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騙されて合同デート

 5月の上旬。恭の教室。


「ねぇねぇ、恭! ゴールデンウィークに俺たちと映画を見に行かない!? タダ券あるから奢りだよ!」


 陽太の誘いに、恭は首を傾げて問う。


「映画って何を見んの?」

「恭の好きなヤツでいいよ! 当日までに好きなの選んどいて!」


 陽太によれば、槇も一緒らしい。


 陽太と2人きりの外出は、うるさいので避けたい。でも槇も一緒なら、アイツが陽太の相手をするからいいか。


 恭はそんな考えから、陽太の誘いに乗った。


 ところが待ち合わせ場所に着いた恭は、あることに気付く。


「……なんで知らないヤツがいんの?」


 友人たち以外に、着飾った女子たちが3人。彼女たちも高校生で、いかにも異性を意識した服装をしていた。


 さっそく渋面になる恭に、陽太は「えへへ」と誤魔化し笑いで言う。


「実は今日は合同デートって言うか、この子たちと映画に行って、ご飯を食べて適当に遊ぶ予定。でも映画は嘘じゃないから! 今日の映画代は俺が奢るよ!」


 要するに合コンだと察した恭は「帰る」と秒で背を向けた。


「待ってぇぇ! イケメンを連れて来るからって約束で呼んだんだよぉぉ! 恭が帰ったら女の子たちも帰っちゃう!」


 全力で縋りつく陽太を、恭は冷たく見下ろしながら返す。


「俺がいなきゃ釣れねぇような女、どうせお前になびかねぇよ」

「それでもチャンスを、チャンスをください。恭がいつもどおりの塩対応をしたら、傷心の女の子がこっちに流れて来るかもしれないし!」

「だとしても、お前じゃなくて槇に行くと思う」


 眠そうな目の槇は顔立ちこそ普通だが、お洒落で話し上手の気遣い屋だ。恭ほどではないが、話しやすくて感じがいいと異性に人気がある。


 恭の容赦ない指摘に、陽太はショックで涙目になりながら槇を振り返る。


「槇、助けて! 恭が酷い!」

「まぁ、せっかく出て来たんだし、ちょっとくらい付き合ってやれよ。お前は特に女の子たちを気にしないで、俺たちと話してればいいって」


 恭としては、自分を騙した陽太は自業自得だが、槇を困らせるのは気が引ける。


「……じゃあ、今日は付き合うけど、こんな騙し討ちみたいな真似は二度とするなよ」

「うんうんっ、もうしないから! 今日だけ今日だけ!」


 それから一行は映画に行った。『恭の好みでいい』とのことだったが、女の子が一緒ではそうもいかない。結果、全く興味の無いラブストーリーを見る羽目になった。


 その後。ファミレスに入ると案の定、女の子たちの関心は恭に集中した。


「八神君って体格いいけど、何かやってるの?」

「空手とボクシング」


 最低限の受け答えしかしない恭の代わりに、陽太ががんばって盛り上げる。


「恭はすごいんだよ! 中学までやってた空手は全国大会で常勝無敗だし、高校から始めたボクシングは、今年の春の大会で準優勝だったんだ!」

「えっ!? それまで空手をやってたとしても、始めて1年のボクシングで、いきなり準優勝ってすごくない!?」


 驚く女の子たちに、槇がにこやかに補足する。


「そもそもスペックが高いのもあるけど、恭は真面目な努力家だから。部活だけじゃなく勉強もがんばってて、試験でもいつも学年で5位以内なんだ。塾も行ってないのに、すごいよな」


 自分の話題で盛り上がる彼らに、恭は『誰のための合コンだ』と顔をしかめて注意する。


「俺より陽太を褒めてやれよ」

「え~? 陽太君のことも知りたいけど、先に恭君の話をもっと聞きたいな」


 笑みを浮かべた女性陣の目が狩人のように光る。


 さり気なく苗字から名前呼びにシフトされたことに気付いた恭は、いっそう空気を凍らせる。


「……知らない人に名前で呼ばれるの好きじゃないんで、八神でお願いします」


 飛ばしたハートを瞬時に叩き落とすかのような塩対応に、女の子たちは、


「な、なぜ敬語?」


 と一瞬怯みながらも、なんとかアプローチを続ける。


「同年代なのに硬いよ~。もっと普通に話そうよ~」

「……だとしても八神で」


 難攻不落の要塞のような鉄壁の防御に、女子たちは攻めあぐねた。


 女の子たちが作戦タイムを兼ねてトイレに行っている間。席に残った男子たちも、恭の先ほどの対応について言及する。


「恭~! 頼むからもうちょっと愛想よくしてよ~! いくら恭がイケメンでも、こんなに無愛想じゃ女の子が帰っちゃうよ!」


 陽太の抗議に、恭は疲れた顔でぼやく。


「むしろ俺が帰りたい……。なんで知らない女と話さなきゃいけないんだ……」

「恭君や。はじめはみな知らない人なのだよ。社会は男だけで回ってるわけじゃないんだから、少しは女性との接し方も学んどいたほうがいいぞ」


 槇に諭された恭は少し考え直した。自分だって、いくら不本意でも場の空気を凍らせていいとは思っていない。


「でも集中攻撃されたくねぇ。陽太に彼女を作るのが目的なんだから、お前が率先してあの子たちと話せよ」


 恭の要請に、陽太はギャンと吠える。


「俺だってできるならそうしたいよ! でも仕方ないじゃん! あの子たちが知りたいのは俺じゃなくて恭の情報なんだよ! 仮に俺に興味を持ってくれたとしても、俺には人に語れるほどの長所は無い!」

「じゃあ、先に長所作れ」


 言い合う友人たちを眺めながら、槇は「道のりは険しいねぇ……」と苦笑いした。

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