ったしおりの感触だけが、いつまでもあたたかかった。




