遊園地・5
西条姉弟を撃破した2人は気を取り直して、どちらも楽しめるアトラクションに乗った。
けれど途中で、あやめはあることに気付く。
「やっぱり絶叫に乗りたい?」
「別に」
恭は否定したが、絶叫系の横を通る時、つい横目で見てしまう。あやめと違って恭は子どもの頃から速い乗り物や高いところが好きだ。
それを知っているあやめはデートじゃあるまいし、ずっと一緒にいる必要はないと別行動を提案する。
「乗りたいなら行っていいぞ。お前が絶叫マシンに乗ってる間、私は土産でも見てるから」
「1人でフラフラして迷子になったら、どうすんだよ?」
弟の懸念に、姉は心外そうに言う。
「お前の中の私、どんだけ子どもなんだ? 仮に迷子になったとしてもスマホがあるんだから、すぐに合流できるだろ」
「……だとしてもいい。一緒にいる」
頑なに離れようとしない恭に、あやめは不可解そうに首を捻ったが、すぐに閃く。
「ははーん。読めたぞ。お前、私を1人にしたら、ナンパされちゃうんじゃないかって心配なんだろ?」
「は? 誰がお前みたいな猫耳フード被って喜んでるガキをナンパするんだよ。声をかけてくるとしたら、子ども好きの変態くらいだろ」
「だとしても人目の多いところなら、別に何も起こらんだろ。お姉ちゃん、本当に大丈夫だから行って来い。せっかくテーマパークに来たのに、好きなの乗れないんじゃもったいないだろ」
あやめの勧めに、恭は不満顔で黙り込んだ。普段は反抗的な弟だが、こうして姉のために自分を後回しにする癖がある。
けれど、そんな健気な弟だからこそ、たまの遊園地を気兼ねなく楽しんで欲しくて、
「それとも片時も離れられないくらい、お姉ちゃんが心配?」
と、あやめはわざと意地悪な聞き方をした。
「……そんなわけない」
恭の性格上「うん」とは言えず、ようやく別行動を受け入れたが、
「そんなに言うなら乗って来るけど、なんかあったらすぐ呼べ」
と最後まで過保護な弟を、姉は「はいはい」と苦笑いで送り出した。
1人になったあやめは、母やほのかへのお土産を見ていた。
すると今度こそ偶然、
「あれ? 八神の姉ちゃんやない?」
と同じく友人やお世話になっている仕事関係者へのお土産を選んでいた西条姉弟に見つかった。
「ホンマや! どうしよ!? 八神君に怒られる!」
今回はわざとじゃなかったので、天華は焦って棚の後ろに隠れた。
同じく物陰に身を潜めた大雅が、あやめの周囲を見て気付く。
「いやでも八神のヤツ、おらんみたいやで」
「近くにおらんだけで、どっか別のところを見とるんちゃう?」
「店の中にはおらんっぽい」
大雅の言葉に、天華は首を傾げる。
「トイレにでも行っとるんやろか?」
「もしくは1人でアトラクションに乗っとるとか」
「あ~。さっきうちらも別行動したしな」
どうやら、あやめと恭は別行動しているらしいと西条姉弟は察した。
「これ、チャンスなんちゃう?」
「チャンスって何が?」
不可解そうに眉を寄せる大雅に、天華が詳細を話す。
「八神姉を落とすチャンスや。うちかアンタのどっちかあの子と仲良くなったら、八神君やって、うちらを邪険にできんやろ」
しかし天華のアイディアを、大雅は「ええ?」と困り顔で止める。
「それはマズいんちゃう? さっき付きまとうなって言われたばっかやのに」
「ここで会ったのは偶然やし、八神君と合流するまでに、お姉ちゃんを口説き落とせば、もううちらは姉の友だち。むげにはできんはずや!」
強く言い切る天華に、大雅は「う~ん」と迷った末に納得する。
「まぁ、そうか。八神と違って、お姉ちゃんは人見知りっぽいしな。少しチヤホヤしたら案外コロッとなびくかも」
「なっ、善は急げや。変な色気は出さんでええから、まずは友だちを目指そ!」
西条姉弟は人気者と親しくなれたら嬉しいと素直に思うタイプだ。なので自分たちに友愛を向けられて、嫌がる相手がいるとは全く思わなかった。
「八神さん」
いきなり声をかけられて、あやめはビクッとした。
「1人でどうしたの? 八神君は?」
親しげに距離を詰めて来る天華から、あやめはやや後ずさりしつつ答える。
「あっ、その、恭は1人で絶叫に乗りに……」
せめて天華だけなら良かったが、大雅も一緒だ。あやめは中学時代のトラウマから、モテそうな男は特に苦手なので、すっかり畏縮してしまった。
あやめのトラウマなど知るはずもない天華は、にこやかにアプローチを続ける。
「じゃあ、今は1人なんだ? それじゃ退屈でしょ? 八神君が戻って来るまで私たちと遊ぼうよ」
「な、なんでそんなに……? 付きまとわないって約束なのに……」
怯えた様子で尋ねるあやめに、天華は「いや!」と強めに訂正を試みる。
「ここで会ったのは本当に偶然だから! それに八神君は警戒してたけど、私たち本当に、ただ同じ学校の人と仲よくしたいだけだよ」
「そうそう。怖がらなくていいから、楽しく遊ぼうよ」
あやめが言葉に詰まっている隙に、西条姉弟は畳みかけるように言い寄る。
「そのポンチョも可愛いよね! 八神さん、小さくて可愛いから、本当に猫みたい!」
「ね~。思わず触りたくなる……」
大雅はこのくらいのスキンシップなら許されるだろうと、猫耳フード越しに、あやめの頭を撫でようと手を伸ばした。
しかし視覚の外から伸びて来た手にガシッと腕を掴まれる。
「ひぃっ!? 八神!?」
その手の先には、無言でブチ切れている恭がいた。
「な、なんでここに!? 1人で遊びに行ったんじゃ?」
震え上がる西条姉弟に、恭は殺気立った顔で言い返す。
「そっちこそ何、約束を破ってんだよ。付きまとうなって言っただろうが」
「いや、ここで会ったのは本当に偶然で……。お姉さん、1人で寂しいかなって……」
しどろもどろで言い訳する大雅の腕を、恭はギリッと握り締めながら命じる。
「偶然だろうが関わんなって言っただろ。いいからさっさと失せろ」
「わ、分かった! ゴメンなさい!」
恭が再び西条姉弟を追い払うと、
「きょ、恭~」
と、あやめは半泣きで弟に縋りついた。
「1人で大丈夫だって言ったくせに。何、絡まれてんだよ」
怖い顔で怒る弟に、姉はワッと言い訳する。
「そんなこと言われても! まさか、またアイツらが出て来るなんて思わんだろが!」
「どうでもいいけど、もう別行動禁止な。お前は本当に、他人には雑魚なんだから。外で1人になんな」
「でもそれじゃ、お前が絶叫乗れないじゃん……」
テーマパークは学生にとって、そう何度も来られる場所じゃない。あやめは自分のせいで、恭がせっかくの機会を失うのが可哀想だった。
しかし本人はムスッとした顔で答える。
「もう子どもじゃないし、大して絶叫好きじゃない」
「嘘つけ。速い乗り物、大好きなくせに」
「だとしても今日はいい」
恭はややムキになって返すと、あやめの手をしっかり握った。もう何を言われても放す気はないようだった。
「じゃあ、せめてカートでも乗る? お姉ちゃん、地面から離れなければ速くても平気」
「じゃあ、そういうのに乗ろう」




