皆でクリスマス・失恋
一方、天華を自宅まで送り届けることになった恭は――。
「あの、ありがとう。家まで送ってくれて」
「姉に言われたし、何かあったら困るので」
恭はやはり素っ気なかったが、聖夜に憧れの彼と2人で歩けるだけで天華の胸は高鳴った。
その幸福感は天華の心に燻っていた未練を刺激する。
(あやちゃんにはもう狙わんって言ったし、脈がないのも分かっとるけど、やっぱりタダで諦めるんは嫌や……)
その気持ちに突き動かされるように、天華は意を決して尋ねる。
「あ、あの、急なんだけど、八神君はどんな女の子が好き?」
「……なんでそんなことを聞くんですか?」
「うっ」
明らかに拒否的な反応。これ以上踏み込んでも怪我するだけかもと恐れつつ、天華は勇気を出して続ける。
「もうバレてるだろうから言っちゃうけど、八神君をいいなと思ってて、どんな子がタイプなのかなって」
「……タイプとか別に無いです」
「お、女の子に興味ない? 一度も好きになったこと無いの?」
天華の追及に、恭は煩わしそうに顔を歪めて突っぱねる。
「他人に自分の内心、話したくない」
「ゴ、ゴメンなさい」
反射的に拒絶したものの、天華を傷つけたことに、恭は罪悪感を覚えた。
「……俺もすみません」
その神妙な謝罪を聞いた天華は、
(やっぱりうちの気持ちは、八神君には迷惑みたいや)
と密かに胸を痛めながらも、今度こそ諦めようと決めた。
この気まずい空気の中、話を続けるのは躊躇われたが、天華は再び「あの」と切り出す。
「八神君のことはちゃんと諦めるから、あやちゃんとは友だちでいてもいいかな? 前にも言ったけど、あやちゃんは私の憧れの作家さんで、今日くれた栞もすごく嬉しくて、せっかく友だちになれたのに縁が切れたら嫌なん……」
これからもあやめといることを、恭への未練だと思われたら困る。
だからあやめのことは恭とは別に、本当に好きなのだと認めてもらいたかった。
疑われたらどうしようと天華は不安だったが、恭は静かに口を開くと、
「……アイツは昔から俺のせいで女子には妬まれるか利用されるかしかなくて、姉自身を好きだと言ってくれる人はすごく貴重だから、西条先輩が良ければ友だちでいてやってください」
と、礼儀正しく頭を下げた。
「あ、ありがとう」
天華はホッとしてお礼を言うと、改めてあやめの過去を思い熱く誓う。
「うち、絶対にあやちゃんを傷つけんから!」
「……どうでもいいけど、なんで関西弁?」
「実を言うと素は関西弁やねん! でも人には言わんといて! うちにもイメージってもんがあるんで!」
勢いで押し切ろうとする天華に、恭は「別に誰にも言わないけど」と返すと、
「作ったキャラより、そっちのほうがいいのに」
と何気なく呟いた。
その一言に、天華は「ほぁ……」と密かに心を打たれる。
しかし恭はやはり無愛想に、
「じゃあ、家着いたみたいなんで。ここで」
と言うと、返事も待たずにさっさと帰った。
すっかり恭の背中が遠くなったところで、天華は両手で顔を覆って、その場にしゃがみ込む。
「ああ~……最後にあんなん反則や~……」
恭と付き合うのは諦めたが、ときめかないことはしばらく無理そうだと悶えた。




