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皆でクリスマス・準備

 12月上旬、八神家のリビング。


「恭~。今年のクリスマスは、うちにほーちゃんとテンちゃんを呼んでいいか?」


 お伺いを立てる姉に、弟は少し意外そうに問い返す。


「秋津さんはともかく西条先輩も呼ぶのか? ずいぶん仲良くなったんだな」

「私の作品を全推ししてくれてるだけあって、ものすごく気が合うんだわ。もう立派なマブダチよ」


 上機嫌のあやめを見ながら、恭は少し返答に迷った。


 あやめほどじゃないが、恭も異性は苦手なほうだ。本当は、ほのかが家に来るのも嫌だった。


 しかし天華は久しぶりに姉にできた貴重な友だちなので、このまま仲良くなって欲しい。


「じゃあ、呼べば? お前に友だちができるなんて滅多にないし」

「なんだったら、お前も友だちを呼んでいいぞ。ただし大田原君に限る」


 いきなりの勧めに、弟は怪訝な顔で返す。


「なんでお前が友だち呼ぶからって、俺も呼ばなきゃいけないんだよ?」


 八神家はいつもクリスマスを家族で過ごしていた。


 だから恭には友だちと過ごす気はなかったが、あやめはこう指摘する。


「お前がいいならいいけど、このままだとクリスマスは女4人に男1人になるぞ。それとも、お前もイブは他の友だちと遊ぶのか?」

「……いちおう大田原に聞いてみるわ」


 後日、恭はさっそく学校で大田原を誘った。


 大田原もいつもは家族とクリスマスを過ごしていたが、奥手なりにほのかと距離を縮めようと努力しているので、


「同年代の女子とクリスマスを過ごすのは初めてで緊張してしまうが、秋津先輩も来るなら頑張ってみようかな」


 と参加を決めた。


 クリスマスパーティーが正式に決まると、あやめは恭にこんな提案をした。


「へへ~っ、来たるクリスマスに向けて、交換用のプレゼントを買いに行こうぜ~」


 次の休日、姉弟は駅前のデパートに買い物に来た。


 上りのエスカレーター。恭は一段上に立っても尚小さいあやめの後頭部を見下ろしながら、何気なく話しかける。


「5人でプレゼント交換って、どうやんの?」

「5人でゲームして勝った順に、欲しいプレゼントを選べる。ハズレを作っちゃ可哀想だから、お前もいいのを選べよ」


 あやめの指図に、恭は面倒そうな顔で言う。


「だったら、お前が選べよ。女が欲しいもんなんて分からないし」

「将来彼女ができた時も『お姉ちゃん選んで~』って言うつもりか? よっぽど変だったら止めてやるから、今から見る目を養っとけ」


 あやめの意向で、姉弟はまず文具売り場を訪れた。


 可愛いメモ帳や付箋(ふせん)、綺麗な色のペンやレターセットなどが好きなあやめは目を輝かせて、あれこれ見て回る。


「おおっ、この(しおり)すごく綺麗!」


 あやめが食いついたのは、透かし彫りの金属製の栞だった。


「たくさん種類ある。しかも金と銀の2色ずつ。迷うな~」


 顔を輝かせて目移りする姉の後ろから、弟も栞を覗き込む。


「確かに綺麗だけど、1つ650円って、クリスマスプレゼントにしては安すぎないか?」


 恭の言うとおり、あやめも千円前後を目安に考えていたので、650円だと少し寂しい感じがする。


「もうこれはプレゼント交換とは無関係に、全員にお揃いで買おうかな?」

「プレゼント交換の意味」


 恭は呆れ顔でツッコんだが、あやめは小声でワッと叫ぶ。


「いいだろ! そんな高くないし! 友だち増えたの久しぶりだし、3人でお揃いにしたい!」

「好きにしろよ」


 同意を得た姉は嬉しそうに栞選びに戻ると、棚の前にしゃがんだまま後ろに立つ弟を見上げて尋ねる。


「ついでにお前にも買ってやろうか?」

「気に入ったからって無駄遣いすんな」

「弟へのプレゼントは無駄遣いじゃないやい」

「いいよ、本当に。本なんて読まないし」


 たまに読むことがあっても、前のページを見つければいいだけなので、栞が必要になることはなかった。


 けれど、どうしても弟に栞を買いたくなった姉は、こんな口実で迫る。


「いつか私の本を読んでくれるんだろ~? だったら栞の1枚くらい持っておけよ~」

「……分かったよ。勝手にしろ」


 それから、あやめは20分かけて全員分の栞を選んだ。


「よし、決めたぞ。天華って名前のテンちゃんには打ち上げ花火の栞で、ウサギ好きのほーちゃんには月夜を見上げるウサギの栞だ」

「お前のは?」


 弟の問いに、姉はドヤッと自分用の栞を見せる。


「お姉ちゃんのは手毬を転がす猫!」

「本当に猫が好きだな」

「お前はどうする?」

「……これでいい」


 恭が棚からスッと取った栞は、あやめと同じデザインで色違いのものだった。


「なんだ、お姉ちゃんと一緒じゃん。私が金で、お前が銀。お(そろ)中のお揃。10種類以上もあるのに、わざわざ同じのを選ぶなんて、そんなにお姉ちゃんが好きかよ~?」

「違う。この中なら猫がいいってだけ」


 友だちと弟に栞を買って満足したあやめは、交換用のプレゼント選びを再開した。


 文具屋から雑貨屋に移動し、しばらく物色した後。


「で、交換用のプレゼントは何にするんだ?」


 恭の質問に、あやめは笑顔で頭に葉っぱを乗せたタヌキのヌイグルミを手に取る。


「これにする! 畳むとヌイグルミになるブランケット!」

「男に当たることを全く考慮してない」

「いいじゃん。プレゼントは勝者が選ぶんだぞ。どうせ私のプレゼントを欲しがるのは、ほーちゃんかテンちゃんだから女子にウケればOK」


 あやめはお店の人にブランケットを包んでもらうと、恭を振り返って命じる。


「さぁ、次は恭の番だぞ。お前のセンスを見せてみろ」


 恭はしばらく1人で売り場を見て回ると、プレゼントを選んで戻って来た。


「……これとこれ」


 弟に品物を見せられた姉はパッと笑顔になる。


「おっ、いいじゃん。この黒猫のマグカップ。金のティースプーンも珍しいし、柄のところに星のワンポイントがあって可愛い。なんだよ~。意外と乙女心を分かってるじゃんか~」

「……じゃあ、これ買ってくるわ」


 会計を済ませた恭に、あやめは「へへっ」と笑って言う。


「お姉ちゃん、お前のプレゼントを狙っちゃおうかな」


 お世辞ではなく恭が選んだプレゼントは、あやめの好みにドンピシャだった。


 ところがプレゼントを欲しがる姉に、素直じゃない弟は無駄に反発する。


「お前にだけは渡さない」

「なんの意地悪?」

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