遊園地・6
カートに乗った後。
2人はパークを移動中、ポップコーンを売るスタンドを見つけた。
「恭~。ポップコーン」
手を引いてねだる姉に、弟は仏頂面で言い返す。
「お前、絶対に食べ切れないだろ」
「だから『3分の1ぶんこ』してくれ。お金はお姉ちゃんが払うから」
「なんだよ? 3分の1ぶんこって」
不可解そうな顔をする恭に、あやめはニパッと笑って言う。
「私が3分の1食べて、残りをお前が食べる」
「小食の食べたがりって、本当に性質が悪い」
花火大会の時もそうだったが、あやめは人とシェアすることで、色んな種類を食べたいタイプだ。
母やほのかともシェアするが、いちばん食べ残しを押し付けられるのが恭である。
「いいじゃん~。お前はけっこう食べられるだろ~。ポップコーンとチュロスだけ~。後は迷惑かけないから~」
「甘いのばっか。まぁ、いいけど」
ポップコーンを買った2人は、近くのベンチに座った。
あやめは至福の表情でポップコーンを食べる。
「ミルクチョコポップコーンうま! 王道の塩もいいけど、映画館やテーマパークの甘いポップコーンはテンション上がるよな!」
「俺はしょっぱいほうがいい」
「お前が食えるなら、カレー味でも塩味でも買ってやるぞ」
「お前の残飯処理しなきゃいけないのに、そこまで入らない」
言葉は素っ気ないが、けっきょくあやめの面倒を見て、ワガママも聞いてくれる。
姉はニコニコと弟に手を伸ばして感謝する。
「いつも私の面倒を見てくれて、ありがと。変なヤツも追っ払ってくれて本当にいい弟」
「頭は撫でんでいい」
「じゃあ、代わりにあ~んしてやる」
笑顔でポップコーンを差し出すあやめに、恭は顔を歪める。
「それで喜ぶような仲か」
「へっへっへ。嫌ならチューにしてやろうか?」
「どんな脅迫だよ」
恭は疲れたようにツッコむと、
「……人前でチューはやめろ」
と暗に『あ~ん』を受け入れる。
「じゃあ、あ~ん」
再び口元に運ばれたポップコーンを、恭は渋々口にする。
「美味いか?」
「お前に食わされるんじゃ無ければ」
弟の塩対応に、姉は「へっへっへ!」とゲス顔ではしゃぐ。
「嫌がる顔がたまらねぇな! おらっ! お姉ちゃんのポップコーン、あと2、3口食え!」
「最早あ~んじゃないだろ、これ」
恭はぶつぶつ言いながらも、あやめの気が済むまで戯れに付き合った。
夜。姉弟は地元行きの高速バスから、マンションの最寄りのバス停に降りた。
バスから降りると、あやめはすぐに「あ~」と歩道に座り込む。
「ダメだ。お姉ちゃん、もう歩けねぇ。恭、おんぶ~」
「そう来ると思った」
恭は珍しく、さっさとあやめをおんぶした。
「意外とスムーズに乗せてくれる。今日は拒否しなくていいのか?」
「お前の体力ゴミなの知ってるから、この時間まで出歩いたら、こうなるだろうと思ってた。俺もさっさと帰りたいから、仕方なく運んでやる」
「へへ~っ。じゃあ、甘えちゃお」
あやめは恭の肩に、むにっと頬を寄せて甘えた。
マンションまでの帰り道。あやめは恭の背に揺られながら「なんかさー」と切り出す。
「何?」
「久しぶりの遊園地ですごく楽しかったけど、こうしてお前におんぶしてもらう帰り道が、いちばん幸せだな」
思いがけない姉の発言に、弟は少し返事に詰まる。
「……おんぶが幸せとか、子どもかよ」
「へへ~っ、いいだろ~? お姉ちゃん、お前より小さいから、年上なのにおんぶしてもらえるんだぜ~」
「俺はお前と違って子どもじゃないから、おんぶして欲しいなんて思わない」
「じゃあ、どういう時が幸せ?」
そう質問しつつも、恭のことだから素直に答えないだろうと、あやめは思っていた。
しかし弟は意外にも、
「……好きな人が笑ってる時」
とボソッと答えた。
「好きな人って? お前、好きな人いんの?」
