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天華の友だち大作戦・完敗

 あやめは天華とほのかを連れて部活中の恭を訪ねた。


「おーい。恭君、やーい」

「なんだよ。部活中に来んなって……誰?」


 姉の声に振り向いたら見知らぬ女子だったので、弟は困惑した。


「誰って、お前のお姉ちゃんだぞ。自分でも別人だとは思ったが、身内でも分からないレベルって相当だな」


 男だらけの部活へ突如現れた女子3人に、部員たちの視線と関心が一気に集まる。


「えっ、誰だ? 八神。その可愛い子、お前の知り合いか?」

「しかも西条さんまで一緒だし。本当にどういう関係?」


 人気投票トップだけあって、天華を知らない男子はいなかった。


 ところが肝心の恭は、姉のついでに天華をこう紹介する。


「こっちは姉で、そっちは知らない人です」

「し、知らない人!?」


 悪意ゼロで放たれた恭の率直な発言が、天華の心に突き刺さる中、


「マジで? 八神のお姉さんって、こんなに可愛かったんだ。あっ、どうも。俺、3年の遠藤です。八神のお姉さんってことは、同学年ですよね?」


 天華のヘアメイクによってお人形のようになった姉に、先輩は分かりやすくアプローチする。


「って、どうした、八神?」


 恭に肩を掴まれた先輩は目を丸くした。


「……ソイツは人見知りなんで構わないでください」


 けれど弟の注意に、部員たちはあらぬ方向に衝撃を受ける。


「こ、この見た目で人見知りだと?」

「穢れを知らない天使か……?」

「護ってあげたい……」


 これまで向けられたことがない種類の視線を浴びたあやめはダラダラと冷や汗を流して、


「きょ、恭~」


 と情けない声を上げて弟の後ろに隠れる。


「髪型とメイクだけで、こんなに周りの態度が変わるなんて逆に怖いぞ。助けてくれ……」

「言い寄られてビビるくらいなら化粧なんかすんな」


 言い合う姉弟を見て、


(ああ~! 天使に群がる男たちから、恭君があやちゃんを護ってる~! 知らない人扱いされた西条さんには気の毒だけど、いつもながらあやちゃん以外に全く興味ないところも最高に尊い! 美少女2人と違って私は完全に空気だけど、ついて来て良かった~!)


 と、ほのかは無言でこの状況を堪能した。


 そんなほのかをよそに、天華は男子の視線に畏縮(いしゅく)するあやめを宥める。


「そんなに怯えなくても、好意で言ってくれてるんだし。男子、別に怖くないよ?」

「やだ~! 見た目で寄って来るヤツなんてろくなもんじゃねぇ! 私は弟以外信じねぇ!」


 汚い言葉遣いでギャン吠えするあやめの姿に、部員たちはハッと我に返る。


「あっ、見た目は可愛いけど、中身は結構……」

「怯えさせてゴメンね。もう大丈夫だから」


 善良な彼らはあからさまな失望は見せずに、やんわり引いてくれた。


「良かったな。見た目が変わっても中身がアレなせいで、向こうから去ってくれて」


 恭の辛辣なコメントに、あやめは弟の背にしがみついたまま断言する。


「ほら、男なんてこんなもんよ。私のパーソナリティに耐えられるのはお前だけだ」

「俺だって耐えられてるわけじゃねぇ」


 あやめは恭を見上げると、小首を傾げて問う。


「ところでお姉ちゃん、可愛いか? いつもとどっちがいい?」


 今のあやめは見た目だけなら「て、天使?」と男子生徒を狂わせるレベルの美少女だ。


 しかし弟は忌々しそうに見下ろして言う。


「似合わねぇから二度とすんな」


 その後。部室を出たあやめは天華を振り返って切り出す。


「西条さんには悪いけど、アイツがいいと思わないならオシャレする意味ないわ。メイクを落として帰るから、クレンジングを貸してくれ」

「そんな。他の人たちは可愛いって言ってたのに。今の八神さんなら、すぐに彼氏ができるよ?」


 女は綺麗なほうが得という考えの天華は、善意でアドバイスした。


 ところがあやめは少しの迷いもなく、こう言い切る。


「見た目に寄って来る男なんて要らねぇ。なぜなら私にはブスでも相手をしてくれるイケメンの弟がいるからだ!」


 天華にクレンジングを借りたあやめはメイクを落として、さっさと下校した。


 その夜。西条家のリビング。


「ってことになって。ぶっちゃけ、ちょっと羨ましかったわ。あのお姉さんはオシャレとか頑張らんでも、八神君に構ってもらえるんやなって」

「言うて、八神のお姉ちゃんが構われるのは身内だからやろ。逆立ちしたって、それ以上の関係にはなれないんやから、羨む必要ないんちゃう?」


 大雅からすれば、恭があやめの化粧を嫌がるのは、弟にとって姉は女ではなく家族だからだ。恋愛対象ではないので、別に可愛くなくても構わないのだろう。恋人枠を狙う天華が、そんな気楽な関係を羨むのはおかしい。


 しかし大雅の指摘に、天華はこう返す。


「でも彼女のいない八神君にとって、いちばん近い女の子はお姉さんやん。ボクシング部の先輩に絡まれた時も八神君がすぐに庇って、めっちゃ羨ましかった~!」

「もう八神は諦めて別の男を探したらええんちゃう? 天華ちゃん、見た目だけならええ女やし、いくらでもええ男が見つかるやろ」


 弟の投げやりな助言に、姉はワッとクッションに顔を埋めて叫ぶ。


「見た目に寄って来る男なんて嫌や~! 簡単にはなびかん八神君やからええの~!」

「八神姉と同じこと言うとるやん。しかも中身を好きになろうにも、自分が本性を隠しとるくせに」


 容赦なくツッコむ大雅に、天華は「うっさいわ!」と怒鳴り返す。


「自分だって関西人やってこと、隠しとるくせに!」

「だって関西人やって明かした途端、どうしても三枚目キャラになるんやもん。あ~あ、生まれ変わったら八神みたいに、最初からクールな都会人になりたいわ~」

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