16/44
第16話
「やっぱり、信じてみよう」。そう決めた次の日、私はいつもより少しだけ重い鞄を背負って学校へ向かった。中には、お気に入りの一冊が入っている。
教室で桜井くんに「おはよう」を言ったあと、私は震える手で、その本を差し出した。「あの……これ、よかったら。私がいちばん好きな本、なの」
声が裏返りそうになる。自分から何かを渡すなんて、私には勇気のいることだった。桜井くんは少し驚いた顔をして、それからぱっと表情を明るくした。「えっ、いいの? わざわざ持ってきてくれたんだ」
うん、とうなずくのが精一杯だった。それでも、彼が大事そうに両手で本を受け取ってくれたとき、心の奥が、じんわりとあたたかくなった。
うん、とうなずくのが精一杯だった。それでも、彼が大事そうに両手で本を受け取ってくれたとき、心の奥が、じんわりとあたたかくなった。
「絶対読む。ありがとな、葉山さん」
絶対、という言葉が、まっすぐ胸に届く。席に戻ると、隣の蓮くんが窓の外を見たまま、小さくつぶやいた。「やるじゃん」。聞こえないふりをしたけれど、口元が、勝手にゆるんでしまうのを止められなかった。たった一冊の本が、私の世界を、また少しだけ広げてくれた気がした。