「違う。仮定の話」
「へっへっへ。お前の初恋はいつになるかね?」
「お前がいる限り無理な気がする」
恭の返答に、あやめはハイテンションでおどける。
「なんでだ!? お姉ちゃんが可愛すぎて、他は目に入らないか!?」
「お前、他人には卑屈なくせに、なんで俺には自信満々なんだよ」
「そりゃお前がなんだかんだ私をおんぶしてくれる優しい弟だからだよ~」
あやめは恭の肩にギュッと抱きつくと、幸福そうに目を閉じて言う。
「だからお前の愛情だけは絶対的に信じてんの」
「……そんなもんない」
「ひひっ。ツンデレ、ツンデレ」
すぐにからかう姉に、弟はイラッとして返す。
「うるせぇ。道路に叩きつけるぞ」
流石にその脅し文句に、あやめはヒヤッとする。
「やめろ。そんなパワープレイしたら、お姉ちゃん死んじゃうだろ」
「じゃあ、もう黙れ」
「はーい」
【オマケの黒猫ポンチョ】
デスティニーランドに行ってから1週間。
休み時間の教室、恭はいつもの友人たちにポツリと切り出す。
「この間うちの姉がデスティニーランドで、アニマルポンチョってヤツを買ったんだけどさ」
「そう言えば、デスティニーランド、お姉さんと行ったんだっけ?」
「それでポンチョがどうしたって?」
陽太と槇に先を促された恭は話を続ける。
「アイツ、黒猫のポンチョが気に入ったみたいで、家でずっとそれ着てる」
「いいじゃん。お姉さん、小柄だから似合いそう」
ニコッと肯定する槇に続いて、
「SNSでも部屋着にしてるって人、多いみたいだしね」
と陽太も付け足す。
2人は「変な格好するな」という愚痴かと思い、あやめをフォローしたのだった。
しかし恭が言いたかったのは、格好のことではなかった。
「別に部屋着にするのはいいけど、アイツそれを着ると猫気分になるのか、人の膝に横から飛び込んで来て『撫でろ~。構え~』って、今まで以上にニャアニャアうるさいわ」
そう恭が口にした瞬間。
「ま、槇~!」
「なんだよ、いきなり」
とつぜん陽太が槇に抱きついたので、恭は怪訝な顔をした。
ちなみに陽太が槇に思わず縋りついた理由はこうだった。
「恭が愚痴に見せかけた自慢をして来る! 『うちの姉は猫みたいに可愛いんだぞ』って! 彼女どころか姉も妹もいない俺を馬鹿にしているんだ!」
予想もしない受け取り方をする陽太に、恭は呆れ顔で言い返す。
「そんなことしてねぇ。単に姉が猫化してウザいって愚痴だろうが」
ところが同席していた槇も、半笑いで陽太の見解に同意する。
「いや、お前は気づいてないかもしれないけど、『アイツそれを着ると猫気分になるのか~』の辺りから、ちょっとにやけてたぞ」
槇にまで言われた恭はバッと口元を隠しながら、
「……別ににやけてない」
と容疑を否認した。
しかし陽太は尚も怪しむ。
「じゃあ、猫耳ポンチョでニャアニャア甘えて来るお姉ちゃん、可愛くないって本当に言い切れる!?」
「言い切れるに決まってんだろ」
「じゃあ、恭のお姉ちゃんを俺に譲って! 俺なら喜んで可愛がるから!」
「……は? なんだよ、アイツを譲れって」
信じられない要求に、恭の眉間に殺意の皺が刻まれる。
しかし恐れを知らない陽太は勢いよく要求を続ける。
「だって本当に嫌なら、俺にくれてもいいはずでしょ!? 恭はウザさから解放されて、俺は猫みたいに可愛いお姉ちゃんができて、全員ハッピーじゃん!」
「姉を譲れってペットじゃねぇんだぞ。だいたいアイツは俺だから絡んで来るんであって、他の男には懐かないから絶対に無理だわ」
「じゃあ、せめて猫耳お姉ちゃんの可愛い動画を俺に送って? 妄想で凌ぐから」
「いい加減にしねぇと絞め殺すぞ」
恭に胸倉を掴まれた陽太は流石に怯えて泣き叫ぶ。
「うわ~ん!? だって恭が自慢するから!」
「だから愚痴で自慢じゃねぇ」




