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献本を落としただけなのに・身バレ

 始業前の学校。あやめは屋上前の踊り場にほのかを連れ出し、あるものを手渡す。


「これ。記念すべき初作品が届いたから、ほーちゃんにあげる」


 それは、ようやく完成したあやめの受賞作だった。


「わー! すごい! ありがとう!」


 ほのかはホクホク顔で本を受け取ると、こう申し出る。


「後でお金を払うね。いくらだった?」

「いいよ。出版社から献本(けんぽん)だってタダでもらったヤツだから」

「献本! なんかプロっぽい!」


 我が事のようにはしゃぐ親友に、あやめは照れ隠しに「ひひっ」と笑う。


「その代わり、いつかほーちゃんの漫画が商業化したら、私にも献本を寄越すんだ」

「うんうん! 私もがんばるね!」


 中学からの友人であるあやめがデビューしたのは、同じくクリエイターを目指すほのかにとっても大きな励みだった。


 これからもお互い頑張ろうと誓い合う2人に、階段の下から声がかかる。


「八神さん、秋津さん。こんなところで何をしてるの?」


 それは『あやめと友だちになろう大作戦』実行中の天華だった。


 あやめは作家としてデビューしたことを、家族とほのか以外には隠している。


 そのため自作品の受け渡し現場を同級生に見られたことに、ほのかと一緒に「わっ!?」と驚いた。


「あっ、ゴメン。驚かせて」


 天華はなんでそんなに驚くのかと不思議がりながらも反射的に謝った。


 その足元に、ほのかが驚いた拍子に手放したあやめの本が落ちる。


 本を拾う天華を見て、あやめは咄嗟にヤバいと思ったが、


(いや、別に本を見ても私が書いたとは思わないか)


 と、すぐに考え直した。


 あやめたちは見るからにオタクなので、女性向けライトノベルを校内で貸し借りしていても、なんら不自然ではない。


 ところが表紙を見た天華は予想外の反応をする。


「……って、ええっ!? これ文猫(あやねこ)先生の本やない!?」


 さらに衝撃のあまり関西弁丸出しで、まくしたてる。


「嘘嘘嘘!? なんで!? 確かに受賞作が書籍化とコミカライズされるとは聞いとったけど、どっちもまだ発売されとらんはずなのに! うち夢を見てるん!?」


 大興奮の天華に、あやめは目を丸くして尋ねる。


「知ってるの、この本?」

「知っとるどころやない! うち、文猫先生の大ファンやねん! この本も指折り数えて待っとったのに、どうやって発売前に手に入れたん!? まさか2人のどっちかが先生の知り合い!?」


 天華は本を抱き締めて頬を紅潮させながら言った。


 その様子を見ると『文猫』のファンというのは嘘ではなさそうだ。


「ど、どうする? あやちゃん」

「うーん……」


 天華の言うとおり、この本はまだ一般には発売されていない。


 発売日まで知られているとなると、普通に買ったという言い訳は不可能だ。


 そうかといって自作品を意地悪な人間に知られれば、嘲笑のネタにされかねない。


 大ファンだと言ってくれる天華には悪いが、あやめはやはり自分が作者だと隠すことにした。


「実は親戚のお姉さんが文猫先生で、特別に献本を分けてもらったんだ」


 あやめの嘘に、天華は「はぇぇ!?」といっそう興奮する。


「文猫先生が親戚ってホンマにぃぃ!? 弟君といい八神さんの身内、豪華すぎん!?」


 いかにも正統派美少女といった外見にもかかわらずオーバーリアクションの天華に、あやめはやや圧倒されながらも話が広まらないように釘を刺す。


「そんな有名じゃないけど……万が一会いたいとかサインが欲しいとか言われても困るから、他の人には内緒にしてくれ」

「あ、会うのはともかくサインもダメなん? うち、ホンマに先生の大ファンで、作品全部大好きなんよ。好きな作品は他にもあるけど、作家推ししとんのはマジで文猫先生だけやねん……」


 天華はウルウルと、あやめに哀願した。


 一生懸命書いた作品をこんなに愛してもらえると、作者としてはやはり嬉しい。


 あやめは何かお礼がしたいなと、できる範囲で天華に報いようとする。


「う~ん。じゃあ、今度お姉ちゃんに聞いてみるわ」

「ホンマに!? ありがとう!」

「ところでさっきから関西弁だけど、もしかして本当は関西の人なの?」


 あやめの指摘に、天華は「ああっ!?」と我に返って口止めする。


「お、お願い、言わんといて。周りには関西人ってこと、秘密にしとるんよ」

「なんで? 関西弁可愛いのに」


 不思議がるあやめに、天華は大げさに嘆く。


「嫌や~。漫画やラノベのヒロインみたいに、上品で清楚なんがいい~」

「絶対そのキャラのほうが好感持てるけど」


 あやめの感想に、ほのかも「うんうん」と頷いた。


 しかし当の天華は難しい顔で否定する。


「言うて、それは女子受けの話やろ。うちは男にモテたいねん」


 学校一の美少女と名高い天華のゲスな本音を聞いたあやめは、


「清々しいほど正直だな。一気に好きになったぞ」


 と、かえって好感を持った。


 初めて笑顔を見せたあやめに、天華は素で喜ぶ。


「ホ、ホンマに? じゃあ、友だちになる?」

「友だちになるのはいいけど、恭との橋渡しはしないぞ」

「メッチャ狙いバレとる!」


 天華は一瞬ショックを受けるも、ウキウキと話を変える。


「でもそれはそれとして友だちにはなろ! 文猫先生の作品、友だちにも薦めとるんやけど、うちの周りあんま小説読まんねん。コミカライズを機に再布教するつもりなんやけど、現状、先生の話をできる子がおらんから八神さんが知っとってバリ嬉しい! 今日の夜、むっちゃ語ろ!」


 天華は想像以上に、文猫のガチファンらしい。


 このままでは自分も彼女と同等の熱量で自作品について語らされてしまうと、あやめは危惧した。


「……それはちょっと無理だわ」

「なんで!? 別に好きなキャラとか解釈が割れても、うち怒らんよ!?」

「いや、そうじゃなくて……」


 観念したあやめは気まずそうに目を逸らしながら、真実を告げる。


「実は私が文猫だから、自作品について語らされるのはちょっと……」

「……ふぇっ?」


 その夜、西城家。


 リビングのソファーで放心する姉を見かけた大雅は、目の前で手を振りながら尋ねる。


「天華ちゃん、どうしたん? 今日ずーっとボーッとしとるけど」

「今日すごいことが起こってん……。神に出会ってもうた……」

「誰? 神って」


 大雅が何気なく問うと、天華は急に大声で述べる。


「それはアンタにも言えん! ファンとして神の秘密は守らな!」

「なんや、その面倒臭いノリ。まぁ、トラブルとちゃうならええけど」

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