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天華の友だち大作戦・挑戦

 夜の西条家、大雅の部屋。


「八神君のお姉さんと友だちになろうと思うんや」


 キリッと宣言する姉に、弟はベッドに寝転んで雑誌を読みながら尋ねる。


「将を射んとすれば、まず馬をってこと? まぁ、あのお姉ちゃんを落とせば、八神の家に行くことも可能やしな」

「そう! あの姉弟はやたら異性へのガードが堅いけど、アンタが八神君に香水をあげることに成功したのと同様、同性には脇が甘くなるはずや! まずお姉さんを攻め落として、そっから八神家に乗り込むで~!」


 やる気満々の天華に対し、大雅はやる気の無い態度で指摘する。


「でも友だちになるにも、きっかけが必要やない? お姉ちゃんは全然、服にもメイクにも興味ない感じやったけど、何を通じて仲よくなるん?」

「逆に服にもメイクにも興味ない子なら『メイクしてあげるよ~』が話のきっかけになるやん。つーわけで、明日は八神君のお姉さんに突撃や!」


 翌日の休み時間、あやめの教室。


「八神さん、ちょっといい?」

「えっ、何? 急に」


 突然声をかけられてビクッとするあやめに、天華はにこやかに話を進める。


「この間はデスティニーランドで、ちょっと揉めちゃったから、ちゃんとお詫びしたくて。それに前から八神さんが気になってたんだ。せっかく可愛いのに、髪とかメイクとかしないのかなって。良かったら、ちょっといじらせてもらえない?」


 用意してきた口実をスラスラ述べる天華に、人見知りのあやめはそっと顔を逸らしながら返す。


「や、いいです……。髪とかメイクとか面倒なんで……」


 しかし固い決意でやって来た天華は強引に食らいつく。


「全然面倒じゃないよ! 私が全部やるから、八神さんはジッとしてるだけでいいし!」

「いやでもメイクって、メイク落としとかしなきゃならないんでしょ?」

「あっ、もしかしてクレンジングを持ってない?」

「母さんのがあると思うけど、わざわざ顔にベタベタしたものを塗りたくない……」


 何度かクレンジングオイルを使ったことがあるが、完全に洗い流すまでの油っぽさがあやめは苦手だった。


「したほうがいいよ、たまにはクレンジング! 化粧だけじゃなくて皮脂汚れも落ちるし!」


 押せ押せの天華に、あやめは「ほ、ほーちゃぁぁん……」と一緒にいた親友に縋りつく。


「キラキラインフルエンサーが、私を無理やり変えようとしてくる……」

「あっ、別に無理強いするつもりじゃなくて。嫌ならいいんだけど」


 ちょっと強引だったかと反省した天華だったが、代わりにほのかが勢いづく。


「いや、やったほうがいいよ! あやちゃん!」

「えっ!? なんで!? 髪とかメイクとか、ほーちゃんも苦手でしょ!?」


 驚くあやめに、ほのかは真っすぐな目で力強く言い切る。


「自分が求められるのは嫌だけど、あやちゃんの変身は見たいから!」

「愛ゆえの裏切り!」


 思わぬ味方を得た天華は再びあやめに迫る。


「ほら、お友だちもこう言っているし! たまには変身してみようよ!」

「うぉぉ、面倒臭い~!」


 あやめが見世物になるのは嫌だと拒んだので、メイクは放課後の空き教室ですることになった。


 放課後。天華はあやめにメイクすると、いつもはブラシで梳かすだけの栗色のロングヘアも、お嬢様風に可愛らしくアレンジした。


「ほら。そのままでも可愛いけど、こうしたら、もっとよくなるでしょ?」


 努力家の天華は何事にも手を抜かない。自分だけでなく人のヘアメイクをするのも好きなので、全力であやめを磨き上げた。


(メッチャ可愛くなったんちゃう!? やっぱ、うちって天才やな!)


 恭とお近づきになるという目的も忘れて、達成感に浸る天華の後ろから、ほのかが「わぁ!」と歓声を上げる。


「あやちゃん、すごい! 誘拐必至の可愛さだよ!」

「確かにすごいが、すごすぎて別人なんだが……」


 手鏡に映るあやめは華奢で小柄な体格も相まって、まるで天使かお人形のようだ。ただ天華のヘアメイクが整形級にすごいだけで、もとの面影はほぼない。


 ほのかは感動しているが、あやめとしては素の自分を全否定されたようで複雑だった。


「最初は違和感あるかもしれないけど、すぐに慣れるよ! 明日からこれで過ごせば人生変わるって!」


 人間モテてナンボと思っている天華は悪気なくイメチェンを勧めた。


 当のあやめは気乗りしない様子で「う~ん」と唸ると、


「じゃあ、ちょっと恭に見せて来る。いつもの私と、どっちがいいかって」


 と弟の意見を聞くことにした。


 恭はボクシング部の活動で、まだ学校にいる。さっそく会いに行こうと椅子から腰を上げると、


「あっ、弟君に会うなら私も行っていい?」


 と天華に呼び止められたあやめは「なんで?」と首を傾げた。


「や、だって作者としては、男子の感想が気になるなって」


 女子に利用され慣れているあやめは、天華の狙いが恭であることに気付いている。


 天華は名案だと思っているようだが、あやめにとってはよくあるやり口だ。過去にも自分を通じて弟に近づこうとした者は何人もいた。


 ただ今回は自分が頼んだわけではなくとも、ヘアメイクしてもらった恩がある。


「あー……まぁ、いいよ。一緒に来ても」


 あやめはヘアメイク代として、天華も連れて行くことにした。

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