穢れた合コンの戦利品
女子はともかく友人たちは振り切れず、恭は皆とゲームセンターに行った。
クレーンゲームの前で足を止める恭に、女の子が声をかける。
「八神君。もしかして、それ欲しいの?」
「いや、姉が好きなキャラだなって」
それは『なんか小さくて愛らしいヤツ』のミニマスコットだった。姉は主人公の友だちの猫を推している。
「お姉さんがいるんだ? どんな人?」
「俺の1つ上で……なりは小さいのに態度はデカくて、とんでもなくウザイ」
恭の説明に、女の子は「あはは」と笑いながら言う。
「なんか現実のお姉さんって漫画と違って、弟に横暴な人が多いらしいね。八神君のお姉さんも、そういうタイプなんだ?」
「まぁ、そんな感じ」
ようやくまともに会話できて嬉しくなった女の子は箱台を指して申し出る。
「八神君はこの中に好きなキャラいないの? 私、得意だから取ってあげるよ」
「本当に得意なのか? 難しくないか、これ」
「こう見えて、けっこうゲーセンに来るから。友だちのもよく取ってあげるんだ」
「じゃあ、俺が金を払うから、あれを取ってくれ」
恭が指したのは平和な笑顔の猫だった。
「あれって、お姉さんが好きなヤツ? 八神君も好きなの?」
「いや、俺は欲しいの無いから。母さんの趣味は分からないし、姉にやろうかなって」
「へ~。八神君って、ちょっと取っ付きにくいけど、本当は優しいんだ。分かった。お姉さんへのお土産、取ってあげるね」
家族想いの恭に好感を持った女の子は、張り切ってミニマスコットを取ってくれた。
「はい」
「ありがとう。すごいな、一発で取れるって。本当に得意なんだ」
恭の素直な賛辞に、彼女は頬を染めて笑いながら言う。
「もし良かったら、また取ってあげようか? 今度は八神君が欲しいの。また会った時とかに」
もしこれがドラマなら恋が始まる流れだったかもしれない。しかし恭は彼女に目も向けずに断る。
「いや、もう会わないだろうしいい」
「そ、そっかぁ……」
いい流れを容赦なくぶった切る恭に、女の子は完敗を悟って涙目になった。
ゲームセンターを出た後。恭は誰とも連絡先を交換せず、真っ直ぐ帰宅した。
恭は自室に戻る前に、あやめの部屋に寄った。
「ちょっといい?」
「ん? 何?」
ドアを開けたあやめに、恭は例のミニマスコットを差し出す。
「今日ゲーセン行ったから、やる」
「えっ? すごい。恭が取ったのか?」
「違う。今日一緒に遊んだ子が、クレーンゲームが得意だからって」
自分の手柄にするわけにもいかないと、恭は正直に説明した。
「子? 子って、もしかして女の子?」
「そうだけど」
不可解そうに返事する弟に、姉は急に「へ~?」と不機嫌になる。
「てっきり友だちと遊びに行ったのかと思ったら、今日は合コンだったのか? しかも合コン相手の子がくれたプレゼントを姉に回すとは。お前もすっかりヤリチンクソ野郎だな、恭君よ~」
いつものウザ絡みとは違う妙に攻撃的な態度。
予期せぬ反応に恭はムッとして言い返す。
「なんだよ、せっかくもらって来てやったのに。だいたい合コンじゃなくて、友だちに映画に誘われて行ったら、女もいただけだし」
「それあれだろ? 友だちはお前がイケメンだから、女の子を釣る道具にしたってことだろ? なんだ、その一軍扱い。私の弟のくせに自分だけリア充しやがって」
けっきょく何が問題なのか恭には不明だが、厚意に怒りで返されるのは腹が立つ。
「変な難癖つけるなら、それ返せよ」
恭は相手を黙らせるつもりで言ったが、
「いいぞ。穢れた合コンの戦利品なんて要らん」
と、あやめはあっさりお土産を返した。
恭はしばしの硬直の後、掠れた声で呟く。
「……お前が喜ぶかと思って、わざわざもらって来たのに」
弟を傷つけた姉は失言を悟って「あっ……」と青くなった。
「やっぱもらおっかな。そのキャラ好きだし」
慌てて言い繕うも時すでに遅く。
「いいよ、無理にもらわなくて。どうせ穢れた合コンの戦利品だしな」
恭は背を向けて拒絶すると、足早に自分の部屋に戻った。
あやめはすぐに、その後を追いかける。
「……おーい。恭君やーい」
「うるせぇ。入ってくんな」
背を向けたままこちらを見もしない弟に、姉は遠慮がちに謝る。
「……さっきは悪かったよ。せっかくお土産をくれたのに、ウザ絡みして」
「……女が居るなんて知らなかったし、別に彼女なんて欲しくない」
返事はしたものの顔を向けない恭に、あやめは再び神妙に口を開く。
「ヤリチン扱いして悪かったよ。ゴメンな。お前はなりが玄人風なだけで、本当はピカピカの童貞なのに」
「お前は殺されに来たのか?」
殺意とともに振り向いた弟に、姉は改めて謝罪する。
「マジで悪いと思ってるんだ。せっかく喜ばせようとしてくれたのに、素直に受け取らないで。傷つけてゴメン」
普段はムカつく姉だが、こういう時はなぁなぁにせず、ちゃんと謝ってくれる。
あやめの誠意を感じた恭は怒りが解けた。
「……いいけど、結局これはいるの? いらないの?」
「いる。好きなキャラだし、お前が出先で私を思い出してくれたの、嬉しいから」
笑顔で手を差し出す姉に、弟はムッとしながらも、
「……最初からそう言え。馬鹿」
とミニマスコットを渡した。




