17/44
第17話
それから数日後の朝、桜井くんが私の席まで来て、興奮した様子で言った。「あの本、昨日の夜に読み終わった。やばい、めちゃくちゃ面白かった」
え、もう? と私は目を丸くする。本をぜんぜん読まないと言っていたのに、一気に最後まで読んでくれたらしい。
「最後の場面、あれ反則だろ。電車んなかで読んでて、ちょっと泣きそうになった」。桜井くんが身振り手振りで感想を語る。その熱っぽさに、私はつい笑ってしまった。
好きなものの話なら、不思議と言葉が出てくる。「あそこ、私も大好きなんです。何回読んでも泣いちゃって」。気づけば、いつもよりずっと自然に話せている自分がいた。
二人で本の話をしているあいだ、教室のざわめきが遠くなる。同じ場面で胸を打たれて、同じところで笑える。それがこんなに嬉しいことだなんて、知らなかった。




