皆でクリスマス・オマケ
夜遅くに帰宅した恭は、風呂に入って凍えた体を温めた。
自室に戻った恭が寝ようとしたタイミングで、あやめが枕を持ってやって来る。
「へへ~っ。今日はクリスマスだから一緒に寝よ」
「クリスマスじゃなくても、いつも一緒に寝てるだろ」
「じゃあ、逆に今日もいいってことだろ!」
姉はそう言うと強引に弟のベッドに潜り込んだ。
仕方なく恭も部屋を暗くしてベッドに入る。
「風呂上がりだからか、お前の体いつもより温かい。へへ~っ、ヌクヌク」
あやめは心地よさそうに、恭にギュッと身を寄せた。密着したせいか、恭はあることに気付く。
「なんか高そうな匂いがする」
いつもと違う匂いを指摘すると、姉は声を弾ませて自慢する。
「分かるか、この違い。テンちゃんにもらったボディクリームだ。高級なクリームを塗って、お姉ちゃん、お高い女になっちゃったぜ~」
「触らせる相手もいないくせに」
「じゃあ、お姉ちゃんのしっとり美肌、お前が触っていいぞ」
あやめはパジャマの袖をめくって恭に向けた。
「なんでお前の腕なんか触らなきゃいけないんだよ」
「このスペシャルな状態を誰にも知ってもらえないのは、もったいない気がして」
拒否するほどのことでもないかと考えた弟は、姉の肌に触れた。
「……まぁ、確かにいつもより気持ちいいかな」
「前にもらったトリートメントのお陰で今は髪もサラサラだぞ。撫でてよし!」
ずいっと頭を差し出すあやめに、恭は呆れ顔でツッコむ。
「『撫でてよし』じゃなくて『撫でてください』だろ」
「姉は決して弟にへりくだらねぇんだ! だから、おらっ! 撫でろっ!」
体ごと突っ込んで来るあやめに、恭は「いつも以上にウザい」と文句を言いつつ、
「撫でてやるから大人しく寝ろ」
と大きな手で小さな頭を撫でた。
あやめは「ひひっ、いい気持ち」と笑うと、
「おやすみ」
と恭の頬にチュッと口づける。
「……いつもキスする」
「いつもなんだから慣れろ~」
あやめはおどけるように言って目を閉じたが、その頬に柔らかな感触が触れる。
「なんだ、反撃か?」
目を開けると暗闇の中、弟が少し強張った顔で返す。
「違う。クリスマスだから」
「へ~? クリスマスだから特別にキスしてくれたの?」
「うるさい。もう寝ろ」
「へへっ、おやすみ」
「……おやすみ」
姉弟はお互いの体温を分け合うように身を寄せ合って寝た。
クリスマスの朝。
恭の部屋で目を覚ましたあやめは、顔のすぐ横に置かれたプレゼントに気付いた。
サンタを信じていた子どもの頃は、母がよく枕元にプレゼントを置いてくれた。けれどサンタの正体を知ってからは、その習慣もなくなっていた。
ベッドから出たあやめはダイニングに向かった。ちょうど1人で食後のコーヒーを飲んでいた恭に話しかける。
「これ、恭がくれたのか?」
「……知らん。俺じゃない」
そっぽを向く弟に、姉は呆れ顔で追及する。
「お前じゃなかったら誰だ? 母さんは昨日、直接プレゼントをくれたぞ」
「……クリスマスだし、サンタの仕業だと思うわ」
あり得ない嘘を吐いてまで、プレゼントをあげたと認めない恭を、あやめは「へ~?」と面白がる。
「これサンタさんがくれたのか? 中身お前があの時買ったマグカップとスプーンなのに?」
「……サンタはすごいから、そのくらいする」
あくまでサンタ説を唱える弟に、姉は思わず「ふふっ」と笑った。
実はプレゼントをもらった時、天華のことが頭をよぎったが、彼女に遠慮すれば今度は弟の気持ちを無下にしてしまう。
(コイツもサンタの仕業だと言っているし、ワンチャン私が18歳にして初めて『いい子認定』されたのかもしれないしな)
恭の嘘に乗ることにしたあやめは、
「じゃあ、そういうことにしとこう」
大事そうにマグカップを胸に抱くと、ほくほくと言葉を続ける。
「お姉ちゃん、いい子だから、サンタさんが来ちゃった。メッチャ嬉しいから、お前にも幸せのおすそ分けしてやる」
「理由つけてはキスすんな」
頬にキスされた恭が怒って振り向くと、
「……なんで口にもするんだよ」
と予期せぬ接触に目を見張った。
以前の事故チューと同様、偶然当たったのかと思いきや、
「お前だって昨日クリスマスだからってキスしただろ」
と堂々と言い返すあたり、今度はミスではないらしい。
「俺は頬だろ」
「お姉ちゃんは頬や額にはいつもしてるから! 普段しないところにした!」
高らかに言い放つ姉に、弟は小声で「……セクハラ」と言い返すのが精いっぱいだった。
「恨むなら朝から、お姉ちゃんを喜ばせたサンタさんを恨め~」
あやめはご機嫌に言うと、プレゼントを手にリビングを去った。




