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凸凹姉弟、湯けむり旅・経緯

 秋の終わり。夕食中に、母はふと恭に尋ねた。


「今度の土日にあやめと温泉に行くけど、恭はどうする? 今なら予約、間に合うけど」


 以前デスティニーランドへの同行を恭に拒否された母は、こう宣言した。


『じゃあ、今度はあやめとお母さんだけで出かけちゃうんだから!』


 しかし可愛い息子を本気で置いていきたいはずがない。だから恭に「自分も一緒に行きたい」と言わせて、


『もうっ、普段はツンツンしてるくせに、本当は寂しがり屋なんだから!』


 というやり取りがしたかった。


 ところが、そんな企みを見抜いた恭は冷ややかに答える。


「俺は留守番してるから2人で行けば?」

「うわ~ん、息子が冷たい。ご馳走食べて温泉に入って、あやめといっぱい贅沢しちゃうんだから!」

「好きにしろよ……」


 ところが旅行の前日。


 急に体調を崩した同僚の代わりに、母が仕事に行くことになった。


「ゴメンね、あやめ。お母さんしか出られる人がいなくて、どうしても行かないといけないの」

「私はいいけど、母さんは残念だったね。休日出勤もそうだけど、ホテル、今からだとキャンセル料を取られるんじゃない?」

「そうなのよね。泊まらないのに、お金だけ払うなんてもったいない」


 母と娘で相談した結果、あやめは恭の部屋を訪ねて、こんな提案をした。


「俺とお前で旅行?」

「うん。キャンセル料がもったいないから、母さんが2人で行ったらどうかって。かなり急だけど、どうする?」


 家族だが、まだ高校生の2人は、子どもだけで泊まりがけの旅行をしたことはない。


「……お前は旅行に行きたいの?」

「そりゃ行きたいに決まってる。でもお前は全然乗り気じゃなかったし、かなり突然だから流石に無理強いできないかなって」


 恭としては母が鬱陶しかっただけで、旅行が嫌だったわけじゃない。


「……別に行ってもいいけど」

「えっ? 本当に?」

「だって部屋代がもったいないだろ」

「やった~。じゃあ、明日2人で行こうぜ」


 あやめはバンザイして喜ぶと、恭の部屋を出る前にしれっと頼む。


「さっそくだが、お姉ちゃん、初めての場所は苦手だから現地までのアクセス方法とか、お前が調べといてくれ」


 その一言で、弟は自分がトラブル解決要員であることを察した。


「やっぱ行くの、やめようかな」

「やだ! もう行くって決めた!」


 後日。2人は朝早く家を出て、バスや電車を乗り継いで箱根に到着した。


 結局道順を調べて先導してくれる恭に、あやめはらくらくとついて行く。


「おお~。母さんがとってくれたホテル、豪華だな~。学生だけでこんなところに泊まるなんて、なんか贅沢だな」


 チェックインも弟にしてもらい、部屋に入った姉は素敵な内装に歓声を上げる。


「わぁ、部屋も綺麗~……って、なんでベッドが1つなんだ?」


 ダブルベッドが1つ鎮座するだけの寝室を見て、あやめが首を傾げる。


 その後ろから寝室を覗いた恭も、不可解そうに疑問を口にする。


「母さん、お前とだからってダブルの部屋を頼んだのか?」


 あやめと母は仲良しだが、添い寝は小学生で卒業していた。


(でも、もしかしたらツインよりダブルのほうが安かったのかな?)


 そう考えたあやめは、母にスマホで確認する。


 ところが返信の内容はこうだった。


「母さんはちゃんとツインで予約したって」

「だとしたらホテルのミス? フロントに言ってツインに替えてもらうか?」


 ところが弟の提案を、姉はケロッと断る。


「別にいいじゃん、このままで。お前とは普段から一緒に寝てるし、ダブルならむしろいつもより広いだろ」

「今さらだけど、お前の距離感はおかしい」

「なんで? ダメ?」


 キョトンとするあやめから、恭は少し目を逸らして言う。


「別にダメではないけど……どっちのミスとか言い合うのも面倒だし、このままでいいか」

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