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遊園地・4

 西条姉弟が2回目の襲撃を画策する中。


 あやめと恭はアトラクションに乗る前にショップを訪れていた。


「恭、これだ。ほーちゃんが言ってたアニマルポンチョ。もっとペラペラかと思ったら、意外と上質な手触りだぞ。触ってみ」


 姉は見本として飾ってあるポンチョを弟に差し出した。


「ああ。確かに手触りいいな」

「猫だけでも白、黒、グレーって3種類もある。首のところにリボンと鈴が付いてて可愛いな~」


 普段は手入れの楽さを優先してシンプルな服を選びがちなあやめだが、実は凝ったデザインも好きなので感心した。


「とりあえず試着したら?」


 恭に勧められたあやめは、その場でサッと黒猫ポンチョを羽織った。さらに猫耳フードを被ると、ニパッと笑って両腕を広げる。


「どうだ? お姉ちゃん、可愛いか?」

「買うなら、さっさと買え」

「待って。ウサギも着てみたい」


 ウサギは白、茶、パウダーピンクの3色展開だった。さっきは黒猫だったので、今度は白ウサギのポンチョを着てみる。


 しかし鏡を見たあやめは微妙な顔で首を傾げる。


「耳が長い分、主張が強いのかな? ウサギは流石に無いって分かったわ」


 ところが恭はなぜか軽く悶えながら、ポンチョを脱ごうとするあやめを止める。


「……まだ脱ぐな。写真を撮る」

「なんで?」


 目を丸くする姉に、弟はスマホを取り出しながら言う。


「母さんが見たがるかもしれないだろ」

「いきなり親孝行に目覚めたな。まぁ、でも確かに母さんは見たがるかも。じゃあ、撮ってくれ」


 学園祭では「不細工に撮る」と言われたせいで撮影を嫌がったあやめだが、今回は素直に写真を撮られた。


 恭が写真を送ると、すぐに母から返信が届く。


「母さん、なんだって?」


 あやめの問いに、恭は「ん」とスマホの画面を見せた。


 そこには、


『ポンチョ可愛い! お母さんもお揃いで欲しい!』


 と書かれていた。


「母さん、趣味が若いな。まぁ、母さんなら似合うだろうけど。お土産に買って行くか?」

「だとしても荷物になるし、帰りでいいだろ」

「じゃあ、今は自分の黒猫ポンチョだけ買って来るわ」


 黒猫ポンチョを買ったあやめは、さっそく身につけると「へへ~っ」と笑って、


「ドーン。お姉ちゃん、猫だぞ~」


 と着替えを待っていた恭に、体当たりするように抱き着いた。


「人前でくっつくな」


 恭に軽く押しのけられるも、あやめは腕をギュッとホールドして離れない。


「猫に人の世の道理は通じん」

「猫じゃない時も非常識だろ」


 ツッコんだものの、弟は姉をくっつけたまま話を変える。


「で、次はどこ行くんだ?」

「絶叫系とお化け屋敷以外ならどこでも」

「絶叫はともかく、なんでお化け屋敷もダメなんだよ。ホラー大好きなくせに」


 恭の問いに、あやめは純粋な眼差しで言い切る。


「お姉ちゃん、自分が怖い目に遭うのはやだ。安全地帯から他人の阿鼻叫喚(あびきょうかん)を眺めてぇんだ」

「性格最悪か」


 弟は反射的にツッコんだが、姉のこういう性格はいつものことなので、すぐにアトラクション選びに戻る。


「じゃあ、このリアル脱出ゲームは?」

「おっ、いいな。謎解きは好き。技術や体力が要求されそうなところだけ、お前がやってくれ」

「よし。じゃあ、行くか」


 八神姉弟はナチュラルに腕を組んだまま、アトラクションに向かった。


 その様子を遠くから見ていた西条姉弟は、呆気に取られて呟く。


「なんやラブラブやな、八神姉弟。お姉ちゃんも僕らが話しかけた時はガッチガチやったのに、弟には猫みたいに甘えてじゃれて……ああしとると、ちょっと可愛えけど」

「何? ホンマにお姉ちゃんが気に入ったん? やったら死ぬ気で奪えや! そうしたら空いた席に、うちが滑り込めるし!」

