皆でクリスマス・帰り道
事前にあやめから「自分も思わず欲しくなるようなプレゼントだ」と聞いていた天華は、
「じゃあ、次は八神君が選んだプレゼントだね!」
とウキウキで開封した。ところがその中身に「……えっ?」と笑顔が消える。
突然動きを止めた友人を不思議に思ったあやめが、横からひょこっとプレゼントを覗き込む。
「なんだ!? 『湯めぐり夢紀行』って!? 前に選んだヤツと違くない!?」
ドラッグストアに売っていそうな温泉の素セットに、あやめは思わず叫んだ。
ショックを受ける女子たちをよそに、その元凶である恭は素っ気なく告げる。
「もしかしたら大田原が選ぶかもって、男女どちらでも良さそうなものに替えといた」
「す、すまない、八神。お前はそんなに配慮してくれていたのに……!」
男子たちが言い合う中。
この結果に責任を感じたあやめは、オロオロと天華に謝る。
「ゴ、ゴメンな、テンちゃん。私のせいで、なんかしょっぱいプレゼントになってしまって」
あやめも知らなかったようなので責めるつもりはないが、天華は普通にガッカリした。
けれど、すぐに我に返って自分を叱咤する。
(いやでも、ここであからさまに不満な顔をしたら、むっちゃ感じ悪いやん!)
そんなヒロインおるかい! と天華は内心の失望を隠し、理想の美少女として完璧な回答をする。
「う、ううん、全然! 冬だし、温泉の素セット、体が温まっていいと思う! 使わせてもらうね!」
恭にサンタコスを黙殺された上、プレゼントでも痛い目を見せられながら、それでも食らいつく天華に、
「偉いな、テンちゃん。乙女の鑑だぜ……」
と、あやめは少しほろりとした。
「じゃ、じゃあ、最後は恭君だね」
場の空気を変えようとほのかが促すと、恭は大田原が用意した小さな袋を開けた。
「お前が謝ってた意味が分かったわ」
中に入っていたのは、花を連ねたデザインの銀細工のバレッタだった。可憐で美しい髪飾りだが、どう見ても男向けではない。
大田原は両手で顔を覆って詫びる。
「うぅ、すまない。お前に全く配慮しないプレゼントを選んでしまって」
「別にいいけど」
恭は急に立ち上がると、ほのかにバレッタを差し出す。
「俺は絶対に使わないものなんで、秋津さんにあげます」
「えっ? どうして私?」
ほのかは恭に煙たがられている自覚があるので、プレゼントを回してくれたのが意外だった。
自分だけが長髪ならともかく、あやめは腰までのロングヘアで、天華は肩甲骨までのセミロングなのにと。
大田原の気持ちを言うわけにもいかない恭は、適当に誤魔化す。
「姉はこういうの付けないし、西条先輩と大田原は初対面だから、秋津さんがいいかと」
「すごく綺麗なバレッタだし、もらえたら嬉しいけど、大田原君には妹さんがいるんだよね? 恭君が要らないなら、妹さんにあげたほうが……」
しかし遠慮するほのかに、大田原はブンブンと手を振って返す。
「あっ、いや。妹はまだ小学生ですし、髪も短いので。ご迷惑でなければ、秋津先輩にもらっていただいたほうが」
「じゃあ、もらっちゃおうかな? ありがとう、2人とも」
素敵なバレッタだなと思っていたので、ほのかは心から喜んだ。
想い人にプレゼントを受け取ってもらえた大田原は、感動で涙目になりながら勢いよく恭を振り返る。
(ありがとう、八神~! 本当は秋津先輩に当たらないかなと買ってしまったんだ!)
(いいよ。俺こそ空気読めなくてゴメン)
小声で会話する男子たちをよそに、今度はあやめが友人たちに贈り物をする。
「じゃあ、最後に私から2人へこれ」
あやめから手の平サイズの袋を渡された2人は、喜ぶよりもやや戸惑う。
「えっ? 別にプレゼントを用意してくれてたん?」
「どうしよう。私、あやちゃんに何も用意してないのに」
恐縮する友人たちに、あやめはニコッと手を振る。
「安物だし気にしないでくれ。皆のためって言うか、私が3人でお揃いにしたかったんだ」
2人はさっそく、あやめにもらったプレゼントを開けた。
「わぁ、綺麗な栞!」
「これ、うちの栞の柄が花火なのって、もしかして……」
「そう。天の華だから花火のイメージ」
あやめの意図を知った天華は、それこそ花火のようにパッと笑う。
「メッチャ嬉しい! 毎日使うわ! ありがとう!」
事情を知らない大田原がいるので発言を控えたが、天華はこの栞をあやめの本を読む時の専用にしようと思った。
続いて、ほのかもウサギの栞を大事そうに抱き締めながら、満面の笑みで告げる。
「私もウサギが好きだから嬉しい! これ、ずっと大事にするね! ありがとう、あやちゃん!」
こうしてクリスマスパーティーは和やかに幕を閉じた。
パーティーが終わる頃には、すでに夜の9時を過ぎていた。
こんな時間に女の子を1人で帰らせるわけにはいかないので、恭は天華を、大田原はほのかを家まで送ることになった。
「ゴメンね、大田原君。遅いからって家まで送ってもらっちゃって」
「いえ、そんな。夜道は危ないから当然です」
「大田原君はいつも親切で礼儀正しいね。私は男の人が苦手なんだけど、大田原君とは不思議と話しやすいな」
八神姉弟の前ではよく暴走するほのかだが、それ以外は臆病なほど繊細で大人しい子だ。なまじ兄が穏やかで優しいせいで、よその男たちのガサツさが余計に恐ろしく感じる。
しかし大田原は見た目こそ厳ついものの、
「そ、そうですか? だとしたら嬉しいです……」
と、いつも控えめで紳士的なので、やはり怖いとは思わなかった。
そんなほのかの反応に、大田原は勇気を振り絞って切り出す。
「……あ、あの、ご迷惑かもしれないんですが」
「何?」
「れ、連絡先を交換していただけないでしょうか?」
「どうして?」
「あの、メッセージとかで日々の他愛ないことを、秋津先輩にご報告できたら嬉しいなと」
大田原はゴニョゴニョと不器用な好意を示したものの、
「す、すみません。やっぱり迷惑でしたら断ってください」
と途中で心が折れた。
これまで女子には見た目で疎まれることが多かった。そのせいで、ほのかの柔らかな微笑みが恐怖や嫌悪に歪んだらと怖かった。
しかし大田原の弱気とは裏腹に、
「ううん、全然いいよ」
と、ほのかはあっさり許可する。
見目の良し悪しよりも居心地の良さを大切にする彼女は、
「今まで男友だちがいなかったから、大田原君と仲良くなれて嬉しい」
と今は言葉どおり、この優しい後輩ともっと親しくなりたいと思っていた。
「あ、ありがとうございます!」
大田原は頬を染めて感謝すると、ほのかを自宅に送り届けた帰りに、
(やった! やったぁぁ!)
弾む心のままに冬の夜道を飛び跳ねた。