「そんな脇の甘い男には見えんけど……いつまでもストーカーしとってもしゃあないし、そろそろまた接触しよか」


 西条姉弟はこっそりあやめたちを尾行すると、また偶然を装って声をかけた。


「あっ、八神君たちも『廃墟からの脱出』に来たんだ~?」


 天華(てんか)の白々しい演技に、恭は無言で冷ややかな視線を返す。


「これって一定数の挑戦者が集まってからスタートするらしいよ。俺たち同じ組っぽいし、また会えたのも何かの縁ってことで、どっちが先に脱出するか勝負しない?」


 ところが大雅(たいが)の提案に、恭は意外にも、


「いいけど」


 と答えた。


「えっ、いいの!? 本当に!?」

「きょ、恭」


 まさかの返事に西条姉弟は逆に驚き、あやめは不安そうな顔をした。


 恭にはいつも横柄なあやめだが、大雅のように見目のいい男は、柴崎を思い出すので本当に苦手だ。


 しかし恭は、ただ仲良く遊ぶつもりで引き受けたのではなかった。


「その代わり俺たちが勝ったら、同じ学校だからって、いちいち絡んでくんな」

「うっ……」


 思わぬリスクを突きつけられ、西条姉弟は一瞬怯んだが、すぐに天華が食い下がる。


「じゃ、じゃあ、私たちが勝ったら一緒にパークを回って!」


 その提案に、恭は「分かった」と迷わず応じた。


「きょ、恭? 大丈夫なのか? そんな約束して」


 不安がるあやめに、恭は小声で答える。


「アイツらさっきの店でも、隠れてこっちの様子を見てた。せっかく遊びに来たのに、ずっと付きまとわれたんじゃ迷惑だろ」

「でももし負けたら」


 心配する姉に、恭はしれっと言い放つ。


「用事できたって言って帰ればいいだろ」


 珍しく狡猾な弟に、あやめは目を丸くする。


「お前けっこうあくどいな。確かに穏当に追い払うには勝つしかなさそうだけど、せっかくパークに来たのに秒で帰るなんて嫌だからな。この勝負、絶対に勝つぞ!」


 それから2組の姉弟は、それぞれの目的のために謎解きに挑んだ。


 その結果――。


「俺たちの勝ち」


 ファッションや流行にアンテナを張っている西条姉弟と違い、あやめたちはゲーム好きのオタクである。


 特にフリーゲームは推理要素を含むものが多いので、そもそも謎解きに慣れていた。


「う、うぐぅ……フィジカルだけじゃなく、頭も切れるとか反則やろ……」


 悔しがる大雅に、恭はキッパリと言い渡す。


「約束だから、もうついてくんな。偶然を装って顔を見せるのも無し」

「いやでも同じ場所にいるのに、全く顔を合わせないなんてことは……」


 食い下がる天華を、恭は容赦なく突き放す。


「できねぇなら今すぐ帰れ」

「お、鬼!」


 大雅は思わず叫んだが、恭に「あ?」と凄まれて、


「わ、分かった。もう会わないようにするから」


 と西条姉弟はすごすごと退散した。


 外敵がいなくなると、姉は弟の背中からニュッと顔を出す。


「へっへっへ。持つべきものはハッキリ物が言える弟だな」

「お前は他人に対しては、マジで役立たずだからな」

「なんだよ~。謎解きはがんばったろうが~」


 あやめは興味のあるなしが激しいので、学校の勉強は苦手だが、閃きと分析力に優れている。


 姉弟で知性の質が違うので、うまいこと協力してクリアできた。


 しかし恭は浮かない顔でぼやく。


「……謎解き面白かったのに。アイツらのせいで無駄に急かされて、すげー損した」


 『廃墟からの脱出』ではミニゲームをクリアするとヒントがもらえる仕組みだった。恭は西条姉弟に勝つために、ミニゲームにトライして、ヒント有りで謎を解いてしまった。


 ノーヒントで謎解きを楽しみたかったと悔しがる弟の肩を、姉は手を伸ばしてポンと叩いて励ます。


「まぁ、おかげで平和を手に入れたじゃん。気を取り直して遊ぼうぜ」

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